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こども海洋リサーチ「千曲川学習会」
講師:中村浩志 博士(信州大学/動物生態学)
 去る5月29日(土)、長野県の牟礼村および三水村の間を流れる鳥居川(千曲川上流)で、こども海洋リサーチ「千曲川学習会」が開催され、地元の小学生とその保護者、計31名が、川原に生息する鳥や草花などを観察して歩きました。その際、講師を務めていただいた信州大学教育学部生態学研究室の中村浩志 博士に、今回の学習会の感想をお聞きしました。  
中村浩志 博士のプロフィール:1947年、長野県坂城町生まれ。子供の頃から野山や川で遊び、信州大学に進学するとき考古学を志したが、研究室がなかったため、同じように野山や川がフィールドとなる鳥類の研究室を選択。千曲川周辺に生息する鳥類に関心を抱き、同大学卒業後は京都大学大学院へ進学し、カワラヒナの研究で学位を取得。その後、信州大学へ戻って教鞭を執る。専門は動物生態学で、特にカッコウの研究では世界的に有名。
川原に生息する鳥の説明を行う中村先生。千曲川流域は、ご自身が続けてきた研究のフィールドです

 

自然観察はリラックスして楽しみたい

■今回のような、子供を対象にした自然観察の活動は何度もされているのですか。


 最近になって増えてきました。年間2、3回は行っています。特に、ブナの森フォーラムという企画は、都会の子供たちを集めて毎年開催しており、今年で6回目を数えます。
 もっとも今回のように、これだけ大勢の子供や保護者の皆さんを対象にした企画は初めてで、川原をフィールドにした点においても、これまではバードウォッチング程度のものならありましたが、本格的に足を踏み入れて探索するという内容は初めてです。

■いろいろな自然観察会に参画してこられ、最近の子供たちに対してどのような印象をお持ちですか。

 子供と接していて感じることは、皆さん非常に自然に対する興味が強いということです。それは、一緒に訪れる保護者の皆さんについても言えます。また、質問も素朴なことから始まり、さまざまな方向へ枝分かれしていくので楽しいですね。

■今回の「学習会」は、いかがでしたか?

 とにかく、川原をフィールドにした観察会という点では、これまではバードウォッチング程度しかしていませんでしたから、今回は朝から道なき道を歩いて、実際に鳥の巣を覗いたり、そのなかにいるヒナの姿などを見て回ったりしましたから、充実した内容でした。
 しかも、鳥だけに的を絞らず、川原の石を掘って鳥の餌となる昆虫を探したり、道中で見つけた草花を調べたりと、いろいろな体験を重ねたことが良かったと思います。ただ、川に入って、たくさんの魚を手づかみで捕りたかったのですが、一週間前に台風で増水していたため、あまり取れませんでした。それだけが心惜しいですね(笑)。

■確かに、かなりの距離を歩きましたが、子供たちがついて来られるかどうか心配はしませんでしたか?

 いやいや、これぐらいは大丈夫ですよ。実際、ついて来られなかった子供は1人もいなかったでしょう。道なき道を進むという体験だからこそ、興味を持って歩いてきてくれたのだと思います。楽しければ、疲れることなんか忘れてしまうものです。昔の子供たちは、暗くなるまでヘトヘトになって遊んだものです。そんな体験を、できるだけ現代の子供たちにもさせてあげたい。今回も、魚を捕まえるために、皆でズボンの裾をまくって川に入りましたが、子供の頃はドロンコになって遊ぶことが大切なんです。そうすることで、いろいろなものに興味を抱くようになりますから、こうした経験は将来必ず役に立つものなのです。
 また最近、社会全体で自然環境への関心が高まってきたため、今回のような企画を授業に取り入れる学校も出てきました。こうした傾向はとても良いことだと思いますし、私も講師として招かれることがありますが、いかんせん学校の授業となると、いろいろな制約が出てきます。その点、今回の学習会はとてもフランクで、解説もリラックスしながら行えました。自然観察は、とにかく参加者全てに楽しんでもらわなければ意味がありません。今後も、この方向で続けていただきたいと思います。

自然に接することで、いろいろなことが見えてくる

■楽しむための学習会ですが、そのなかで参加者に知ってもらいたいことも、たくさんあるはずです。今回は、特にどんな点を知ってもらいたいと思いましたか。

 (昼食休みのときのインタービューだったため)今、小鳥がさえずる木陰で多くの親子が昼食を楽しんでいますよね。おそらく皆さんは、小鳥のさえずりを心地よく聞いていることと思います。しかし、それは人間の立場だから言えることなのであり、小鳥にしてみれば、必死にさえずっているのです。つまり、小鳥はナワバリを荒らされたと思って一生懸命に人間を威嚇しているのです。つまり、小鳥には小鳥の生活があるということなのです。
 また、美しい鳴き声だと思ってくれる人はまだしも、特に都会の公園などでは、頭上で小鳥がさえずっていることすら耳に入らない人もたくさんいるはずで、同じように足元の草花に気づかない人もいるはずです。しかし、自然観察に関心を寄せている人なら、きっと小鳥や草花の存在に気づくはずであり、そのことがとても大切な意味を持つのです。
 つまり、そういう人は、人間の立場だけでなく鳥や草花の立場も理解できるということであり、広い意味で解釈すれば、万事を客観的に見ることができるということにつながっていくのです。常に一方的な見方ばかりしていれば、いがみあって争いごとに発展してしまいますから、これは人間社会を考える上においても実に重要なことだと思います。
 加えて、もし鳥に興味を抱くと、鳥の餌となる虫や、巣に必要な草場などへ興味が波及していきます。つまり、なにか1つのことに興味を持つと、いろいろなことを知るようになっていき、本当に自分に必要なものまで見えてくるものなのです。ですから、今回のような「学習会」は、たいへん貴重な企画だと思います。
 また、普段も先ほど言ったように、子供の頃はドロンコになって遊んで欲しいと思います。そこから、さまざまな興味ある発見ができることと思います。

■今日は、朝からいろいろなことを教えていただき、どうもありがとうございました。

 

 


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