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転プロを活用して元気な町づくりに励む、愛媛県愛南町 1人あたりの医療費が県内一低い町が取り組む、高齢者の健康対策


注目の人
愛南町御荘
B&G海洋センター・クラブ
(愛媛県)


愛南町御荘B&G海洋センター・クラブ
平成5年(1993年)、上屋温水プール、および体育館を開設。その後、宝くじ助成によって艇庫を設置して海洋クラブの活動も開始。高齢者の健康対策に力を入れ、転プロをベースにした“オタッシャ教室”を展開。教室を卒業した多くの高齢者は、自主的にラケットテニスクラブやシニアシークラブ(ヨット、カヌー)などを通じてスポーツ活動を継続している。


 平成5年(1993年)、旧御荘町の中心部に開設した愛南町御荘B&G海洋センター。翌6年には、高齢化が進む地域の事情を踏まえつつ、一般利用の少ない平日昼間の有効活用をめざして、高齢者を主な対象にした独自の運動プログラム「健康体操コース」を考案。その後、“転倒・寝たきり予防プログラム”(転プロ:注参照)をベースにした“オタッシャ教室”を展開しながら、高齢者の健康促進に努めてきました。
  「現在、我が町の住民1人あたりの医療費(国民健康保険被保険者)は、県下の市町で最も低い額を示しています。因果関係を調べたわけではありませんが、海洋センターの活動が少なからず影響しているのではないかと思います」と語る清水雅文町長。今回は、施設の開設以来、高齢者の健康対策事業に力を入れてきた同海洋センターの取り組みについて、ご紹介いたします。

注)高齢者を対象にした転倒・寝たきり予防のための運動プログラム。B&G財団の運動ノウハウと、身体教育医学研究所(運営委員長:武藤芳照東京大学大学院教授)を中心とする研究グループが開発した「健脚度(R)」測定(商標登録第4752854)が活用されている。


第2話:オタッシャ教室の誕生

町役場の協力

写真:オタッシャ教室のオリエンテーションの様子
取材当日はオタッシャ教室のオリエンテーションが行われていました。3ヵ月の活動メニューの説明や身体測定などが行われました

 膝痛に悩む高齢者、尾崎さんのために、水中運動やフロア体操などのメニューを独自に考えながら、地道に指導を続けた稲住さんたち海洋センター・スタッフの皆さん。やがて、尾崎さんの膝の状態は改善されていき、自信をつけた稲住さんたちは地域の人たちを対象にした「健康体操コース」を考案し、広く参加を呼びかけていきました。

 こうした活動に、旧御荘町役場も賛同。公民館の車が高齢者の送迎に使用されるなど、町ぐるみで健康づくりが進められ、その後、“転倒・寝たきり予防プログラム”(転プロ:冒頭の注を参照)の導入によって、事業は更なる展開に移っていきました。

 「転プロの第1回研修会が平成15年に長野県で開催された際、私たちも参加させていただくことになりました。すでに私たちは健康体操コースを実施していたので、研修会の案内に大きな関心を寄せました」

 転プロは高齢者の健康に関する事業なので、研修会は日頃から高齢者の体調管理を行っている各自治体の保健師も参加することが条件でした。

 「このような事業は、保健部署との連携が大切です。私たちは、健康体操コースを通じて、そのことをよく知っていたので、さっそく町役場に相談しました」

 健康体操コースで実績を重ねていたことから、町役場の理解も早かったと振り返る稲住さん。保健師の参加はすぐに決まり、そのことが事業を展開していく上で大きな意味を持ちました。

数値評価で効果を実感

写真:オタッシャ教室で健脚度測定を行う高齢者の皆さん
オタッシャ教室で健脚度測定を行う高齢者の皆さん。数字で正しく評価されることは、運動を継続する上での励みになります

 長野県の研修会で稲住さんが一番感心したのは、転プロの柱ともいえる健脚度測定の活用でした(冒頭の注を参照)

 健脚度測定とは、高齢者に「自分の体(脚の状態)を知る」ことから「できること(暮らしの中で実践できる運動等)から始める」、この2点を実践してもらうために開発された測定で、「歩く」「またぐ」「昇って降りる」という3つの日常生活での移動動作を測定評価し、これに合わせ、転倒に関係の深いバランス能力を測定評価する「つぎ足歩行」を行います。

 この測定の主な特徴は、測定を受けた高齢者が結果を実感しやすいこと、そしてその測定・評価が学術的にも認められている点です。

 「私たちが続けていた健康体操コースでは、参加者自身の感覚によって体力が上がったとか脚力が増したなどと評価するだけに止まりがちでした。

 しかし、転プロの場合は健脚度測定で自分の能力を数値的に把握できるうえ、全国レベルでデータが揃っているので、自分がどれだけのところに位置しているのかも分かります。

 ですから、努力目標が立てやすいうえ、数値が良くなることで達成感や充実感を得るので、運動の継続にもつながります」

飽きない工夫が大切

写真:町の保健師さん
オタッシャ教室のオリエンテーションには町の保健師も来ていて、参加者の血圧測定や問診などを行っていました

写真:カヌーを楽しむ高齢者
オタッシャ教室では艇庫を利用したマリンスポーツ活動も取り入れており、教室を卒業した後も継続してカヌーを楽しむ高齢者の皆さんが大勢います

 研修会から戻った稲住さんたちスタッフは、さっそく転プロをベースに独自のメニューも加えた「オタッシャ教室」を考案。定員15名、期間3ヵ月の内容で展開していきました。

 「この事業の最大のテーマは“運動の継続”でした。オタッシャ教室をきっかけに、より多くの高齢者に体を動かすことの楽しさを知ってもらい、卒業後も健康のために何らかの運動を続けてもらいたいと思ったのです」

 運動を楽しむことで健康な高齢者が増えれば、それは町の医療費削減にもつながります。稲住さんたちは、共に研修会に参加した保健師と手を組んで積極的に高齢者の教室参加を呼びかけました。

 「保健師さんが、研修会を通じて転プロの良さを理解していたことが心強かったですね。オタッシャ教室が始まると保健師さんが町の高齢者名簿を出してくれたうえ、自らも地域の健診を通じて高齢者の皆さんに教室の参加を呼びかけてくれました」

 保健師による勧誘は大きかったと語る稲住さん。健診の際に、「オタッシャ教室で体を動かし、測定してもらうと良いですよ」と保健師に勧められると、多くの人がうなずいたそうです。

 「転プロの教室を1年がかりで組むケースもあるようですが、私たちは3ヵ月で区切りました。運動の継続がテーマですから、体を動かすことが面白くなってきたところで卒業してもらったほうが、効果があるのではないかと思ったからです。

 また、逆に3ヵ月の間に飽きられても困りますから、健脚度測定など基本的な要素を踏まえながら、町内に四国八十八箇所の縮小版コースを設定した『ミニ四国巡り』や町内最高峰の篠山(標高1,056m)への登山、艇庫を利用したマリンスポーツ体験など、いろいろな活動を織り交ぜました」

 健康体操コースの実績も手伝って、順調な滑り出しを見せた海洋センターのオタッシャ教室。初年度に実施された教室はいずれも満員で、その盛況ぶりは町村合併を迎えた翌年以降も続いていきました。(※続きます)