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石狩川に花開いたカヌーの輪 〜全国屈指の艇庫利用率を誇る、滝川市B&G海洋センター(北海道)。山田健治 元副所長にお聞きした、その15年の活動経緯〜


北海道滝川市B&G海洋センター 山田健治元副所長注目の人
山田 健治さん


昭和17年(1942年)生まれ。滝川市役所に就職後、水道事業を経てスポーツセンター(市営体育館)に勤務。平成6年に海洋センター(艇庫)が設立されて間もなく、同センターへ異動。以後、カヌーを中心に各種マリンスポーツの普及事業に力を入れ、艇庫利用では全国1、2位を競う動員数を常に記録。平成21年3月をもって退職し、現在は後輩の指導に努めている。


 雄大な自然に囲まれた北海道中西部の都市、滝川市。市内には日本で3番目に長い石狩川が流れており、平成6年に海洋センター艇庫が開設されると、さっそく川面を利用したマリンスポーツの普及が図れました。
 その仕事に携わった山田健治さんは、同僚スタッフとともに努力を重ねてさまざまな事業を展開。寒冷地のため活動は5月から9月までに限られましたが、やがて全国でも1、2位を競う艇庫利用率を記録するようになっていきました。
 今回は、今年3月に仕事を勇退した山田さんに、これまで手掛けてきたさまざまな事業について振り返っていただきました。

第1話:寒い地域でもカヌーを楽しもう!

体験乗船会でマリンスポーツの認知度を向上

平成6年に開設された滝川市B&G海洋センター 平成6年に開設された滝川市B&G海洋センター。水のシーズンは5月初頭から9月末までと短いですが、多い年で年間1万8千人ほどの利用者で賑わいます
 長い間、滝川市役所で水道関係の業務に就いていた山田健治さん。根っからのスポーツ好きで、バドミントンやスケートなどの大会で活躍していたことから、50歳を過ぎたある日、市長から声を掛けられてスポーツ振興の仕事に携わるようになりました。

 「最初はスポーツセンター(市営体育館)に勤務しましたが、平成6年に海洋センターが開設されて間もなく、そちらへ異動しました。興味津々、50歳の手習いでボート免許を取ったら、『救難艇が運転できてちょうどいいから、海洋センターに行ってくれ』となったのです(笑)」

 海洋センター(艇庫のみ)の誘致は、日本で3番目に長い石狩川を利用して、寒い北海道でも何とかマリンスポーツを普及したいという、市民有志の強い要望によって実現したものでした。

 「マリンスポーツの普及に関しては市議会も大いに賛同してくれたので、海洋センター事業を何とか軌道に乗せたいと思いました。そこで、すでに海洋センターに赴任していたセンター育成士(現:アドバンストインストラクター)の長瀬文敬職員と知恵を出し合いながら、利用者の増大に着手していきました」

 当時の北海道では、寒い土地柄もあってマリンスポーツはさほど普及していませんでした。そのため、山田さんも長瀬さんも自ら足を使って営業を掛けなければ海洋センターに人は集まらないと考えました。

 「いくら立派な艇庫ができても、黙っていたら利用者は増えません。まず、パンフレットを作って周辺の学校を回りましたが、それだけでは説得力に欠きました。寒くて水辺で遊ぶ習慣の少ないことから、どの先生も『体験授業はいいが、水辺の活動は危険が多い』といって敬遠してしまうのです。なかには、生徒が乗る1艇ずつに救難スタッフを乗せて欲しいと言う先生もいました」

沈をした校長先生

常時、きれいに整備されている艇庫 常時、きれいに整備されている艇庫。寒さが厳しい土地柄ですが、市内を流れる石狩川を利用してマリンスポーツを楽しみたいという市民の願いによって建設されました
 山田さんたちは引き下がりませんでした。カヌーやヨットを危険に感じてしまうのは、それが身近な乗り物ではないからだと考え、人が多く集まるスポーツセンターなどにカヌーやヨットを持ち込んで展示説明会を行い、学校関係者を艇庫に招いて体験乗船会を実施するなどしてマリンスポーツの認知度を上げていきました。

 「どの先生も、単なるイメージでカヌーやヨットを危険に思っていただけでした。ですから、実際に自分で乗ってみて初めて、それが誤解であったことを理解してくれました。ただし、こちらにもそれなりの努力が必要でした。

 その1つが、手作りでまとめた安全マニュアルでした。体験乗船に訪れる先生たちに読んでもらい、その質問に答えながらコミュニケーションを取るようにしたのです。人間相手の仕事ですから、危険や不安を払拭するためには会話を重ねることが大切だと思いました」

 このような努力が実って、カヌーを体験授業などに使う学校が徐々に増えていきましたが、そんな矢先、ある中学校が体験授業でカヌーに乗りに来た際、ちょっとした事件が起きてしまいました。

 生徒に同行していた校長先生がカヌーに乗って川に出て、沈をして流されてしまったのです。あわてて現場に急行するスタッフたち。さすがの山田さんも少々不安に駆られたそうですが、当の校長先生は全身ずぶ濡れになりながら笑顔を見せてくれました。

 「あまりにも楽しそうに生徒たちがカヌーに乗っているで、校長先生も思わず川に出たそうです。沈をしましたが、『水に落ちてもライフジャケットを着ていれば大丈夫なんですね。それより、自分の力で水面を走る爽快感が忘れられません』という感想を述べてくださいました」

飛び込みの利用者も大歓迎

桟橋に用意された多数のカヌー 取材当日も午後から団体利用の予約が入っており、桟橋には多数のカヌーが用意されていました。ゆっくり流れる石狩川がゲレンデなので、初心者でも安心してマリンスポーツを楽しむことができます
 話には続きがありました。後日、この校長先生が道内の校長会で沈の体験談を披露。集まった他校の校長先生たちにカヌー体験のすばらしさを説いてくれたのです。

 「体験談に勝る説明はありません。このときの校長先生は、まさにカヌーの伝道師でした。これを機に、校長会に出席していた多くの校長先生がカヌーの体験授業を自分たちの学校に導入してくれるようになり、しだいに『カヌーは危険だ』というイメージが払拭されていきました」

 体験授業に出た引率の先生たちも、カヌーの普及に一役買ってくれるようになっていきました。カヌーに乗って喜ぶ生徒の顔を見た先生、自ら乗って爽快さを体験した先生などが別の学校に異動するたびに、今度はその学校の生徒を連れて来るようになったのです。

 「口コミの力は想像以上に大きく、しだいに海洋センターのスケジュールが学校の団体利用で埋まるようになっていきました。また、その一方で、一般の飛び込み客も積極的に受け入れていきました」

海洋センターの入口に立てられた手作りの案内標識 海洋センターの入口には手作りの案内標識が立てられており、飛び込みの一般利用者も常時、歓迎しています
 現在でも、海洋センターの入口には「初心者でも体験できます」という手作りの看板が掲げられていて、常時、飛び込みの利用者を受け付けています。団体利用に追われる日でも、なんとか時間を調整して対応しているそうです。

 「本来は30分単位ぐらいで対応しますが、忙しいときは理解を求めたうえで10分でもいいから乗せてあげるようにしています。ちょっと体験してみたいという人なら、10分でも乗れば満足してくれます。

 逆に、忙しいことを理由に飛び込みの利用者を断ったら、けっして良い評判は生まれません」

 団体利用が先生たちの口コミで広まっていったことを思えば、飛び込みの利用者もおろそかにはできませんでした。ただし、こうして利用者の数が増えるにつれ、仕事の現場ではいろいろな工夫が求められるようになっていきました。(※続きます)