2021.11.10 UP 第18回 B&G全国教育長会議

「誰一人取り残さない社会の実現に向けて~地域におけるSDGsへの取り組み~」をテーマに全国の教育長らが意見交換

日本財団助成事業

2021年11月9日(火)、笹川記念会館(東京都港区)で「第18回B&G全国教育長会議」を開催しました。全国40道府県124自治体の教育長ほか131名のご出席をいただき「誰一人取り残さない社会の実現に向けて~地域におけるSDGsへの取り組み~」をテーマに、コロナ禍で深刻化した支援を必要とする子どもへの対応や、SDGs教育のあり方などについて意見交換を行いました。

  • 会場(全景)

    会場(全景)

  • 主催者挨拶

    主催者挨拶

新たな正副会長を選任

B&G財団前田会長の主催者挨拶のあと、新たな正副会長の選任が諮られ、会長に千葉県成田市 関川義雄 教育長、副会長に大分県中津市 粟田英代 教育長、岡山県奈義町 和田潤司 教育長の3名が満場一致で選任されました。

  • 会長 千葉県成田市 関川義雄 教育長

    会長 千葉県成田市 関川義雄 教育長

  • 副会長 大分県中津市 粟田英代 教育長

    副会長 大分県中津市 粟田英代 教育長

  • 副会長 岡山県奈義町 和田潤司 教育長

    副会長 岡山県奈義町 和田潤司 教育長

基調講演

地域とともに取り組むSDGs ~誰一人取り残さない子ども支援の仕組みづくり~

大阪府立大学 学長補佐・教授 山野則子 氏

  • 大阪府立大学 学長補佐・教授 山野則子 氏

  • 大阪府立大学 学長補佐・教授 山野則子 氏

コロナ禍で約9割の児童がストレスを抱え、学校への行きづらさを感じている児童も3割を超えるなど深刻化する子どもの現状と、経済的な困窮度が高い世帯ほど子どもの生活習慣や学力に問題があるという調査結果が示されました。

この対処として、山野教授の提唱する「すべての子どもを把握することができる学校でのスクリーニング」をお話しいただきました。学校でのスクリーニングは、担任だけでなく、教頭(生活指導)、保健師、スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラーなどのメンバーで、校内すべての子どもを確認し、リスクのある子どもを洗い出し適切な対応を行うシステムです。

「子どもが声をあげられず周囲が気づかない」「担任のみが問題を抱え込んでしまう」「身近な支援が認識されず必要な子どもに届かない」といった課題を解消する仕組みをつくり、子どもに安心を提供できる、誰一人取り残さない社会システムの実現を目指します。

スクリーニングを実践している教員からは「複数の視点が入ることで、学校での目に見える様子だけでなく、その向こうにある目に見えない家庭状況などへの配慮ができるようになった」「担任が気づいていなかった現状が、他の先生の質問によっておもてに出てくるのが良い」といった声が多く寄せられています。

学校と地域が連携して、支援の必要な子どもを支える新しい取り組みに、出席者も熱心に聞き入っていました。

トークセッション

地域・行政が協働する「まちづくり」と「ひとづくり」

大阪府立大学 学長補佐・教授 山野則子 氏
大阪府能勢町 教育長 加堂恵二 氏
大阪府能勢町 学校教育総務課 参事 川本重樹 氏

基調講演でお話しいただいた山野教授と、山野教授が開発した「学校による子どものスクリーニング YOSS(Yamano Osaka Screening System)」を平成30年度から導入している大阪府能勢町の加堂教育長、学校教育総務課川本参事によるトークセッション「地域・行政が協働する『まちづくり』と『ひとづくり』」が行われました。

初めに能勢町の概況説明と能勢町小中学校で行われたスクリーニング会議の様子,初年度の成果と課題が示されました。

これを基にトークセッションにより、実施の経緯、地域住民の反応、事業に携わった関係者の反応などを掘り下げていきました。

質疑では、福島県柳津町神田教育長から「経済状況などデリケートな家庭環境について学校が保護者に尋ねる際の反応」について質問がありました。山野教授は「保護者の拒否反応は当然の反応である。当事者の立場で共に改善を目指すことを理解してもらうことが必要。問題には学校からだけでなく多面的なアプローチを行う。」旨回答されました。

事例発表

信濃大町の水環境と「子ども第三の居場所」

長野県大町市 教育長 荒井今朝一 氏

長野県初のSDGs未来都市指定を受けた大町市は、豊かな水資源を基盤に発電用・灌漑用・飲用・生活用・環境用水として、古くから水を効率的に活用してきました。近年はアルピナウォーター、サントリー天然水など水を活用した地域ブランドが数多く創出されています。

