連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No.106

水をつかみ、風をとらえて、より速く走りたい!

2014.12.10 UP

~第69回 長崎国体で活躍した、海洋クラブ出身のアスリートたち~

今年も、全国の海洋センター・クラブで練習に励んでいる青少年の皆さんが競泳やカヌー、ヨットの競技で活躍し続けています。9月から10月にかけて長崎県で開催された第69回国民体育大会でも50人の選手が6種目の競技に出場し、19人が入賞を果たしました。
今月の注目の人では、同国体カヌー・スプリント競技少年女子2種目を制覇した山梨県の渡邉えみ里さん(高校3年生)、ならびにセーリング競技成年女子SS級で3位入賞を遂げた大分県の後藤沙季さん(25歳)の2人の選手を取材しましたので、ご紹介します。

●B&G海洋センター・海洋クラブ選手の入賞者を紹介!
●第69回 国民体育大会に出場した海洋センター・クラブの選手(OB・OG含む)リスト

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第2話辛いことがあっても、その先には未来がある!(カヌー選手 渡邉えみ里さん その2)

開花した実力

高校1年生になると日本カヌースプリントジュニア選手権大会200mシングルで3位入賞を獲得。晴れて全国大会の表彰台に立つことができました

 中学生時代最後の大舞台、全国中学生カヌー大会で4位に入り、残念ながら表彰台を逃した渡邉えみ里さん。勝てるだけの力を持ちながら本番で失速したため、とても悔しい思いをしました。

 その後、地元の高校に進学してからもカヌー部に入り、小学生時代から慣れ親しんだ精進湖に通った渡邉さん。部活と並行して中学時代の恩師、都築監督も県の強化主任コーチとして渡邉さんの練習を見守ってくれました。

 そんななかで、早くも高校1年生の夏に中学時代のリベンジを果たすチャンスが続けてやってきました。8月に開催された日本カヌースプリントジュニア選手権大会に出場した渡邉さんは200mシングル、ペアの2種目ともに3位に入賞。晴れて全国レベルの大会で表彰台に立つことができました。

 また、その勢いを維持しながら、9月に入ると第8回日本カヌースプリントジュニアユース大会に出場。すると、見事に500mシングル、ペアともに優勝を獲得して周囲の注目を浴びました。

 「普通、このような大きな大会で1年生が勝つとは誰もが思いません。えみ里本人にしても、ベストタイムを出すことを目標に出場した大会でした。しかし、いざ臨んでみたらダントツの速さで2種目を制覇したので、皆が驚きました」

 そう振り返る都築監督は、このとき渡邉さんに同行はしていませんでしたが、後で知らせを聞いて大いに喜びました。

 「えみ里はパドルで水をつかむことが抜群に上手な選手です。中学3年生の全中(全国中学生カヌー大会)では、思うようにその実力を発揮することができませんでしたが、高校に入ってすぐに大きな舞台でリベンジを果たすことができたので、本人にとっては自信につながったと思います」

 高校に上がって最初のシーズンで次々と良い結果を残すことができた渡邉さん。2年生に進級すると皆がさらなる活躍に期待を寄せましたが、思わぬトラブルが待っていました。

百聞は一見にしかず

高校1年当時の渡邉さん。中学時代の悔しさをバネに次々と好成績を収めてきました

 高校1年でジュニアユース2冠を果たし、周囲から大きな期待を寄せられた渡邉さん。ところが、2年生になったある日、体育の授業で肩を脱臼。しばらくリハビリに専念した後、徐々に体調を整えて関東大会に出場すると、レース直前のウォーミングアップ走行時に今度は反対側の肩を脱臼してしまいました。

 「カナディアンの選手は片方の肩に大きな力を掛け続けるため、ときどき脱臼してしまう選手もいますが、両肩の力を均等に使うカヤックの選手で脱臼することはめったにありません。それなのに、えみ里は続けて両方の肩を痛めてしまったので、『これでもう競技は続けられないかも知れない』と、思わずため息が出てしまいました」

 選手生命に関わる大きなトラブルを前にして、がっかりと肩を落とした都築監督。しかし、リハビリを終えて練習に復帰した渡邉さんの姿を見ると、なんとかして大会に出してあげたいと願うようになりました。

