連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 76

クラブ同士の連携で広げた活動の輪(伊丹・兵庫編)


上:伊丹海洋クラブ
下:兵庫ジュニア海洋クラブ

~池と海の仲間が手を携えて、初心者から日本代表選手までを育成~
B&G伊丹海洋クラブ・B&G兵庫ジュニア海洋クラブの活動

全国でさまざまなB&G海洋クラブが活動していますが、今回はクラブ同士が手を携えることで大きな成果を上げている2つの事例に注目しました。最初にご紹介するのは、兵庫県伊丹市にある瑞ヶ池を拠点にしているB&G伊丹海洋クラブと芦屋の海を拠点にしているB&G兵庫ジュニア海洋クラブの連携です。

この2つのクラブはお互いの水面環境を有効に利用して、初心者や穏やかな池でヨットを楽しみたい子供たちは伊丹海洋クラブで活動、ヨットの大会に出たい子供たちは海に面した兵庫ジュニア海洋クラブで練習に励んでいます。

その結果、池でヨットを始めた子供たちのなかから、全日本選手権大会や世界選手権大会に行く選手が次々に誕生。全国的に注目されるようになりました。

※NO.77では、B&G池田海洋クラブとB&G高松海洋クラブの連携をご紹介します。

プロフィール
●B&G伊丹海洋クラブ
昭和55年(1980年)に設立。伊丹市内の瑞ケ池を拠点に盛んな活動を展開したことから、昭和57年にB&G財団が艇庫を建設。昭和59年に開設した兵庫県立海洋体育館(芦屋マリンセンター)でも練習するようになり、その後、同体育館を拠点に誕生したB&G兵庫ジュニア海洋クラブと連携。現在、2つのクラブが池と海で活動を展開している。
●B&G兵庫ジュニア海洋クラブ
平成7年(1995年)、B&G伊丹海洋クラブの有志などが集まって、兵庫県セーリング連盟ジュニアヨットクラブを設立。B&G伊丹海洋クラブと連携しながら兵庫県立海洋体育館を拠点に活動を続け、平成23年にB&G兵庫ジュニア海洋クラブとして登録。平成9年にOP級ヨット日本代表を初めて輩出して以来、多くのトップセーラーを生んでいる。
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第4話いくつになっても海に出て欲しい

憧れを目標に変えよう!

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B&G兵庫ジュニア海洋クラブのエース、田中美紗樹さん。ナショナルチームのユニフォームに貼られた日の丸とJAPANのロゴは皆の憧れです


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取材当日は、さまざまなクラブの子供たちを集めて合同練習を実施していました。上手な子に刺激されて多くの子が腕を上げていきます

 「今度は、あの大会に出てみよう!」といった目標を持たせてあげることが継続の力となり、クラブの活性化につながると語る西村さん。B&G兵庫ジュニア海洋クラブの子供たちは、それぞれの目標に向かって練習に励んでいます。

 「クラブでは、田中美紗樹のようにナショナルチームのメンバーに選抜された子も、皆と一緒に練習しています。チームジャパンのユニフォームを着た子が走る姿は皆の憧れであり、共に練習していれば『自分もチームジャパンのユニフォームを着たい』という目標に変わっていきます」

 田中さんのような国内トップクラスの選手の背中を追いながら、自分のヨットを走らせるクラブの子供たち。「一緒に走りたい」、「なんとかついていきたい」と思って努力するなかで、知らないうちに皆のレベルも上がっていくそうです。

 「皆、美紗樹のような子にはどうしても勝てませんから、自分たちの腕はまだまだと思いがちですが、大会に出てみると本人が思っていた以上に良い成績を収めることがよくあります。トップクラスの子と練習していると、自分の実力が上がったことに、なかなか気がつかないのです」

 1人でも優秀な選手が育てば、その子につられる形でクラブ全体の力が高まっていくと語る西村さん。田中美紗樹さんをはじめ、オープンビック級ヨット世界選手権大会U-15クラスで銀メダルを獲得した木内宏治君や、2012ナショナルチーム選考会で上位に入ってOP級ヨット・アジア選手権大会への派遣が内定した西村宗至朗君など、現在、クラブにはトップレベルの選手が数名いて活気にあふれています。

普及も大きな目標

 トップレベルの選手を追って、練習に励むB&G兵庫ジュニア海洋クラブの子供たち。その一方、池を拠点にしているB&G伊丹海洋クラブでも、親たちがヨットやカヌーの普及という目標を立てて子供たちの活動を支えています。

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積極的にOPヨットの体験を広めているB&G伊丹海洋クラブ。学校のプールでも出前OPヨット教室を行っています

 「大会をめざすのも目標なら、普及に努めるのも目標です。B&G伊丹海洋クラブでは、子供たちが水面に出るときは常に複数の大人が見張りに立って見守っており、ヨットが上手になって大会に出たくなった子がいたらB&G兵庫ジュニア海洋クラブを勧めるなどして、ヨットの入り口としての機能を支えています」と、クラブ理事長の藤田雅義さんは語ります。

 池という、初心者に適した穏やかな水面を持つ同クラブ。活動の安全確保が充実していることから、75歳の高齢者も安心してヨットやカヌーを楽しんでいるそうです。

 「県内の猪名川町B&G海洋センターでも、OPヨットを出前して体験教室を実施しています。ここは屋内温水プールで利用者も多いことから、ロビーにOPヨットを飾ってもらってプール利用者にヨットをアピールしています」

 池でヨットに乗るのが怖い子でも、プールなら安心して乗ることができると語る藤田さん。プールの出前ヨットは普及効果が高いので、いろいろな場所で積極的に展開していきたいと述べました。

生涯スポーツをめざしたい

 プールの出前ヨットから世界選手権大会への参加まで、協力し合いながら幅広い活動を展開している2つの海洋クラブ。お互いに異なる活動をしているからこそ価値ある関係になっていると西村さんは指摘します。

 「2つのクラブが同じことをしたら、競争になってしまうかも知れません。同じではない環境を活かし、適材適所で対応することで、1つのクラブではできないことができるようになりました」

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B&G伊丹海洋クラブは大型ヨットを使ったクルージング体験も実施しています。さまざまな体験を通じてマリンスポーツの普及に努めています

 環境が違うクラブ同士こそ、協力し合うことで活動の幅を広めることができると語る西村さん。「同じ趣味だから一緒にやろう」より、「活動内容が異なるから協力し合ってみよう」という発想が大切だと述べました。

 「クラブの多くの子が、いろいろな大会をめざして練習していますが、ジュニアクラスであるOPヨットを卒業した後も、海に出続けて欲しいと思います。海に出れば必ず何らかの困難に当たりますから、自分で解決の道を探って乗り越えようと努力するはずです。その体験こそが人生に大切です」

 最終的な目標は生涯スポーツとしてヨットに親しむことだと語る西村さん。その貴重な体験を親子で共有しながら何歳になっても楽しめることがヨットのすばらしさであると、藤田さんが締めてくれました。(※伊丹・兵庫編・完)

写真提供:B&G伊丹海洋クラブ・B&G兵庫ジュニア海洋クラブ