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平成8年、「町民の誰もが利用できるプールを」という声を受けて誕生した波田町B&G 海洋センター。19カ所ある県内の海洋センター、唯一の室内温水プールということで注目を浴びましたが、ここに来て運営予算の削減が叫ばれるようになり、利用者が減る冬季は閉鎖すべきという話が持ち上がってしまいました。
しかし、海洋センターの平林紀子所長以下、スタッフ一同は、通年利用できるプールを無駄にはできないと奮起。経費削減に取り組みながら収益のアップをめざし、海洋センターの教室活動を、町の公報や地元ケーブルテレビ、地方紙を利用しながら徹底的にPR。その結果、多くの人が教室に参加するようになって事業収益も向上。冬季閉鎖は見送られ、PR活動も評価されて、今年5月に当財団が定めた2003 B&G「広報大賞」を受賞することにもなりました。
「海洋センターの活動は、積極的にPRして地域のみなさんに知ってもらうことが大切。それも海洋センター・スタッフの大きな1つの仕事です」と熱く語る平林所長に、さまざまな努力の足跡をお聞きしました。
 
嘱託の水泳インストラクターと平林紀子所長(中央)

連載記事「○○さんの場合」、次は誰?

東京都の中学校で教員を務めていた平林所長が、波田町の職員になって海洋センターに赴任したのは平成13年のことでしたが、その後、にわかに近隣市町との合併話が持ち上がると共に、海洋センターの経費削減も叫ばれるようになりました。
 

今年から本格的に実施されるようになった高齢者向けの水泳教室。積極的なPRの結果、多くの高齢者が気軽にプールへ足を運ぶようになりました

「12月から4月までセンターを閉鎖すべきだという声も出ましたが、これまでは春に小学生対象の教室しか開いていなかったので、無理もないことだと思いました。しかし、ここは県内19カ所ある海洋センターで唯一の通年型プールです。考えてみれば、教室は冬でも開けるし、その対象者も小学生だけとは限りません」

 翌、平成14年、とにかく何かアクションを起こさねばと思った平林所長は、高齢者向けの水泳教室を積極的に展開して町の医療費負担軽減を目指している藤沢町B&G海洋センター、ならびに陸前高田B&G海洋センターを視察。平成15年から、手探りではありますが、高齢者向けの水泳教室を試験的に開始しました。
 「参加者の体調チェックや参加者の送迎など、今までにない仕事が増えてしまいましたが、センター・スタッフの4名中2名を町の職員から嘱託の水泳インストラクターに変えてもらい、人身一新で着手したこともあって、スタッフ一同、新たな意気込みで取り組むことができました」

 高齢者向けの水泳教室は評判となり、今年から本格的に募集を掛けたところ、すぐに定員が埋まってしまいました。また、水泳のインストラクターが2名配属されたこともあって子供向けの教室も充実。センター内にジュニア・スイミングクラブも誕生し、B&G全国ジュニア水泳大会で2位を獲得する子も出てきました。

平林所長の頼れる片腕、上條竜史 主事

「スタッフを町の職員から嘱託のインストラクターに代えて、活動内容をより実務的にしたことで効果が出たように思います」(同海洋センター:上條竜史 主事)

 もっとも、単に受け皿を大きくしただけで人が集まるというものではありません。特に、高齢者教室の参加者を呼び込むためには、それなりの努力もありました。
 「多くの高齢者が、プールに行くことはレジャーだという感覚を抱いていました。そのため、平日の昼間にプールへ行く人は、贅沢だとか金と暇を持て余しているなどと言われがちでした。極端な話、近所に隠れて通ってくる人もいたほどです」
 この意識を変えるため、平林所長が取り組んだのが広報活動の積極的な展開でした。
 「泳ぐことが体に良いということを知らない人は、プールに通うことは贅沢だという先入観だけで、鼻からそれを否定してしまいます。しかし、近所のあの人も通っていて、こんなことをして、これだけ体に良いという話が伝われば、『なるほどそうかい。じゃあ、私も試してみようかな』という流れになっていきます」
 平林所長は、どうしたらPR効果が得られるか考えた末、プールに通う「○○さんの場合」というシリーズの記事を町の公報紙「館報はたまち」に連載していくことを思いつきました。ごく身近な人の話題なら、記事への関心が高まると思ったからです。事実、連載が始まると、次は誰の番? となって町内で関心が高まっていき、それにつれて高齢者の水泳教室を始めとする海洋センターの活動も知れ渡るようになっていきました。