水環境を活かした教育として、大町市B&G海洋センターでヨット・カヌー体験や、教育長自らが指導する小学校での水路と水環境の学習を行っています。

加えて、誰一人取り残さない子ども支援として、NPOと連携した「子ども第三の居場所 大町拠点」があり、市内の就学援助児童たちがこの拠点で学習・生活習慣を身につけるとともに、様々な体験活動を行っています。

学校のある日は放課後に来て、おやつを食べ、宿題をこなし、自由遊びや工作、調理手伝いをして、夕食をとり、歯磨き、お風呂、洗濯を自分たちで済ませて帰宅します。学校のない日は戸外で体験活動を行い、海洋センターでカヌー教室や川遊び、ジャガイモ・ブルーベリー栽培、調理教室を実施し、新しい学びへの興味・関心、意欲の向上につながる活動を行っています。

また大町市では個人データのやりとりなどがスムースにできるよう、子育て支援課、学校教育課の職員を兼任させて事業を進めています。また来年度以降はこの事業を制度化し、NPO法人に委託するかたちで運営していくことにしています。

長野県大町市 教育長 荒井今朝一 氏

菊池市におけるSDGsの取り組みについて

熊本県菊池市 教育長 音光寺以章 氏

今年5月にSDGs未来都市指定を受けた菊池市は、自然を守り、自然を活かした穏やかな発展を続けていく、安心・安全の「癒しの里きくち」の実現を目指しています。日本名水百選や森林浴百選、水源の森百選をはじめ6つの日本百選に選ばれた豊かな自然を活かして、市民協働による「まちづくり」プロジェクトを推進しています。

「かわまちづくりプロジェクト」は、大学等と連携し、市内の3つの河川を活用した市民参画による事業を行うことで、水辺の環境教育・環境保全につなげるとともに、海洋センターが主催する海レク体験・水辺の安全教室を実施し、体験を通じた自然・安全学習を行っています。また環境教育一環として、小学校でのホタルの育てる活動にも力を入れています。

「もりまちづくりプロジェクト」は、企業や市民による植樹活動などを推進し、中心市街地の空き地を活用した緑地化を行い、緑あふれる景観形成に努めています。「はなまちプロジェクト」は公園や沿道の空きスペースに市民が花を植えることで、地域コミュニティの活性化を図っています。

また、プラチナ社会(エコロジーで、資源の心配がなく、老若男女が全員参加、心もモノも豊かで、雇用がある社会)の実現に向け、中学生を対象に世界を舞台に活躍する講師陣による講義を実施し、次代を担うグローバル人材の育成にも力を入れています。

今後、B&G財団事業を活用した自然体験、環境教育に取り組むとともに、災害に強いまちづくりのため、海洋センターを拠点とした防災教育を推進していきたいと考えています。

熊本県菊池市 教育長 音光寺以章 氏

講演

持続可能な社会の創り手の育成に向けて ~ESDを取り巻く最近の動向~

文部科学省 国際統括官付ユネスコ協力官 新免寛啓 氏

ESDとは持続可能な社会の創り手を育むため、現代社会における地球規模の諸課題を自らに関わる問題として主体的に捉え、その解決に向け自分で考え、行動する力を身につけるとともに、新たな価値観や行動等の変容をもたらすための教育です。

ESDは持続可能な社会の創り手の育成を通じ、SDGsすべてのゴールの実現に寄与するものです。

学校教育においては、小学校から大学に至るまでのすべての教育段階において推進されており、新学習指導要領や第三期教育振興基本計画にもESDの目的である「持続可能な創り手の育成」が掲げられています。文部科学省および日本ユネスコ国内委員会は、国内に1,120校あり、世界最多の加盟校数を誇るユネスコスクールをESDの推進拠点と位置付け、活動に対する支援を行っています。

ESDを実践した加盟校の教員の活動調査では、「教科領域を超えて横断的に取り組み、カリキュラムを工夫するようになった」「教員が積極的に地域の方々と交流し、双方の信頼関係が深まった」「学校全体でESDに取り組む機運が高まった」という結果が約6割の学校で出ています。

また、社会教育においては、NPO法人など民間団体が行う体験活動等への助成を行う「子どもゆめ基金」事業の中で、今年度からSDGs達成に向けた活動支援やSDGsの実現に貢献するESDを紹介するページを新設し、様々な活動を助成できるよう内容を充実させており、ESD推進に向けて今後も幅広い支援を行っていくと説明されました。

文部科学省 国際統括官付ユネスコ協力官 新免寛啓 氏


会議の最後に、B&Gプランを推進する提言として、新たに「SDGs達成に向けた取り組みの推進」を追加することを出席者全員で確認し、全国教育長会議は盛会のうちに終了しました。

一、SDGs達成に向けた取り組みの推進
SDGsの達成に向け、学校教育、社会教育の両面から、海洋センターや各種財団 事業を積極的に活用し、持続可能な地域社会の創り手を育てよう