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No.005:熊本県湯前町 鶴田 正已 町長 海洋センターを「多機能化」!インドアの人も集まる町のシンボルに!
2017.07.04 UP

プロフィール 鶴田 正已(つるだ まさみ)町長
昭和33年湯前町生まれ。
県立球磨農業高校(現南稜高校)卒。
昭和60年から5期20年、松村昭熊本県議秘書を務める。
平成19 年4月、湯前町長初当選。
平成23年4月に2期目の再選を果たし、平成27 年4月、同職へ再選(3期目)。
町の紹介  湯前町は、町制80年を迎え、熊本県の南部の球磨盆地に位置し、田園の中をローカル線がゆっくりと走るのどかな町です。湯前町には町出身の風刺漫画家である、故那須良輔氏の功績が保存された展示館、「湯前まんが美術館」(那須良輔記念館)や、おっぱいをかたどった飾り物を奉納しお参りをすれば、お乳の出が良くなると言われていることで有名な神社「潮神社」もあります。今回は湯前町長の鶴田正已氏に町の魅力についてお話を伺いました。

前編:変わりつつある海洋センター(スポーツだけじゃないよ)

- 町制80周年を迎えて、今後の町づくりについてお聞かせください -

 湯前町は、実は一度も合併を経験したことのない町です。湯前「村」から「町」になり、最盛期の人口と比べるとちょうど半分を切りましたが、いろんな意味も含めて地域コミュニティーをしっかり守ることが、町を守るということに繋がっています。「人口が増えるとともに物を足す」という作業が一般的(概念)ですが、人口が減れば、いろいろな物を削っていかなければならないという行政の課題が出てきます。ただ、物を削る中でも守らなければいけないものが幾つかあります。それを端的に言い換えると、「各地域のコミュニティーをしっかり守ることが町を守ることにつながる」という言葉に当てはまると思います。当町では高齢化が進み、その率は40%を超えました。昔のように若い方々に頑張ってもらおうという話ではなく、これからは、今湯前町にお住まいいただいてる皆さんの総力戦で地域を守っていただく、そして次の世代を育てていただくという方向性です。現況の耕作者を年齢別の農地地図で見ますと、現在は青壮年の方が多くなっています。当然のことですが、60歳の方が20年たつと80歳になられるということで、若い世代が20年後には居なくなることが予測されます。

 ですから、現状の課題として、地域の中で「誰が何を受け持っていくか」ということを明確にしないといけない状況になってきました。かなりショックな資料ではありますが、実に分かりやすい地図です。当町だけではなくて、全国の地方自治体でも同じような状況にある町がいくつかあるかと思います。人口減少・高齢化の中での生き残りのモデルは、地域の力で支え、見守るといった仕組みを構築することであり、田舎の自治体こそがその牽引役にならなければ、という気がしています。

 一方で、海洋センター施設のトレーニングルームの改修やコミュニティーモデル事業のおかげで、地元の大学や、地域の皆さんによる新たな動きが出てきました。先ほど総力戦と申し上げましたが、やはり私どもの地域だけではなく、多様な人との関わりの中で海洋センターが核になって動き始めたということが大変うれしいところです。しかも最近は若い人たちだけではなくて、高齢者の方々のプールの利用も増えました。高齢者のみなさんが水中歩行運動を楽しまれ、教室は、地域の病院とも協力しながら実施しています。

 また新しい取り組みとして、民生委員や社会福祉協議会、それから病院が協力し、高齢者の独居、あるいはお二人暮らしのところにタブレットを置き、毎朝の「おはようタッチ」をしてもらう、見守りをする仕組みを導入しています。

 運動などを通じて高齢者の皆様が元気で生活することは、健康寿命の延伸という意味でも大変意味があることです。この仕組みを使い、地域の中で、どなたがどのような暮らしをしていて、もし何かあったときはどうするのかという情報を共有することは、田舎であればこそできることです。許される範囲内で周りの方々の情報を共有することの重要性について共通認識を持っておくことも大切だと考えています。

- 湯前町の魅力はどのようなものですか? -

 当町の地域名産として焼酎があります。この地域にまたがる人吉盆地には28の蔵元があり、その全てで米焼酎を造っています。一昨年には、日本遺産の第1号認定をいただいた地域でもあり、「日本でもっとも豊かな隠れ里」というタイトルにしています。これは小説『街道をゆく』の中で司馬遼太郎さんがこの地域をそのように表現されています。町内にある城泉寺の阿弥陀堂は、現存する県内最古の木造建築であり、現在約800年を経過しています。その本尊の阿弥陀三尊像は、お堂を含め旧国宝でした)。現在、国、県指定文化財のうち、建造物や彫刻の約8割がこの盆地の中にあります。

 こうした地域に長年にわたり人が生活してきたということは、この地が大変に、安心で安全な所であったということの証明だと思います。いつの時代も米の値段が物流の基本であったことを考えると、米で焼酎が造れるということは大変贅沢なことです。

 この地域で14代目を数える一番古い蔵元は、創業が江戸中期と言われております。そのような伝統文化が受け継がれている場所は、とても安心で豊かな所と考えられ、「日本でもっとも豊かな隠れ里」という表現になったのだと思います。

 この町名産の米焼酎に合う食べ物が、湯前町の郷土料理である「骨かじり」です。「骨かじり」とは肉が残っている豚の骨付き肉を水から湯がき丁寧に灰汁を取りながら塩のみで調理するもので、テレビの「秘密のケンミンSHOW」や漫画の「クッキングパパ」でも紹介されています。