黙っていたら、理解されない

 「○○さんの場合」は、プールに通って腰痛が治ったとか、コレステロール値が正常になったといった、誰もが関心を持つ健康面での話がメインになりましたが、その取材は、平林所長が自ら行いました。

センター内には職員の手作りによるカラフルなチラシとともに、さまざまな取材記事が貼られています


 「公報の記事は、『いつ、どこで、何が行われる』といった案内文的なものになりがちですが、取材して書くと、私のような素人の文章でも、けっこう読んで面白い記事になっていくものです。取材をすると、その人が言いたいことや、訴えたいことが顔の表情などから伝わってきますから、こちらもどんどん入り込んで行けます。また、そうして得た情報は、海洋センターで働く自分たちにとって大いに参考になるものです」
 平林所長は、地元で発行されている新聞にも目をつけ、取材してもらうよう積極的にお願いしました。地域に根ざした記事が多いローカル紙のメリットを活かそうと思ったからです。
 一般マスコミに取材を依頼する場合は、少々腰が引けてしまうこともありますが、熱心さが伝われば相手も理解してくれると平林所長は言います。依頼のコツは、他にはない、他とは違う面を、とにかくアピールすることだそうです。逆に、主張できる面がないと、なかなか取材に来てもらえないそうです。

 「取材に来ていただいた記者さんとは、なるべく話をするように心がけています。勝手に取材してくださいというスタンスでは、なかなか話題が広がらないものです。話をすることで、こちらが気づいていなかった取材点などが見えてくることもあって、ニュースソースが増えていきます」

公報「館報はたまち」に人気連載された「○○さんの場合」、そして利用者の笑顔の写真を中心に据えてプールの楽しさを呼びかけた教室の案内記事


 顔見知りになると、記者の方から「何か話題はありませんか」と聞いてくるようになるそうで、海洋センター・スタッフの話題も紙面で取り上げてもらったそうです。
 「何か1つの記事ができると、そこからまた違った記事のアイデアが生まれていきます。とにかく、黙っていたら理解されません。人に来てもらい、海洋センターの活動を理解してもらうためにも、広報活動は欠かせません。海洋センターの利用実態を地域に知ってもらう、それも私たちの大切な仕事なのです」
 地元のケーブルテレビにも声をかけたところ、「プールでは、楽しそうな人の表情がよく撮れる」といって、その後は、先方から取材したいとお願いされるようになっていったそうです。

 

 

大胆な構想で難局を乗り切る

 広報活動に力を入れ、さまざまな利用者の声を聞いた結果、その情報をもとに海洋センターの活動内容も検討できるようになりました。
 「ゴールデンウィーク期間中はプールの無料開放を実施していますが、その案内を公報などで流すと、常連さんたちの足が遠のいてしまうことが分かりました。無料ということでプールが混むと思って敬遠するわけです」
 "無料にすれば利用者が集まるという単純な考えは、成り立たないこともある。むしろ、お金を払っただけの有意義さを感じることができれば、自ずと利用者は増えていく"。そんな発想もスタッフのなかに生まれていきました。

1つの記事が次の展開を生む。公報に掲載された記事は、各教室の募集要項にもさりげなく使われ、見た人のヤル気を起こさせます。右のカードはプールのフリーパス券。これもスタッフによる手作りです


 「現在、プールが好きなだけ利用できる、6カ月間有効のフリーパスを6,000円で発行していますが、たいへん好評です。1回いくらで終わりではなく、利用すればするほどお徳なわけですから、自然に足がプールへと向かいます」
 スタッフを、町の職員から嘱託契約のインストラクターに代えたことや、高齢者向けの教室を軌道に乗せたこと、そしてプリペイド式のフリーパスの発行などによって、経費削減・収益の向上という2つの大きな課題がしだいにクリアされていき、それを数字で示すことができるようになった昨年の末、平林所長は、"冬季の閉鎖を実施しない代わりに、午前中の運営を取りやめながら年間1,000万円の予算削減を目指す"という大胆な構想を立案。それが町議会で認められることになりました。

 「広報活動は、利用者に対するPRという意味だけのものではありません。取材などを通じて集められた生の情報や数値は、そのまま海洋センターを運営するうえでの大切な資料となります。議会などから意見が出されたとき、その資料をもって対応することができるようになるのです」
 平林所長が提示した大胆な案が、すんなり議会で認められたことに、これまで海洋センターの活動を見守っていてくれた教育長も驚いたそうです。「今後も、うまく行くとは限りません」と平林所長は慎重ですが、地道な広報活動によってプールの価値を知った利用者が足を運んでくれる限り、波田町B&G海洋センターの活動は花を咲かせていくことと思います。

 


 

 


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