連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 81

指導者会の力で、被災地の元気を取り戻したい!

2012.10.24 UP

~東日本大震災後の地域復興に励む
亘理町B&G海洋センター、および同指導者会の取り組み~

地震と津波で未曾有の被害が発生した東日本大震災。いちご栽培が盛んな宮城県の亘理町は最大12.3mの津波に襲われ、多くの家屋とともに海洋センター艇庫も全壊してしまいました。 しかし、どうにか難を逃れた体育館は年明けまで救援物資の倉庫としてフル稼動。軽微な被害で済んだ上屋付きプールは、津波で甚大な被害を受けた小中学校の水泳授業を受け入れました。 また、被災した高齢者の健康を危惧した同海洋センター指導者会では、転倒・寝たきり予防プログラムを応用して移動運動教室を展開。いまでも仮設住宅の集会所を回って、多くの高齢者に体を動かすことの楽しさを提供し続けています。 「移動運動教室の実現は、指導者会で知恵を出し合った結果です」と語る、指導者会会長の佐々木利久さん。皆の力で艇庫も早く再建したいと、意欲を膨らませていました 。

プロフィール
●亘理町B&G海洋センター

昭和57年(1982年)開設。体育館、上屋付きプール、艇庫で構成。開設当初から小学校の授業に「海洋スポーツ体験学習」を導入するほか、幼児フロアリズム運動プログラムも長年にわたって展開。東日本大震災で艇庫が全壊したが、体育館を救援物資の倉庫として活用するほか、被災した小中学校に代わって上屋付きプールで水泳授業を実施。現在、町の復興計画のなかで艇庫の再建が検討されている。

●亘理町B&G海洋センター指導者会

平成22年に設立。現会員は11人。震災前は艇庫を利用した水上フェスティバルの開催に力を入れたが、震災後は町内の仮設住宅を回って高齢者対象の移動運動教室を実施。今年の夏には、艇庫がないもののプールを使って水上フェスティバルの再開にこぎつけた。

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第4話進む海洋センターの再興

体を動かして健康を守ろう!

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仮設住宅の集会所で移動運動教室を行う、海洋センター職員の藤倉さん。高齢者には単純な動作で体を動かすメニューが好まれているそうです


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移動運動教室の指導に励むスポーツ推進委員の髙野さん。「回をこなすごとに、参加者の笑顔が増えていきました」と語っていました


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教室が終わった後に開かれる、お茶会。参加者の皆さんは、「仲間同士でおしゃべりするのが楽しい」と口々に語っていました

 仮設住宅で暮らす人たちの健康管理を憂慮した指導者会。県や町が行った健康調査でも、仮設住宅に入った人たちが運動不足になりやすいことが指摘されました。

 「仮設住宅に入った後、ウォーキングをしている人の姿もありました。そこで、仮設住宅の周辺を歩くウォーキングマップを作成し、町の生涯学習課が広めていったところ、若い被災者を中心にウォーキングを楽しむ姿が増えていきました」

 問題は、高齢者に多い、なかなか外に出ようとしない人たちでした。こちらに関しては、前回述べたように海洋センター指導者会が移動運動教室を考案。B&G財団の転倒・寝たきり予防プログラムをベースに独自のメニューも織り交ぜていきました。

 「高齢者でも集中力が持続するように1時間ほどの短いプログラムにまとめ、その途中にレクリエーションも入れてリラックスできるように配慮しました。

 ただ、レクリエーションに関しては、参加者の好みもさまざまで、難しい動きがあるようなものは、『分からないからやめる』などと言う人も出てきてしまいます。

 そこで、『単純な動作で体を動かす』、『他人と触れ合う』、『声を出してコミュニケーションを取る』、といった3つの要素を上手に織り交ぜると、飽きないでついてきてくれました」

 また、教室の最後に『お茶の時間』を設け、ひと汗かいたお年寄りの皆さんに雑談を楽しむ時間を提供しました」

 移動運動教室は昨年の11月にスタート。海洋センター職員の藤倉さんを中心に、指導者会のメンバーが町内各地域にある仮設住宅地を週2回ずつ(現在は1回)巡回しながら参加を呼びかけていきました。

 「どの仮設住宅地でも、最初は数えるほどしか参加者が集まらず、ゼロのときもありました。ですから、『これでやっていけるだろうか』と不安になることもありましたが、回を重ねるごとに集まるお年寄りの数が増えていきました」

皆で街づくりを支えたい

 移動運動教室の参加者が増えていった理由は、「仮設住宅のなかでは運動しにくいので、教室で体を動かすと気分がスッキリする」、「広いところで体を動かすと、背筋が伸びて気持ちがいい」、そして「運動した後、皆でお茶を飲みながらおしゃべりするのが楽しい」といった評価が口コミで広まっていったためでした。

 「始めて3カ月も経つと10人、20人の参加者を集めて定着するようになったので、徐々に町のスポーツ推進委員の方々に教室の指導をバトンタッチしていきました。指導者会のメンバーのほとんどが現役の町職員なので、復興に併せて徐々に役場本来の仕事に戻っていかねばなりません。ですから、スポーツ推進委員の方々に協力していただいてとても助かっています」

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集会所には各地から届いたさまざまな応援メッセージが貼られていました。一日も早い復興を願うばかりです

 移動運動教室は無料のサービスではなく会費制を取っていますが、それでも人気が出て利用が増えていきました。こうしたなかで、指導者会ではマンネリ化を防ごうと、スポーツ推進委員の意見を交えて新規メニューの考案に努めていきました。

 「移動運動教室ができたのは、指導者会があったおかげです。指導者会のメンバーは、常々、海洋センター事業を通じて地域住民との直接的な関わりを数多く経験しており、子どもたちの指導もしてきました。その意識があったからこそ、震災から立ち直っていこうというときに一致団結して地域に目を向けることができたのだと思います」

 指導者会は、部署の垣根を越えて横の連携がしっかり取れていると語る会長の佐々木さん。そんな皆の力を結集し、いままで艇庫で実施していた水上フェスティバルを今年はプールを使って再開にこぎつけました。

 「指導者会にとって舟艇の活動はメインの事業ですから、早く艇庫を再建したいですね」

 現在、艇庫は町の総合的な復興計画のなかで新しい場所の検討が進められています。美しい鳥の海に子どもたちの歓声が舞うのも、そう遠い日のことではないでしょう。
※最終回に続きます(亘理町の斎藤邦男町長、岩城敏夫教育長の声をお届けします)。

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今年の夏にはプールを使って水上フェスティバルを再開した指導者会。取材の翌日にもプールでカヌー教室が実施されました

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イチゴの産地で知られる亘理町。被災した農家には、日本財団が協賛企業やNPO法人とともに立ち上げた復興支援が続けられています

写真提供:亘理町・亘理町B&G海洋センター