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「瀬棚で育った」と、胸を張れる子どもたちにしたい!
全国にさきがけ、
「水に賢い子どもを育む年間型活動プログラム」を授業に導入した、

瀬棚小学校(北海道)の取り組み 
瀬棚小学校教頭の白川清久先生
ホームページでもご紹介しているように、当財団が開発した「水に賢い子どもを育む年間型活動プログラム」が、今年度から北海道の瀬棚町立 瀬棚小学校4年生の「総合的な学習の時間」で採用され、現在、年間プログラムに沿ってさまざまな授業が展開されています。アンドリーでは、このプログラムの導入の経緯について、同小学校の教頭を 務める白川清久先生に、いろいろな話をお聞きしました。

目からウロコのできごと

 平成14年、「総合的な学習の時間」を本格導入するにあたり、瀬棚小学校では「瀬棚町の探検」という大きなくくりのなかで、3年生が「食」、4年生が「水」、5年生が「米」、6年生が「町おこし」という、それそれのテーマに沿って学習を進め、2年後に改めて内容の見直しを行うという方針を立てました。
 「学年別に決めたテーマを基に、我が町の産業や環境を学んでいこうという取り組みでしたが、単に『水』と言っても、あまりにも広いテーマなので、なかなか授業として焦点化することができず、水質調査などを体験させてみたものの、子どもたちの学習意欲は高まりませんでした」
 どのように授業を進めていったら良いのか先生方は頭を悩ませたそうですが、2年が過ぎて内容の見直しに入った際、思わぬ救世主が現れました。ちょうど、B&G財団が企画した、ニュージーランドの「ウォーターワイズ・プログラムの視察」から帰ってきたばかりの、瀬棚町B&G海洋センター職員、平山さんがその人でした。

瀬棚小学校に「水に賢い子どもを育む年間型活動プログラム」を紹介した、瀬棚町B&G海洋センター職員の平山さん

 平山さんは、マリンスポーツ先進国ニュージーランドで、子どもたちに対する水辺の教育がどのように実施されているのかを垣間見たうえ、B&G財団がウォーターワイズ・プログラムを基に、日本の事情に合わせた「水に賢い子どもを育む年間型活動プログラム」を考案していることも知っていました。
 「平山さんの話は、まさに目からウロコが取れる内容でした。日本と同じような海に囲まれた国、ニュージーランドでは、しっかりしたプログラムを使いながら子どもたちに海洋教育を施してします。その反面、瀬棚も海の町なのですが、子どもたちは海のことをあまり知りません。まずは、このギャップに気づかされたことで目が覚めた思いになりましたが、さらに驚いたのは、ウォーターワイズ・プログラムに着目しながら、B&G財団が日本の事情に合わせた『水に賢い子どもを育む年間型活動プログラム』を考案しているということでした」
平山さんの話を聞きながら、白川先生は水辺の教育が瀬棚という地域独自の人づくりに結びついていくことに着目しました。
 

平山さんがモデルになり、深場に足を取られたときの対処を実演。ニュージーランドでウォーターワイズ・プログラムを視察した経験から、水辺の安全教育にも力が入れられています

 「平山さんの話を聞いたとき、この町ではどんな子どもを育てていくべきかなのかという、とても大きな夢の部分が見えてきた思いがしました。瀬棚は小さな町で有名でもありませんが、将来、子どもたちが町の外に出ていったとき、『私が育った瀬棚には、こんな良いところがあります』と、胸を張って自慢できるものを身につけてもらいたいのです。瀬棚で自慢できるものの1つとして、美しい海や川が挙げられますが、それも、実際に自分たちが触れ合い、感動した経験がなければ、人に胸を張って自慢することはできません。
 私は札幌の近くで育ちましたが、郷里の思い出として残っている光景と言えば、子どもの頃に遊んだ野山や川です。

 今の子どもたちの原風景と言えば、テレビゲームやパソコンといったバーチャルなものになりがちで、7、8年前、教員の学習会で知り合った羅臼町の先生から、『私の町の子どもたちは、地元の名産であるコンブを知らなければ、貴重なオジロワシが生息していることも知りません。しかし、テレビゲームのキャラクターは、実によく知っているんですよ』と聞かされ、愕然としたことがありました。瀬棚の子どもたちには、体験としてしっかり記憶に残る原風景を与えたいと思います」
 羅臼町の先生の話を聞いたとき、これからはリアリティのある人間をどう育むかというところに、新しい教育の流れが向かっていくのではないかと、白川先生は感じたそうです。そして、まさに「総合的な学習の時間」という新しい教育の流れに直面して苦悩したとき、平山さんから「水に賢い子どもを育む年間型活動プログラム」という、目からウロコのプレゼントが届いたのでした。

学ぶということは何か?