 漫画と言えば、本町出身の風刺漫画家、故・那須良輔氏の功績を保存・展示する館として、「湯前まんが美術館」(那須良輔記念館)があります。また今年の秋には、湯前駅となりのレールウイングに「湯前まんが図書館」がオープンします。常時あらゆるジャンルの漫画、約5000冊を設置し、無料でご利用いただく予定です。

 漫画に関係することでは、熊本復興プロジェクトの一環として、人気アニメの『ONE PIECE』の復興列車を走らせました。これは南阿蘇鉄道が被災した関係で、版元の集英社と東映アニメーションに交渉して実現した電車です。

 また、「くまモン頑張れ絵」くまモンをモチーフに熊本地震からの復興を応援するために92人の先生に参加いただきました。くまモンを描いた原画80点を展示し、当町と高森町とで主催しました。

 先ほどの湯前まんが美術館を会場に毎年、「ゆのまえ漫画フェスタ」を開催しています。昨年私は、ワンピースのルフィに変身をして参加しました。職員も、様々なアニメキャラクターなどのコスプレをして参加をしております。このフェスタには、全国から1万6000人が来場するのですが、年配のサラリーマンらしき方に、聞きましたところ、はるばる札幌から来て、今回で4回目だとのことでした。漫画好きな方にとっては、この「ゆのまえ漫画フェスタ」は、いわば聖地となっているのだと思います。

 参加する人たちの中には『進撃の巨人』やいろいろなキャラクターに扮して、アニソンライブでは楽しそうに踊る方もいます。さすがに地元の方々も驚いていました。

 那須良輔先生の影響もあり、当町の小中学校では、マンガの授業を京都精華大学と光ケーブルで結び行っていました。その当時は、京都精華大だけにマンガ学部がありました。最近は熊本の崇城大学にマンガ表現コースが設置されたので、そこの先生方に協力をいただき、実施しています。

 去年の大賞作品は「食事タイム」というタイトルでしたが、おそらく(どこからか)届けられたお弁当なのではないでしょうか。それを一人でロボット掃除機を回しながら食べている「寂しい情景」が浮かびます。なおかつ寂しさを感じさせるのは、この奥の遺影ですね。奥さんがお亡くなりになったというような一コマのようです。

 風刺をマンガとして描くためには、社会情勢とか事件とか出来事を一度自分の中でかみ砕いて絵にしないといけないため、漫画による学習効果も非常に高いと思います。ただ記事を読ませるのではなく、自分なりにそれを表現するという意味合いです。子供の頃、よく学校で「新聞の記事の一つを読み、その記事の感想文を書け」というような課題がありましたが、その美術バージョンのようなものです。自分で描き表現することで、より記憶も鮮明に残ると思います。

 だから風刺画は、新聞とかテレビを見てないと描けません。ですから、そのような意味においても風刺にこだわっています。

 9月には「うしおととら」の作者・藤田和日郎(かずひろ)先生にお越しいただき、サイン会を行いました。台風で一週間延期になったにも関わらず、全国からたくさんのファンに来ていただきました。藤田さんと大変至近距離で会えるサイン会となり、特別感満載のイベントで、大変喜ばれました。

 また毎年空き家を使って、「クッキングパパ」のうえやまとち先生と「俺たちのフィールド」などの作者である村枝賢一先生のアトリエを作り、ときどき先生方にもお越しいただき漫画教室などを開催いただいています。うえやま先生は本当に料理されるんですよ。ご自宅から花火大会がよく見えるため、毎年職員がお邪魔させていただいています。

 このように私どもの町の取り組みの特徴の一つには、町の伝統性をしっかり守りながら、こうした漫画などの比較的新しいサブカルチャーも大切にしていくことだと考えております。

 そのような中、今年の3月には、文部科学省や国土交通省から「歴史的風致維持向上計画」について認定を受け、歴史的な町を持続的に残していく取り組みを行っています。さらに先ほど申し上げましたように、高齢者人口が増加する中で、地域住民が元気にお互いを支え合う仕組みをしっかり継続していく構想の中で、B&G海洋センターを活用し、健康維持とコミュニティー形成を目指したいと思います。

 さらにユニークな行事として12回目を迎える「ゆのまえ潮おっぱい祭り」があります。今年もにぎやかに執り行われました当祭事は、潮神社がおっぱいの神様として親しまれていることから、子宝・安産・子育て祈願のための祭りとなっており、乳房をかたどったものを奉納すると、母乳の出が良くなると伝えられております。当祭事では、赤ちゃんによる「はいはい競争」やメインイベントの「おっぱい早飲み競争」などが行われ、大変盛り上がりました。

 また、おっぱいのデザインは商工会のポスターや、お土産用の包装紙としても利用しております。饅頭やマシュマロなどにもおっぱいが施された関連の土産も多数ございます。また、マンガの先生とかデザイナーさんらが見られても、「いやらしくなくて良い」と良く言われます。その他にも、「おかあさんの乳がんが治りますように」といった無病息災のご祈願や子宝祈願など、いろいろなお願い事が書かれた、おっぱい奉納もあります。


※後編に続きます

(文:宮嵜 秀一

湯前町B&G海洋センター周辺には、「ゆのまえ温泉 湯楽里」を中心として、コテージ群やキャンプ場、ゴーカート場等レジャー施設が密集しています。どの施設も徒歩圏内にあるため、とても利便性の高い施設です。