スペシャル 夢をつなげ!B&Gアスリート

No.016:浦田 理恵選手(2012年ロンドンパラリンピック ゴールボール 金メダリスト)障害者と健常者交流のきっかけに!ゴールボールをB&G海洋センターで
2018.02.21 UP

プロフィール 浦田 理恵(うらた りえ)
1977年7月生まれ、熊本県南関(なんかん)町出身のゴールボール(※1)選手。
20歳を過ぎ急激に視力低下し、網膜色素変性(※2)症と判明。左目の視力はなく、右目も視野が95%欠損しており、強いコントラストのものしか判別できない。
現在は、2020年東京パラリンピックでの金メダル奪還を目指し、日々練習に励んでいる。
パラリンピック3大会出場(北京・ロンドン・リオデジャネイロ)、2012年ロンドン大会で金メダル獲得。
2016年リオデジャネイロパラリンピック主将。 2010年アジア選手権金メダル、日本選手権大会2005年から全5回優勝。

(映像:日本財団パラリンピックサポートセンター)

後編:「音を見る力」とゴールボールの魅力

金メダルのプレッシャーを乗り越え万全のコンディションの浦田選手。今回は2020年東京パラリンピックを目指す浦田選手の意気込みや、ゴールボールの楽しさと魅力、そしてB&G海洋センターに期待することについて伺いました。

- ゴールボールの楽しさを教えてください。 -

欧州遠征での試合(右端)

欧州遠征での試合(右端)

 ゴールボールは、音だけで様々な判断を行わなければいけないスポーツです。その中で私は、今まで取れなかったボールが取れるようになったときや、自分ができなかったことができるようになったときに、達成感や楽しさを感じます。

 例えば、見えるはずのないボールが、音で見えるようになってくる。最初はぼやけてしか聞こえていなかったボールの音が、頭の中で軌道をイメージできるようになるまで聞こえるようになり、相手の投げ出しからクロスに来るボールの軌道や、バウンドして空中に浮いたボールを目で追えるようになってきます。肉眼で見ているのと感覚が一緒で、「見えていないけれど見えている」感覚です。ボールの音だったり、相手選手が移動しているのも全部目で追っていくので、そういう意味で「音を見る力」が成長しました。

 人間の機能はとても未知数で、見えなくなった部分を他の機能が補って、見えるようになることを実感できるゴールボールに、面白さと可能性を感じています。

- 「音を見る力」のほかに、ゴールボールが日常生活で役に立つことはありますか。 -

 一つは、相手との距離感です。
 ゴールボールは選手同士でフォーメーションを組むとき、守る位置が20センチでもずれたらボールがお互いの間に割って入ってしまいます。音を一つの頼りに、お互いの距離感を測っています。

 この距離感を培ったことで、日常生活で話をしていても、音や声で相手との距離を感じて、相手の目を見て話すことができるようになりました。

 もう一つは、歩く感覚です。
 コートはラインテープの下にタコ糸が張ってあり、それを触って自分のポジションを確認して、助走してボールを投げたりします。そのとき、どのくらいの歩幅で、何歩でどれぐらい進むのかを繰り返し練習して、体で覚えます。そのため真っ直ぐ歩くことも含め、普段自分が日常で歩くときの感覚が良くなりました。

 これらはゴールボールをするようになって得ることができた、自分の日常生活に欠かせない術になっています。

目線を合わせ取材に答える

目線を合わせ取材に答える

- 日本のパラ競技の環境に対して望むものはありますか。 -

 ゴールボールの世界選手権があっても、日本でその結果がタイムリーにリリースされず、試合をテレビやネットでライブ観戦できない状況があります。

 海外だとパラリンピックスポーツチャンネルのような、ゴールボールを含めパラリンピックの種目のチャンネルがありますが、日本はありません。それは、見る人が少ないからかもしれないですし、準備段階にあるのかもしれないですが、そういう発信する媒体があったら見る人も増えると思います。

 見る機会や知る機会が増えれば、それだけ知ってもらって、興味を持ってもらえます。だから2020年東京パラリンピックはゴールボールを知ってもらえる、とても大きなチャンスだと思っています。

- 2020年の東京パラリンピックに向けて目指すことは何かありますか。 -

 はい、出場を目指しています。
 そのためには6人の代表選手に選ばれることが必要で、若い選手たちも育ってきている中で、「負けない」という気持ちで練習をしています。

 今年の世界選手権で3位以内に入ると、2020年の東京パラリンピック出場が決まります。ですが日本は開催枠があり、東京パラリンピック出場はもう決まっていますが、自力で出場権を取るのと、開催枠だから行けるのでは、雰囲気が全然違います。

 周りからの評価によって、自分たちがより高いレベルで練習できることにつながるので、今はその世界選手権でメダルを取ることが今年の大きな目標です。

- 先のことになりますが、東京パラリンピック後の展望をお聞かせください。 -

ロンドンパラリンピックの試合中

ロンドンパラリンピックの試合中

 2020年東京後の身の振り方についての具体的な方向性は、今は控えさせていただいてます。ただ、ゴールボールで育ててもらった部分がたくさんあるので、模索中ですが、自分がより良い形で競技の発展に貢献したいと思っています。

 私自身がアテネパラリンピックを見て、ゴールボールを始めたきっかけをもらえたので、次は自分が社会に対して、誰かのプラスの一歩になれたらと思います。

 また、次世代にバトンをつないでいくこともとても大事だと思っているので、競技も仕事も後輩に繋いでいくことを使命だと思っています。

- 最後に、B&G海洋センターに期待することなどはありますか。 -

 ゴールボールは、ボールを投げたり、止めたりという技術的なところでの魅力や面白さがあるのかもしれません。しかし私はそれ以上に、普通に生活する上で相手を気遣うことや、思いやることを学べることがゴールボールの魅力だと思います。

 例えば、体験会などで健常者の子供たちと一緒にゴールボールをやったりするとき、目隠しした途端にまったく動けなくなるんです。見えないから、動いてぶつかったら怖いから自分から動けない。ボールを取って仲間にパスをするときも、声を掛けないと周りのみんなはどんな状況か分からない。これまではうなずいてるだけで伝わっていたものが、声を出さないと分かってもらえないので、「声を掛け合うことの大切さ」に気づけることがゴールボールの魅力です。

 B&G海洋センターがパラスポーツをやることで、障害者と健常者が憩える場となり、交流できる良いきっかけの場所になってほしいと思います。
 ぜひ全国のB&G海洋センターで障害者と健常者の相互理解の機会としてゴールボールを行ってほしいです。しっかりしたゴールは必要なく、ゴールの範囲は三角コーンを置いて示せばよいですし、バレーボールのコートの広さがあればできますので、海洋センターでトライしてみて下さい。

- ありがとうございました! -


(文:田中 大幾

前編:金メダルをプレッシャーに感じないプレーができるように

南関町B&G海洋センターの外観

海洋センターは、大津山自然公園に隣接しており公園内には自然歩道、グランドが整備してあり、自然の中の町民の憩いの場となっております。また、公園内に溜池があり、自然の中で春先から秋口までカヌーに乗ることができます。