 「水」のテーマ学習に取り組んだものの学習内容の焦点化に悩み、平山さんの話に耳を傾けた白川先生。具体的に、「水に賢い子どもを育む年間型活動プログラム」のどこに魅力を感じたのか、お聞きしました。

6月の授業では、磯に出てみました。捕獲した生き物を白川先生に渡し、じっくり後で観察してみました


 「実際、海に行ってどんな授業ができるか、それに関しては私たち教師には経験がありませんから不安な面もありました。しかし、財団さんのプログラムは、『安全学習メニュー』、『体験メニュー』、『実験メニュー』、『学習メニュー』、『もの作りメニュー』の5つに分類されているので、各メニューをたどりながら迷うことなく体系的なイメージを組み立てることができました。しかも、メニューごとに数々の具体例が提案されているので、それを基に自分たちだったらどんなことができるか、授業の構想をまとめやすいのです」
 5つのメニューは互いにリンクしており、「体験」や「学習」を行ったり来たりしながら問題の解決に向かっていきますが、まさにその仕組みこそがテーマ学習に必要なのだと白川先生は指摘します。
「かつて大正時代に、経験主義で教育を進めていくコア・カリキュラムという試みが行われたことがありました。簡単に言えば、子どもの生活のなかで派生する問題を学習として扱うという発想なのですが、経験させれば学んだことになるという錯覚を生んでしまい、ただ経験させただけで終わりにしてしまうという傾向を生んでしまいました。これでは、『経験あって学びなし』であり、結局、コア・カリキュラムはだめであるということになってしまいました。 
 その後、戦後になると、今度はアメリカにならって教科ごとに知識を積み上げながら、一定のレベルになるとステップアップしていく仕組みになりました。一見、これは効率が良いのですが、ステップアップに気を取られてしまうと、本来、教育に求められていたものが見失われてしまいがちです」
 学ぶということは、行ったり来たりという試行錯誤の過程を繰り返しながら、納得していくものであると、白川先生は言います。「『総合的な学習の時間』がスタートするとき、文部科学省のある調査官が、『自ら体験することと、本で知識の世界に入ることの往復をたくさんしなければだめだ』と語っていましたが、本来、学ぶということは、そういうものなのだと私も思います」
 
海のまち、人のまち

6月の授業の際、濡れても気にならないウエア、ラッシュガードが当財団の広渡専務理事から子どもたちに贈呈されました

 5つのメニューを互いにリンクさせながら、行ったり来たりの学習をめざしている「水に賢い子どもを育む年間型活動プログラム」ですが、その進行をサポートするため、当財団の担当職員は事あるごとに瀬棚町に出向いて担任の先生をはじめ関係各位と綿密な打ち合わせを続けており、講師として授業にも加わります。保護者の反響も気になるところですが、今のところ大きな反対意見は出ていないそうです。


 「なかには、『海に行く時間があったら、算数でも勉強させてほしい』といった声も届きますが、その一方で、『子どもにとって、すごく良い勉強になっている。この授業はとても大事だ』といった理解ある声も数多く出ています。なぜこうした試みが必要なのかは、授業を通じて育っていく子どもの姿を見ていけば、分かることだと思います。昔は、地域社会に子どもを委ねても、子どもは周囲と関わりながらたくましく育っていったものでした。ところが、今の社会にはバーチャル的なものがあふれていて、子どもの興味がそちらに向かいがちなのです。ですから保護者をはじめ、より多くの大人のみなさんにリアリティのある学びの部分を取り戻さねばならないという意識を持っていただきたいと思います」
 同町教育委員会の鵜入 進 教育長にお聞きしたところ、瀬棚町では昭和50年代から高校の授業にマリンスポーツを導入するなど、早くから体験的な学びの部分に力を入れており、加えて授業とは別に、毎年、町をあげてマリンスポーツ大会を開催しているそうです。
 

授業の後には、必ずミーティングを開いて問題点がないかどうか確認します

 「水に賢い子どもを育む年間型活動プログラム」だけでなく、こうしたリアリティあふれる試みに数多く取り組んでいる瀬棚町だけに、近い将来、美しい海や川とともに、人間味あふれるたくましい人材を輩出することでも、全国的に名を挙げていくのではないでしょうか。

※ 瀬棚小学校が行っている「水に賢い子どもを育む年間型活動プログラム」の様子は、随時、当財団のホームページでご紹介していきます。



 

 


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