西山喬士さん:ボランティアリーダー
(元・井原市美星B&G海洋センター勤務) |
西山さんは体育大学を卒業した後、1年間、講師として中学校の体育授業を担当。その後、岡山県井原市美星B&G海洋センターに勤務することになりましたが、今年の4月からは中学校に戻ることが決まっていました。そのため、西山さんにとって今回のクルーズは海洋センターの仕事納めとして貴重な体験となりました。
「クルーズには小学生も参加するので、教師として中学生の面倒しかみたことのない自分にとっては良い経験になると思って参加しました。クルーズの生活は、リーダーが道しるべを作ってあげるものの、基本的には子ども同士が協力し合わなければ進まない形を取っています。
このような子どもの自主性を磨くことに重点をおいた方策は、とても勉強になりました。学校の体育授業も、教師は審判などの裏方に回って子どもたちの自主性に委ねる形が理想だと考えていましたので、大いに参考になったのです」
自主性に委ねるといっても、コミュニケーションがしっかり取られていなければ、バラバラな行動になってしまいます。海洋センターに勤務することで、さまざまな年齢層と接することの大切さを学んだという西山さんですが、そのなかで人とコミュニケーションを取る秘訣は、最初の挨拶にあることを知ったそうです。
まずは挨拶を通じ、打ち解けていった西山さんとメンバーたち |
「海洋センターで働き始めた当初は、施設を利用するいろいろな人と接しなければならないので戸惑いもありました。中学校の講師をしていたそれまでは、中学生の行動や考え方に的を絞っていましたから大きなギャップを感じたのです。
しかし、海洋センターでの経験を積むにしたがって、さまざまな年齢の人と言葉を交えることの大切さを知るようになり、人間のコミュニケーションの柱は、最初の挨拶にあると思うようになりました。しっかり挨拶を交わして相手の懐に入ることができれば、後はスムーズに事が進んでいくものです」
クルーズ初日、ふじ丸に乗り込んだときは多少の不安もあったという西山さんですが、結団式のリハーサルを通じて一気に安心感が増したそうです。
「B&G財団のスタッフの皆さんが、大きな声を出しながら子どもたちにしっかりと挨拶のしかたを教えてくれたので、『これなら行ける!』と実感することができました。クルーズでは挨拶が大切なのだということを知った子どもたちは、いろいろな場面で挨拶を交わすようになり、結果、皆がリズムよく船の生活に馴染んでいきました」

どんなときも目を離さず、見守ります |
ボランティアリーダーの仕事をしながら、西山さんがもっとも苦労したのは船酔いした子の世話でした。
「班の仲間に励まされ、なんとか体を動かして集合場所に向かう子もたくさんいましたが、なかにはベッドに倒れたまま動こうとしない子もいました。甘やかしてしまうと、その子はずっとベッドから起き上がれなくなってしまいますから、なんとか体を動かして集合場所に出てもらうよう、30分間もベッドの脇で説得したこともありました。揺れる狭い部屋のなかにいると、こちらも酔ってしまいますから、半ば自分を励ますような気分にもなりましたが、それが相手に伝わったのでしょうか、最後にはベッドから起き上がってくれました」
気分転換が第一と考えた西山さんは、終始、楽しい話題を相手に投げかけ、それに答えてもらうよう努めました。
「最初は、昨日までに体験した楽しい思い出話や、明日は何をして遊ぼうかといったポジティブな話題をもとに口を開いてもらいました。そして、楽しい話であればなんとか受け答えしてくれるので、本当に体が弱って動けなくなっているのではないと確信し、次になぜ集合場所に集まらなければいけないのか、時間をかけてゆっくりと説明していきました。そして最後に、『どうしても動けないのならここにいては良くならない。だから保健室に行って診てもらおう』と、自己判断を求めました。すると、その子はなんとかベッドから起き上がってくれ、私と一緒に集合場所に行くことができました」
その子が立ち上がったとき、西山さんは言いようのない達成感を得たそうです。
「私も船酔いしていたのでよく分かりましたが、その子は本当に辛かったのだと思います。船酔いすると、自分に対して甘えの部分が出てきますから、己の心と戦わなければなりません。その子の場合、最初のうちは戦いに負けてベッドから起き上がれないでいましたが、最後には自分への甘えに打ち勝つことができました。本当に、よくベッドから立ち上がってくれたと思います」
船酔いにも負けず元気いっぱいのメンバーと記念撮影! |
最近の子どもは軟弱なのではないか、最初はそんな気持ちもあったそうですが、大荒れの海で全員がホールに集まった最後の晩は、子どもたちが潜在的に持つ心の強さに感動したそうです。
「気持ちが悪くても集まってきたわけですから、子どもたちって、すごいな!と思いました。大人に甘えてしまう部分も確かにありますが、実は彼らには、やればできる強い力も備わっているのです。その力とは、知らない子同士が馴染みあいながら一緒に生活する力であり、船酔いしても皆が集まるのなら自分も行くという精神的な底力であったりするわけです」
子どもたちに秘められた力をいかに引き出してあげるか、それが教師を目指す自分のテーマであると、西山さんは痛感したそうです。
「今回の経験は、必ずや今後の教師生活に活きると思います」と西山さん。機会があったら、またクルーズに参加したいと、目を輝かせていました。
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