 「できるだけ肩への負担を軽くしながら漕ぐフォームを身につけてもらいたいと思い、『押し手を下げて長いストロークで漕げ』といった指示を与えましたが、なかなか理想の形になりませんでした。イメージを口で伝えるだけでは限界がありました。

 そこで、2年生の秋に行った関東近県の合同合宿練習の際、えみ里に内緒で肩に負担の少ないフォームで漕ぐ国内トップレベルの柿崎史穂選手を招き、えみ里の見ている前で走ってもらいました」

昨年の秋に行われた関東近県の合同合宿。柿崎選手(後列右から4番目)のもとでフォーム改良の手がかりをつかみました

 百聞は一見にしかずと言います。渡邉さんには内緒で来てもらった柿崎選手でしたが、その走りを見た渡邉さんは、「これこそが自分に必要な漕ぎ方だ!」と直感的に理解。さっそく柿崎選手に指導をお願いして理想のフォームを身につけていきました。

 「柿崎選手から直接指導していただいたことで、自分が直したいと思っていたことができるようになり、それをどのようにして体に覚えさせていったら良いのかについても学ぶことができました」

 柿崎選手の教えを受けて自分の進むべき道をつかんだ渡邉さん。合宿が終わってほっとひと息ついた際、柿崎選手を招いてくれた都築監督の思いやりに感謝した渡邉さんでした。

大きな目標を掲げよう!

平成26年度日本カヌースプリントジュニア選手権大会では姉妹ペアで優勝。喜びもひとしおでした


今年の長崎国体でも2冠を達成。レースを終えて戻ってくると安堵の笑顔を見せてくれました

 秋の合同合宿を終えた渡邉さんは人一倍練習に励むようになり、中学時代の倍の距離にあたる1日20キロを毎日のように黙々と漕ぎ続けていきました。

 「カヌーは、練習量と成績が比例するスポーツだと言われています。特に私の場合は、新しいフォームを取り入れたばかりでしたから、ひたすら漕いで体に覚えさせていく必要がありました」

 1日も早く新しいフォームを自分のものとして仕上げたい。その一心で湖面に出ていった渡邉さん。ときには休みなく16キロを走破するハードな練習もこなして3年生のシーズンを迎えると、その成果が一気に現れました。

 まずは、8月上旬にホームの精進湖で開催されたインターハイ(平成26年度全国高等学校総合体育大会)女子カヤック500mシングルで2位との差を1秒以上つけて見事に優勝を獲得。200mでも3位に入る活躍を見せてケガからの復活をアピールしました。

 また、その翌週に山形県で開催された平成26年度日本カヌースプリントジュニア選手権大会では、500m、200mシングルの2種目を制覇。200mペアでも高校1年生の妹、珠利亜さんと組んで優勝を果たしました。

 2つの大きな大会で充実した結果を残した渡邉さん。その勢いが止むことはなく、10月に開催された長崎がんばらんば国体(第69回国民体育大会)でも、500m、200mシングルで見事に2冠を達成することができました。

長崎国体で優勝した直後の渡邉さんと都築監督。大学に行ってからも元気で活躍してください!




 国体終了後の11月初旬に取材した際は、翌日から始まる日韓ナショナルチームの合同合宿に向けてフォームの調整に励んでいた渡邉さん。本来、この合宿は成人選手が対象でしたが、今回は特別に高校生の渡邉さんにも参加の要請がありました。多くのカヌー関係者が、渡邉さんの今後の活躍に期待を寄せているそうです。

 「大学に行ってからもカヌーの活動で満足のゆく結果を残したいと思います。また、リオデジャネイロのオリンピックは2年後に迫っているので少し無理かも知れませんが、6年後の東京オリンピックに出場できたらうれしいです。その大きな目標に向かって練習していきますので、B&Gの海洋クラブや海洋センターで練習に励んでいる皆さんも、ぜひ夢を持って一緒にがんばっていきましょう! 私は両肩を脱臼してしまいましたが、練習を重ねて大会に出られるようになりました。ですから皆さんも、辛いことがあってもけして夢を諦めないでほしいと思います」

 山あり谷ありだった高校時代が、あと数カ月で終わろうとしている渡邉さん。大学に進学してからも、私たちはさらに大きな期待を持って応援していきたいと思います。(完)

 (※次回第3話は、国体セーリング競技で活躍した別府市の後藤沙季さんに続きます)