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石狩川に花開いたカヌーの輪 〜全国屈指の艇庫利用率を誇る、滝川市B&G海洋センター(北海道)。山田健治 元副所長にお聞きした、その15年の活動経緯〜


北海道滝川市B&G海洋センター 山田健治元副所長注目の人
山田 健治さん


昭和17年(1942年)生まれ。滝川市役所に就職後、水道事業を経てスポーツセンター(市営体育館)に勤務。平成6年に海洋センター(艇庫)が設立されて間もなく、同センターへ異動。以後、カヌーを中心に各種マリンスポーツの普及事業に力を入れ、艇庫利用では全国1、2位を競う動員数を常に記録。平成21年3月をもって退職し、現在は後輩の指導に努めている。


 雄大な自然に囲まれた北海道中西部の都市、滝川市。市内には日本で3番目に長い石狩川が流れており、平成6年に海洋センター艇庫が開設されると、さっそく川面を利用したマリンスポーツの普及が図れました。
 その仕事に携わった山田健治さんは、同僚スタッフとともに努力を重ねてさまざまな事業を展開。寒冷地のため活動は5月から9月までに限られましたが、やがて全国でも1、2位を競う艇庫利用率を記録するようになっていきました。
 今回は、今年3月に仕事を勇退した山田さんに、これまで手掛けてきたさまざまな事業について振り返っていただきました。

最終話:スタッフ全員で支えあった15年

赴任時に考えたこと

地元写真家の目に止まった、山田さんが働く姿 地元写真家の目に止まった、山田さんが働く姿。その作品は、北海道高齢者生き活き写真展で入選し、北海道新聞に掲載されました(撮影:東 晴子さん)
 札幌の養護学校を皮切りに、滝川市B&G海洋センターは障害を持つ子や難病の子どもたちを積極的に受け入れていきました。

 「私たちは、けっして過去の経験に頼りませんでした。障害を持つ子や難病の子たちは、個々にいろいろな身体的、精神的事情を持っていますから、常にケース・バイ・ケースで対応しなければなりません」

 山田さんたちスタッフは、受け入れが決まった学校や団体と十分な打ち合わせをしながら、どのようなケースの子に、どのように対応したらいいのか事前に勉強していきました。

 「障害を持つ子の場合、それぞれの事情に応じて触れてはいけない体の部分があります。どこに力を入れてどのように支えてあげるべきかを事前に確認していたので、カヌー体験の当日に、付き添いの人から『なぜ、この子の支え方を知っているのですか』と驚かれることもありました」

 もともと、滝川市はノーマライゼーションに力を入れていることで知られていました。山田さんたちが積極的に養護学校や障害者団体を受け入れたのは、こうした考えに沿うものでした。

 「市がノーマライゼーションに力を入れていたので、海洋センターに勤めたとき、私は『自分はスポーツが得意だ。それなら、海洋センターという職場を通じて、スポーツが思うようにできない人のことを考えよう』という気持ちになりました。

 そんな思いが、札幌の養護学校を受け入れたことをきっかけに開花していったので、とてもうれしく思いました。試行錯誤の末、重度障害の子もカヌーに乗せることができるようになりましたが、そのときの充実感は例えようもありませんでした。カヌーに乗った本人や付き添いの親御さんの喜ぶ顔はいまでも忘れられません」

創意工夫で生まれる活気

北海道高齢者生き活き写真展で入選したショット 北海道高齢者生き活き写真展で入選した別のショット。ゴムボートを操船する真剣な表情がしっかり捉えられています(撮影:東 晴子さん)
 養護学校や障害者団体を対象にした事業が、15年にわたる海洋センター勤務のなかで一番印象深い仕事だったと振り返る山田さん。長い間、一緒に苦楽を共にしたスタッフには感謝し切れないそうです。

 「たいへんなことが多かったと思いますが、スタッフの誰もがこの仕事を十分に理解してくれていたので、安心して現場を指揮することができました。事務室の女性職員にしても、電話で問い合わせが来るたびに実にていねいに応対してくれたので助かりました。電話の対応力は、事業を伸ばすうえで大きな鍵を握ります。

 また、大勢の子が集まれば、言うことを聞かない子も出てきますが、そんなときにはこの職員が女性の声で母親のように叱ってくれました」

 少ない予算のなかで、看板やベンチなどを手作りで揃えていったスタッフたち。「予算がないからできない」ではなく、「予算がないのなら、皆で創意工夫してみよう」という発想が大事であると山田さんは語ります。なにか1つのことができれば、2つ3つとできるようになり、その積み重ねによって職場に活気が出てくるそうです。

新たな時代をめざして

滝川市B&G海洋センターの活動状況が載る広報誌 事業実績が高いため、滝川市B&G海洋センターの活動状況は頻繁に市の広報にレポートされています。写真の誌面では、“市長室からこんにちは”というコラムでカヌー活動の様子が紹介されています

 山田さんが海洋センターに赴任した当時は小学生だった海洋クラブの子どもたちも、いまではすっかり大人になりました。そんな教え子の姿を見かけることも、年を追うごとに楽しみのひとつになっていきました。

 「海洋クラブでは、B&G財団の理念に則ってルールやマナーを重んじていましたから、子どもたちは礼儀正しい大人に育ってくれました。いまでも、お盆休みなどで帰郷した際には、海洋センターに遊びに来て、あいさつしてくれます。

 また、事業実績で高い評価を受けているため、海洋センターでイベントがあるときは必ずといっていいほど市長や教育長があいさつに来てくれますが、その際、いつも、『海洋クラブの子どもたちは礼儀がいい』と褒めてもらっています」

現在の海洋センターを支えるスタッフの皆さん 現在の海洋センターを支えるスタッフの皆さん。山田さんに見守られながら、次世代の活動を担っています

 礼儀正しい大人になってくれた海洋クラブの子どもたち。このことをうれしく思っていた山田さんに、今年3月、仕事を引退するときがやってきました。

 「いつまでも『オレがいなければ!』などと思っていてはいけません。どんな仕事でも、引き際が大切です。もっとも、退職した後も現役時代と同じように朝5時に起きており、ときどき職場が気になって様子を見に行ったりしています」

 様子は見ても、現場には顔を出さないようにしているという山田さん。後輩たちの力を信じて、彼らに新たな時代を築いてもらいたいと願っているからだそうです。(※完)