本文へ 財団法人ブルーシー・アンド・グリーンランド財団 サイトマップ
HOME B&G財団とは プレスリリース イベント情報 全国のB&G リンク集

「敬うべき自然、守るべき人の命」ウォーターセーフティー ニュージーランド専務理事 アラン・ミューラー氏のメッセージ


注目の人
WSNZ
アラン・ミューラー専務理事


WSNZ(ウォーターセーフティー ニュージーランド):国内の溺死事故をなくす目的に、行政・海事団体、企業など官民36団体によって、1949年に設立された共同事業体。運営資金はカジノやトトの売上げ、企業協賛金などから出資されており、警察や病院、サーフライフガードなどと連携しながら、溺死事故を防ぐ教育、啓蒙、調査研究活動を続けている。

アラン・ミューラー専務理事:1988年からWSNZに従事。構成諸団体の意見をまとめながら政府、教育機関等への働きかけに努めている。11歳でジュニア・サーフライフガードの活動を始め、サーファーとしても活躍。ラグビーにも精通しており、福岡市のラグビーチーム“SANIX”の指導も行っている。


 WSN(ウォーターセーフティー ニッポン/水の事故ゼロ運動推進協議会)の設立記者発表に同席するため、協力団体のWSNZ(ウォーターセーフティー ニュージーランド)を代表して、アラン・ミューラー専務理事が3月末に来日しました。
 氏は記者発表の席でWSNZが行っている事業を紹介すると共に、後日、B&G財団にて活動ノウハウに関する講演を行い、さらに「注目の人」のインタビューにも応じてくださいました。講演の内容を織り交ぜながら、インタビューで語ったミューラー氏のメッセージを連載で紹介いたします 。

第3話:人の一生と水との関係

詳細なフォーマット

WSNZでは加盟各団体の協力を得ながら、溺死事故記録のデータベース化を進めてきたそうですが、この作業は具体的にどのような流れで行われているのですか。

写真:穏やかな入江でカヌーの練習に励むニュージーランドの子どもたち
スロープ(斜路)のある穏やかな入江でカヌーの練習に励むニュージーランドの子どもたち。ここでは島国の長い海岸線を利用して、さまざまなマリンスポーツが楽しまれています

 昔から地域の病院、警察、コーストガードなどが個々に事故の記録を取っていましたが、どこかがその情報をまとめて一括管理することはありませんでした。そのため、1979年からWSNZが中心になって事故記録の一括管理を行うようになり、そこで得た情報を基に翌1980年からデータベース化が進められました。

 情報の収集に関しては、病院や警察などが個々に事故の記録を取る際、同時にWSNZが用意した共通フォーマットに必要事項を記入して送ってもらっています。近年では、インターネットを介してWSNZのサーバーに情報が蓄積されるので、それを私たちのスタッフがまとめて管理しながら分析作業を行っています。

 こうしたなかで、気になる事例が送られてきた場合は、その情報を手に私たちが現場に行って調査したり、事故に関わった人たちにヒアリングしたりしています。ですから、情報の一元化によってWSNZとその加盟団体とは非常にインタラクティブな(双方向的)関係を築くようになっていきました。

情報収集の基になる共通フォーマットは、どのような項目で構成されているのですか。

 これによってデータベースが構築されていくわけですから、50項目からなる非常に細かいチェックが用意されています。ちなみに事故の行動パターンに関しても、それが遊んでいるときに起きたものなのか、それとも家にいて起きたものかといった具体に、まずは大きなくくりから入ります。

 そして、遊んでいたときなら、その次に水泳中の事故とかプレジャーボートの乗船中に起きた事故などを選ぶ項目があり、プレジャーボートの事故でも、それがヨットなのかモーターボートなのか、あるいはカヌーのような人力船なのか6項目が用意されており、ヨットを選んだ後にも、それが小型ディンギーなのかエンジン付きのクルーザーなのかに分かれ、さらにそのクルーザーのサイズについても複数の項目から選ぶようになっています。

 同様に、泳いでいたときの項目についても、事故が起きた場所が海なのか川なのか、海でも岩場なのか浜辺なのか、沖なのかなどに分かれ、泳ぐ手段についてもスクーバダイビングなのか、シュノーケリングなのか、あるいは海水浴なのかなどに分類されます。

 家庭内の事故についても風呂場や庭での行水などのほか、トイレの項目もあります。実は、幼い子がトイレを覗いて頭から落ちて溺死することもあるのです。そのような事例を把握することで、「幼い子のいる家庭ではトレイに必ずフタをしてください」という注意勧告が生まれます。

データベースから見えてくるもの

データベース化を進めるなかで、どのようなことが把握できるようになりましたか。


写真:海に出る際の心得を熱心に聞くニュージーランドの子どもたち
地域のジュニアヨットクラブで海に出る際の心得を聞くニュージーランドの子どもたち。学校に上がる年齢になると、このようにして水辺の安全教育が施されていきます

 大きな視点で言えば、ニュージーランド人の人生と水との関わりがよく見えるようになりました。年齢を追って、そのことを簡単に説明しましょう。

 まずは、0歳から5歳までの間に起きる溺死事故が多いことに驚きます。この年齢では家にいる時間が圧倒的に多いので、水の事故は少ないだろうと思いがちですが、乳幼児、幼児は自分で自分の命を救う意識が薄く、親が目を離したとたん急にどこかに行ってしまう危険があります。

 そのため、先ほど紹介したトイレの事故をはじめ、風呂場や庭先での行水中に起きる悲劇が多いのです。0歳から5歳は、ニュージーランド人の人生のなかで溺死事故に遭う危険が最も多い最初の世代です。

 ところが、5歳から15歳になると急速に溺死事故が減少します。これは学校に通うようになって水の危険に関する教育を受けるからだと考えられます。ニュージーランドでは、学校はもとより、地域のスポーツクラブなどでも水の安全教育に力を入れています。

 また、ニュージーランドの15歳未満の子どもが外出するときは、原則的に大人と一緒でなければならないと定められているので、海や川にいくときはだいたい親と一緒です。そのため、かなり安全が確保されているのだと思います。

写真:スロープの順番を待つ親子
ヨットに乗るためスロープの順番を待つ親子。ニュージーランドの子どもたちが家から外に出る際は、基本的に大人と同伴であることが求められています

 その後、15歳から30歳にかけて、ふたたび事故率が上がります。第2の危険世代といえるでしょう。大人になるにつれて行動に自信が持てるようになり、過信が生まれやすいことが大きな原因で、男性の事故が多いのも特徴です。

 しかし、30歳以上になると事故率は急速に下がります。結婚や子育てに追われるようになり、それまで外に向かっていた関心が家庭内に向かうようになるからだと考えられます。

 その後、40から50歳代になると事故率が一時期上昇モードに入ります。子育てが落ち着いて自分の時間が持てるようになり、ふたたび海や川に足が向くようになるからでしょう。

 そして孫が生まれる50歳以降になると、関心が家庭に戻って事故率が下がりますが、近年、データベースを取り始めて以来の著しい変化が65歳以上のリタイア世代で見られるようになりました。昔なら夢にも思わなかった変化なので、とても驚いているところです。 ※続きます