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特集:海洋センターの活動を支える指導者会

必然的に生まれた指導者会

特集その1:建部町B&G海洋センター(岡山県)の取り組み

建部町B&G海洋センター  ■プロフィール
 

開設:昭和56年。施設:艇庫、体育館。運営管理:建部町教育委員会。現施設職員:正職員3名+臨時職員2名。指導者会発足:昭和55年。現会員数:約80名(半数が町職員、残り半数が教員や父母などのボランティア)。町を流れる旭川に艇庫を持ち、カヌーが盛ん。建部町は、平成17年度おかやま国体カヌー競技の会場にもなった。

 

 スポーツ健全育成の鍵は、よりよい指導者の確保にあると言われます。特に、マリンスポーツの場合は、初めて体験する人に教えるケースが多いので、充実した指導体制が求められます。
 そのため、地域海洋センターのなかには知恵を絞って十分な数の指導者を確保し、指導者会を組織しながら活発な活動を続けているところも少なくありません。
 今年度、B&G財団では「指導者会の設立」を促進しています。そこで、今回の注目の人では指導者会を組織している地域海洋センター3カ所にスポットを当て、会が発足した経緯や現在行っている活動内容などについて取材しました。


せめて2ヵ月はマリンスポーツを!
建部町B&G海洋センター外観
昭和56年に開設された建部町B&G海洋センター。清流で知られる旭川でカヌーの活動が盛んに行われています

 海洋センターの建設が決まった昭和55年、建部町では翌年のオープンに間に合うよう、2名の町職員をセンター育成士(現:アドバンスト・インストラクター)養成研修に派遣しました。
 ところが、施設の誘致に尽力した、当時、町の産業課課長だった古元凖一さんをはじめとするセンター関係者は、2名の指導者だけでは施設の運営が思うようにできないのではないかと懸念しました。

 「建物というハードが立派にできても、指導体制というソフト面がしっかりしていなければ意味がありません。オープンに備えて、十分な数の指導員がどうしても欲しいと思いました」

 しかし、カヌーやヨットを指導できる人は、町のどこを探してもいませんでした。実はセンターを誘致する際、町を流れる旭川の利用を巡って漁業者側から猛反対を受け、古元さんは県知事から「海洋センターを青少年の健全育成の場にしよう」というメッセージをもらって、必死に説得した経緯がありました。ですから、センターがオープンしても利用が少なければ面目が立ちません。

 なんとか指導者の数をそろえたい。そんな思いを巡らせるなかで、考えついたのが体協職員や各スポーツ団体を率いる指導者たちの存在でした。
スタッフの皆さん
建部町B&G海洋センター・クラブの運営を支えてきたスタッフの皆さん。左端が、同センターの誘致、開設に尽力した古元凖一さんです
 「彼らにマリンスポーツの指導もお願いしたらどうかなと思ったのですが、最初は色よい返事をもらうことができませんでした。マリンスポーツに興味はあるものの、現在受け持っているスポーツ種目だけで手一杯だというのです。そこで、『マリンスポーツは夏のスポーツだから、せめて1年のうちで夏の2ヵ月間だけでもカヌーやヨットに親しんでもらいたい』と説得しました。幸いなことに、暑い夏の間を避けるように活動を調整していた種目もあったため、なんとか理解を得ることができました」

 古元さんたちの呼びかけに応え、10名が2級育成士(現:リーダー)の資格を取得。センター育成士となって沖縄から戻った2名とともに、施設のオープンに備えました。

 「指導者の数がそろったところで、12名全員が集まっていろいろと協議を重ねました。山の中にある町が、どのようにしてマリンスポーツを推し進めていったらいいのか、知恵を出し合って考える必要があったのです」
 このような話し合いが、指導者会の始まりだったそうです。12名の指導者が結束して、海洋センターの誕生を迎えたのでした。



