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古瀬 浩史さん
1961年、東京都生まれ。大学で海洋生物学を学び、1980年代に東京湾沿岸域の生態系を研究。1988年から東京都の奥多摩ビジターセンターや山のふるさと村ビジターセンター、八丈ビジターセンターなどの自然公園施設にインタープリターとして勤務。現在は、(株)自然教育研究センター取締役として、環境教育やインタープリターの養成事業などに携わっている。
インタープリターの手法を手探りで学んでいった古瀬さん。1990年代に入ると当時の環境庁から声を掛けられ、インタープリターの資格制度について話し合う検討会のメンバーになりました。
「1990年頃からインタープリターを養成する事業が必要ではなかという声が出て、環境庁がその資格制度の検討を始めましたが、いろいろな経緯を経て当面は見送ることになりました。
ただし、資格制度はできなかったものの1992年から養成研修の事業が開始され、当時、私が立ち上げに参加していた自然教育研究センターと、環境教育事業に先進的に取り組んでいたキープ協会が、一緒になってこの事業を受け持つことになりました」
研修事業を始めるにあたり、その時点で全国の自然公園施設で働いているインタープリターの数は100名ほどではないかと考えていました。1回で30〜40名集めれば3回ほどの研修で済むはずでしたが、実際には参加希望者が後を絶たず、現在でも続けられているそうです。
その理由は、インタープリターを配置したいと考える施設が増えてきたことに加え、公共施設では自治体の職員が定期的に異動になるため、その都度、新人の研修が必要になるからでした。古瀬さんは事業の意外な展開に驚きましたが、ここから将来に向けた課題も見えてきました。
「施設のスタッフがすぐ辞めてしまい、その補充をしなければならないことも、研修参加者が後を絶たない理由の1つでした。公的施設の職員は別として、民間施設の職員や公的施設の運営管理を委託された民間企業・団体の職員の場合、あまり雇用条件がよくないため仕事が長続きしないケースが少なくないのです。経費節減が叫ばれる昨今、施設の運営管理費はなかなかアップしませんから、どうしても現場スタッフにしわ寄せが来やすいのです。これは、今から考えていかねばならない課題だと思います」
厳しい面もある現状だからこそ、インタープリターには、常に勉強し、スキルを磨いてプロとしての価値を高めていく努力が求められると、古瀬さん。どんな職業にも言えることですが、単に憧れの気持ちだけでできる仕事ではありません。
「会社勤めの人間関係に疲れたから、自然が相手の仕事に転職したいといって施設にやってくる人も少なくありませんが、インタープリターこそ人づきあいの仕事です。『自然が好き』という気持ちと同時に、『人が好き』という気持ちも必要な仕事です」
やりがいと厳しさが同居するインタープリターの仕事ですが、1990年代に入って当時の環境庁が関心を寄せ始めたように、その注目度は確実に高まってきています。
「学校での環境学習の機会にもなっている『総合的な学習の時間』については見直しの論議もありますが、地球温暖化問題などを通じてたくさんの学校が自然分野に対する教育の必要性を考えつつあります。ですから、今後はビジターセンターのような自然の中にある施設へのニーズはより高まっていくのではないかと思います。
また、そのような意味から、さまざまな自然体験活動の拠点として活用されている全国各地のB&G海洋センターも注目されるべきインフラだと思います。昨年、いくつかの海洋センターを視察させていただきましたが、施設もさることながら、マリンスポーツや野外活動のノウハウを備えたスタッフも大きな人的財産だと思いました。
私たちが行っているインタープリターの養成事業と、海洋性スポーツを主体としたB&Gの指導者養成事業の間には、多少の方向性の違いこそあれ自然体験活動というキーワードで意識を共有できる面もあります。環境教育の大切さが叫ばれる昨今、協力できる部分を模索しながらお互いに力を合わせていけたらいいなと思います」
さまざまな自然体験活動が織り込まれたB&G「体験クルーズ」は、まさに古瀬さんと意識を共有できるB&G財団の事業であると言えるでしょう。今年のクルーズでは古瀬さんも講師として乗船し、鳥島沖ではアホウドリの生態について解説していただく予定です。
「船上での観察は時間が限られ、子どもたちの数も多いので、少し解説の方法を工夫しようと思っていますが、鳥島が持っている興味深い自然のストーリーを子どもたちと共有できることを楽しみにしています。
実は、まだ私も鳥島を見たことがありません。なぜなら、定期船はこの場所を夜に通過してしまうからです。子どもたちには、チャータークルーズだからこそ見ることができる鳥島を思う存分目に焼きつけて、良い思い出にしてもらいたいですね。私も、今からワクワクしています」
親や学校の先生などでも、子どもたちに対してインタープリターの役割を担うことができると、古瀬さんは言います。
「子どもたちを連れて野山や海に行ったときは、ぜひインタープリターごっこをして楽しんでいただきたいと思います。プロのように豊富な知識がなくても、見たもの、触ったものに対して、いろいろな会話ができるのではないかと思います。動植物の名をどれだけ多く知っているかは、本質的な問題ではありません。
子どもから質問されて分からないことがあったら、『これは、なんだろうね? 帰ってから一緒に調べてみよう』といった投げかけでいいのです。そこから、1つのストーリーが生まれていくはずです。なにより、子どもたちと一緒になって面白がることが大切です」
親子でビジターセンターを訪れるようになった常連さんもいるそうです。お父さん、お母さんのインタープリターがどんどん増えていくことを、古瀬さんは大いに期待しているそうです。 (※完)