
■
いきなりやって来た役員面接/関 一人選手
大学の卒業が迫ると、関選手は中学時代に憧れたヨット実業団の名門、関東自動車工業(以後、関自工)への就職を希望しました。しかし、いくらヨットに理解のある会社だとはいえ、オリンピックをめざすことができる選手がいたら1人、2人を採用する程度で、毎年、必ず募集しているというものではありません。すでに、大学の仲間はいろいろな会社を回って就職活動に入っていましたが、その輪のなかに関選手の姿は見られませんでした。彼は関自工のコーチに直談判を試み、その返事をひたすら待っていたのです。
「ある日、明日来てほしいという旨の電話が関自工から届きました。直談判したコーチから、面接のときには必ず『私は自動車が好きです』とか『自動車に興味があります』といったように、会社の仕事に関心があるように話せとアドバイスされていたのですが、今日の明日ではとても面接で話す内容なんてまとめられません。また、電話を受けた際も、取りあえずあいさつに来いと言われているようなニュアンスにしか感じられませんでした。ところが会社を訪れてみると、いきなり役員面接をすると言われてビックリしてしまい、『なぜ、わが社に入りたいのか』と聞かれても、コーチのアドバイスなどすっかり忘れてしまって、『ヨットがしたいからです。ヨットに乗りたくて、子どもの頃から御社に入ることを決めていました』と、正直な気持ちで返答するのが精一杯でした。役員の方は一瞬、『エッ?』と声を上げましたが、次に『おもしろい!』と言ってくれ、すんなり就職が決まってしまいました。最初から役員面接だと聞いていたら、無理にでも自動車に絡んだ話をしたと思いますが、いま振り返れば、ぎこちない話をするよりもこのほうが自分にとっては良かったような気がします。でも、面接していただいた役員の方が、「なんだ、こいつは!」なんて思わず、本当に助かりました(笑)」
こうして関選手はオリンピックをめざせる選手として、晴れて関自工に入社することができ、日本屈指の実業団チームのなかで、さらにヨットの腕を磨いていくのでした。
|