 常に必要な5名の指導者

 古元さんたちセンター関係者が、指導者の数にこだわったことには訳がありました。
 「ヨットやカヌーは自然相手のスポーツですから、うっかりすると命に関わるトラブルに見舞われます。建部町は山の中にあってマリンスポーツに馴染みのないところでしたから、できるだけ指導者の数を増やして安全に気を配りたかったのです」
活動の様子1
町内にある小中学校の先生方を対象にしたカヌー教室。
「水辺の活動推進セミナー」にも、毎年50名ほどの先生方が参加しているそうです

  基本的に、10名の指導者は別のスポーツの面倒もみなければなりません。ですから、古元さんたちは指導者会の創設メンバーとなった、正職員2名+10名の予備スタッフだけでは心もとないと考えました。
 「どんなときでも5名の指導者を配置させたかったので、もっと有資格者の数を増やしておく必要がありました。そこで目に止まったのは、中学校の先生方でした。まずは、2名の体育教師に2級育成士の資格を取って指導者会のメンバーになってもらい、これを足がかりに先生方の関心を高めていきました」

 こうして、人手が足りないときは指導者会のメンバーに声をかけ、都合のよい誰かにボランティアで手伝ってもらう仕組みができていきましたが、学校の先生が休日などにヨットやカヌーの指導をするようになると、つられるようにして生徒たちが海洋クラブに入るようになりました。
 「ヨットやカヌーにはスポーツとしての顔があるほか、自然と触れ合うレジャー的な要素もありますから、風や波と遊んでみようと女性教師たちにも積極的に声をかけました。すると、先生方が水面に繰り出す姿を見た父母たちの多くも、興味が湧いて海洋センターに足を運ぶようになっていきました」

 海洋センター・クラブを取り巻く人の輪は年を追うごとに大きくなり、気がついたら200名ほどの指導者や子どもたちで海洋クラブが賑わっていたそうです。

 


 一目置かれる指導者会メンバー

活動の様子2
県内の高校生を対象にしたカヌー教室の様子

 多くの人が海洋センター・クラブに足を運ぶ傍ら、町では毎年、数名の職員をセンター育成士の養成研修に派遣して、指導者の数を拡充。また、他のスポーツ団体指導者や学校の先生など、2級育成士の資格を取ったボランティア要員に対しても、極力、1級育成士(現:インストラクター)になってもらうよう呼びかけました。

 1級育成士の資格を取るためには、ボート免許の取得が1つの条件になっていますが、古元さんたちは自前でボート免許の講習を行っていきました。通常、ボート免許の取得には10万円近くの費用が必要ですが、町と交渉を重ね、1級育成士になるための講習ということで、町の予算が計上されました。

 「ボート免許の費用を含め、センター育成士や1級育成士になるための費用は町の予算をいただいております。最初は、町長さんなどから渋い顔をされましたが、『町長、子どもたちの健全育成に必要な経費を計上できなくて、どうするんですか。このようなお金を惜しんでいては、町の発展はあり得ません』と説得し、最後にはとても理解を示してくれました」

 海洋センター・クラブの活動が広がっていくなかで、センター育成士はもちろん1級育成士の資格を持つ人は周囲から頼られるようになっていき、役場のなかでも、この資格を持って指導者会に入っている職員は一目置かれる存在になっていったそうです。
 「海洋センター開設当初は、センター育成士養成研修の辞令が下ると、苦い顔をする職員もいましたが、何年かすると、自ら手を上げる職員の数が増えていきました。指導者会が組織的に落ち着いた現在でも、役場の新人たちを新任研修のように沖縄へ送り出しています。また、教育委員会では建部町の学校に赴任した教師すべてに、マリンスポーツを体験させています」

 首長や役場の理解は、とても大きな鍵を握ると古元さん。現在、指導者会に名を連ねるボランティア要員が指導にあたると、1日2,000円の謝金が用意されていますが、こうした予算も町の一般会計に組まれているそうです。
 次回は、このような指導者会の運営の仕組みや予算の使われ方などについて、ご紹介したいと思います。 (※続きます)



  続く 第2話 

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