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No.003:北海道東神楽町 山本 進 町長 人口増を続ける「花のまち」 北海道東神楽町の取組
2017.05.02 UP

プロフィール 山本 進(やまもと すすむ)町長
1966年(昭和41年)生まれ。北海道弟子屈町出身。1989年に東神楽町役場へ入庁。町職員時代は、総務企画課やまちづくり推進課など、まちづくりの中心的業務を担う部署へ配属となり、東神楽町開基 100年記念事業の担当も務める。2012年に東神楽町長に就任し現在に至る(現在2期目)。
町の紹介 少子化、人口減少が進む現代において、2015年国勢調査の人口増加率で北海道内1位(10.1%)となった東神楽町。そのまちづくりと地域間交流について、山本進町長にお伺いしました。




前編:住民と行政が協働して進めるまちづくり

総合的なまちの力で成し遂げた人口増加率1位

- 今回の国勢調査で人口増加率が北海道1位となりましたが、その経緯について教えてください -

 人口増加率は過去にも1位となったことがあるのですが、以前よりも、注目されているように感じます。東神楽町は旭川市に隣接していますので、人口増加の理由をベッドタウンがあるからだと考える人もいるようですが、ベッドタウンがある自治体のすべてが人口増加となっているわけではありません。子育て政策をその理由に挙げる方もいます。もちろん東神楽町でも子育て政策に一生懸命取り組んでいます。しかし、我々よりも子育て政策を手厚く実施している自治体はありますが、かならずしも人口増加につながってはいません。東神楽町の人口が増加した理由の一つは、町の力を引き出す様々な政策により総合力を高め、魅力ある地域を創出していることだと考えています。

  • 花のまちとして全国に知られている東神楽町。町内会ごとに独自の花壇が設置され、花を中心とした町づくりが進められています

  • 東神楽町の位置する上川盆地は、北海道の米の主産地で、米や野菜を中心とした農業が盛んです

 その政策の一つに、「地区別まちづくり計画」があります。これは、町長就任してすぐに策定した「第8次東神楽町総合計画」に沿って進めた計画ですが、北海道では東神楽町が初めて実施したものです。

 「地区別まちづくり計画」とは、各地域の歴史や特徴を活かしながら、ワークショップなどを通じて住民の意見を引き出だす住民参画型の地域個性を生かしたまちづくりのことで、現在は多くの自治体で取り入れられるようになりました。

 我々は、町を歴史や環境などから7つの公民館地区に分け、職員を配置し、地域住民の方々とその地域のまちづくりについて話し合うワークショップを実施しました。職員には「自分にまとめることはできるのだろうか」「要望ばかりがでるのではないか」などの不安があったようですが、私は、町職員時代からワークショップの経験があるので「絶対にそのようなことにはならない」と粘り強く伝えました。もちろんワークショップでは、行政への要望はありました。しかしながら、地域でできることも明らかにすることができました。結果的に、行政でやること、住民の皆さんにやってもらうことはもちろんですが、行政と住民とで協働でやることについても明確となりました。協働で取組むことは想像していた以上に多くあり、その点を共有できたことが大きな成果だったと思います。

 「地区別まちづくり計画」は、いろいろな形で町の動きと繋がっています。志比内地区では公民館を今年度改築しますが、この内容についても、利用する住民の皆さんとワークショップで一年間協議して決めました。新たな事業を手掛ける場合は、住民の皆さんも参加する委員会形式で取組んでみたり、ワークショップを開いてみたりなど、そのようなことが普通にできるようになっています。このように、行政と地域の距離が短くなり、お互いに話し合ってやろうというムードが東神楽町の文化となっているのではないかと思います。

 このようなことから、町の総合計画策定で行う住民アンケートでは、この町に住み続けたいという割合が8割を超えています。住民の皆さんの多くの方は、いい町のようだと思い、東神楽を選んだ方々です。そのような方々が昔から住んでいる住民の皆さんとコミュニケーションを築きながら、この町に決めた判断は間違っていなかったと考えているのだと思いますので、住民の自己肯定感も高くなっています。

  • ワークショップで住民の方々の多様な意見を引き出します

  • 行政と住民が一体となって創出する地区別まちづくり

東神楽町の成功事例を「東神楽流」として情報提供

 今は国が地方創生を進めていますが、私たちは、この「地区別まちづくり計画」を2014年には完了し、その後、食育・景観・道路整備・福祉・環境など、毎年、計画を立ててまちづくりを進めました。もちろん、その際も住民の皆さんと十分に議論しています。ですから、地方創生も今まで蓄積したまちづくりの延長線で考えることにして、すぐに実行に移し、人口ビジョンや地方版創生力などは、北海道で2番目に策定することができました。

 2017年には、人口増加を実現した東神楽町のこれまでの取組を「東神楽流」としてブランド化し、様々な施策を5つの「ナンバー1政策パッケージ」として絞り込み、他の地域の参考事例となるよう、情報提供していきます。

 このようにまちづくりは、総じてうまく進んでいると思いますが、課題はあります。職員には地域のイベントなどに積極的に参加して、地域とのコミュニケーションを密にするように伝えています。しかし、まだまだ住民の力を引き出し切れていないと考えています。これは、単に住民の皆さんにもっと地域活動をしてもらいたいということではなくて、住民の方々の考えていることが行動として現れるようにする。そのような導き方が重要であり、能力を付けて行くことが課題だと考えています。ですから、今の結果に満足せず、もっともっと努力を続けていかなければならないと思います。また、次代を担う子供たちの育成もとても重要な課題だと考えています。

  • 子どもたちに「生まれてくれてありがとう」の思いを込めて居場所の象徴としての「椅子」を贈る「君の椅子」プロジェクト

  • 町内にある幼保連携型認定こども園「花の森」。出生者数が多く、待機児童に対応することも東神楽町の喫緊の課題の一つです


※後編に続きます

(文:東條 剛之

公共機関をはじめ、スポーツ施設や図書館といった文化施設が隣接されており、学校帰りの小中学校生徒も友達とスポーツを楽んだり、本を読んだりと気軽に利用しています。また、多目的グラウンドとして使える義経公園や緑あふれる芝生広場など、自然を取り入れた環境も充実しています。