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生きる力を養い、地域の輪を広げる教育をめざしたい〜「水プロ」導入7年目、三重県伊賀市立大山田小学校の取り組み
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注目の人

伊賀市立大山田小学校/
伊賀市大山田B&G海洋センター



伊賀市立大山田小学校:
平成16年の市町村合併によって伊賀市が誕生したことを受けて、翌、平成17年4月に開校。地域や命を大切にする教育方針を掲げ、平成18年度から「水に賢い子どもを育む年間型活動プログラム」を4年生の「総合的な学習の時間」に導入している。
伊賀市大山田B&G海洋センター:
旧大山田村に昭和63年開設(体育館、プール、艇庫)。伊賀市政に移行した後も地域の社会体育事業を担う拠点になっており、公民館も隣接されている。


 現在、全国11カ所の小学校が「総合的な学習の時間」などを活用しながら授業に導入している「水に賢い子どもを育む年間型活動プログラム」。その一校、三重県伊賀市立大山田小学校では平成18年度から同プログラムを活用しながら自然体験活動、地域学習などに力を入れて成果を挙げています。
 今回は、プログラムの運用を支え続けている伊賀市大山田B&G海洋センター(伊賀市教育委員会)に事業の経緯をお聞きするとともに、導入の効果などについて大山田小学校の川端 清 校長先生にお話しいただきました。

最終話:目に見えない学力も養いたい
写真:伊賀市立大山田小学校 川端清校長

伊賀市立大山田小学校 川端清校長

 水プロに深い関心を寄せている大山田小学校の川端 清 校長先生。今年2月に東京で開催された第7回B&G全国教育長会議では、自ら壇上に立って同校の水プロ授業について事例報告を行ってくださいました。
 今回も、同校の授業に導入されて7年目を迎える水プロの効果について語っていただきます。

水プロが育む地域の輪

大山田小学校の水プロ授業では、子どもたちが川原で見つけた化石に関心を寄せ、同類のものが琵琶湖博物館にあることを知って、地元の川と琵琶湖とのつながりを探求していきました。当初は、水プロ授業が他県まで足を伸ばす展開になるとは思わなかったのではないでしょうか。

写真:第7回B&G全国教育長会議で、同校の水プロ授業について事例報告を行う川端 清校長先生
第7回B&G全国教育長会議で、同校の水プロ授業について事例報告を行う川端 清校長先生。1年間の授業内容が細かく説明されました

 水プロには、さまざまな発展性が備わっていると思います。化石を見つけた子どもたちが、いろいろな思いを巡らせて議論を交わしていきましたが、このように仲間とのコミュニケーションを深める力も水プロには秘められています。

 テレビゲームやインターネットの普及によって1人で遊ぶケースが増えたため、現代っ子の多くにはコミュニケーション能力の低下が見られると言われています。確かに、いまの子どもたちは昔のように外に出て群れて遊ぶことをなかなかしなくなりましたが、だからといって嘆いているだけでは前に進めません。水プロのように、「こんなことができるよ」といって場を設けてあげる工夫も必要なのだと思います。

 実際、私たちの水プロ授業では化石の謎を巡って子どもたちが意見を交わし、ごく自然にコミュニケーションの輪が広がっていきました。しかも、それは仲間とのつながりだけに止まりません。山に湧く水が自分たちの住む地域を流れ、やがては淀川という大きな川に入って大阪という大都会の人たちを潤していることを知り、下流で水を待つ人たちのために川をきれいにしようという大きな意味でのコミュニケーションを学んでいきました。

写真:水プロ授業のまとめ作業を行う子どもたち
水プロ授業のまとめ作業を行う子どもたち。皆が積極的に意見を交わします

 また、地域の環境を学ぶために、最初は役所の人や公共事業に携わる人たちなどに講師をお願いしていましたが、徐々に地元の文化や自然に詳しいボランティア講師を増やしていきました。地元の川をよく知るお年寄りと一緒に川原で動植物の観察を行うと、図鑑にはない説明を聞くこともよくあります。そこで、子どもたちは図鑑に出ている一般的な知識とは別に、地域ならではの生態系があることを学びます。

 しかも、こうしてボランティアの皆さんと接することで、子どもたちは人それぞれにいろいろな人生があることを学びます。ですから、地域の方々に講師をお願いする際には、「講義もさることながら、より多くの子どもたちと触れ合ってください」とお願いしています。そうすることで、地域全体に大きなコミュニケーションの輪が広がっていくのではないかと思います。

引き継がれる授業

水プロを導入している「総合的な学習の時間」は、初めて実施した7年前に比べて削減される傾向にありますが、そのようななかで今後どのような展開をめざしていきたいと考えていますか

 松尾芭蕉が語った、不易流行という言葉があります(物事には、変わらないもの「不易」と、時に応じて変わるもの「流行」があるという意味)。教育についても時代の流れで変化する部分もあるとは思いますが、教育の基本というものは時代に流されない「不易」なものであると思います。水プロはまさに「不易」の部分であり、教育の根本を成していると思います。自分の身は自分で守ることしかり、他人を思いやり地域社会を大切にすることしかり、人が世に出て生きていくうえで大切にしなければいけない基本的な教えが込められています。

 もちろん、いろいろな知識を積み重ねていく各教科の授業も大切です。これらが採点できる目に見える学力だとしたら、「不易」の学びは目に見えない学力であると言えるでしょう。人が成長していくためには、目に見える学力と目に見えない学力の両輪が必要です。知識を積み重ねる勉強も大切ですが、それと同じぐらい目に見えない学力を養うことも大切です。

写真:水プロ授業で学んだことをカルタにしたもので遊ぶ子どもたち
期末には3年生の後輩を集めて水プロ授業の引継ぎ会を行います。写真では、4年生の子どもたちが水プロ授業で学んだことをカルタに書いて、3年生に伝えています

写真:環境問題を取り上げた劇を行う子どもたち
環境問題を取り上げた劇を行う子どもたち。大勢の観客に水プロで学んだことを伝えます

 ですから、いくら時代に応じて教育方針が変わろうとも、水プロという「不易」の学びについはしっかりと行っていきたいと思います。「総合的な学習の時間」が減ったのであれば、たとえば社会見学の時間を水プロの内容に関連付けたり、理科の時間を使って動植物の観察をしたりしながら水プロを展開していきます。工夫をしながら教育課程とミックスしていく努力が大切です。

 また、現在は4年生の1年間だけに絞って水プロ授業を行っていますが、この1年間だけで終わりではありません。4年生の児童は、期末になると新たに4年生になる子どもたちを交えて学習の引継ぎ会を行っており、後輩たちにどんなことを水プロで行うかを教えることで、自分たちが1年間学んだことを整理しています。

 そして、こうした作業を通じて、水プロで学んだことを5年生以降でどう活かしていくかをそれぞれの子どもたちが考えるようにしています。いまは学芸会の劇で環境問題を取り上げたりしていますが、観劇後に地域の人たちが空き缶拾いに励むなど、子どもたちが発信してくれたことに多くの大人たちが応えてくれています。

 こうして、より多くの子どもたちが地域を大切にする心を養っていけば、大人になって都会に働きに出たとしても、お盆や正月の休みには帰郷して地域に触れ合い、定年後には地元に戻って地域を支えるといった大きな循環ができるのではないかと期待しています。水プロを授業に導入しながら、どこに行っても誇りに思える地域社会の創造をめざしていきたいと思います。(※完)