連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 104

いつまでも、力いっぱいカヌーを漕ぎ続けたい!

2014.09.10 UP

~同じ海洋センターの水面から世界に羽ばたいた2人のカヌー選手~

琵琶湖と水路でつながる、滋賀県近江八幡市の小さな湖、西の湖。その湖畔に建設された近江八幡市安土B&G海洋センター艇庫は、一般住民を対象にしたカヌーの普及に利用されているほか、複数の地元高校カヌー部が合同で練習の拠点にしており、今日までに3人の日本代表選手を輩出しています。
その2人、八日市南高校から立命館大学を経て、社会人となった現在も世界の舞台に立ち続けている小梶孝行選手と、八幡商業高校時代から世界に挑み、現在は同志社大学に進んでインカレ制覇をめざしている坂田 真選手にお会いすることができましたので、これまでの振り返りや今後の抱負などについて語っていただきました。
※第1~2話:小梶選手 第3~4話:坂田選手 第5話:地元のカヌー指導者 饗塲忠佳氏の順で、ご紹介していきます。

プロフィール
● 近江八幡市安土B&G海洋センター

平成8年(1996年)開設。水路で琵琶湖に隣接する西の湖の湖畔に艇庫を設け、一般利用に加えて周辺地域の複数の高校カヌー部が練習拠点に活用。これまでに3人の日本代表選手が育っている(今回取材の小梶、坂田両選手。ならびに現在、日本体育大学在学中の中村由萌選手)。また、西の湖周辺のヨシ路は水郷めぐりの名勝として琵琶湖八景の一つに数えられており、カヌーツーリングやキャンプが楽しめる。

● 小梶孝行(こかじ たかゆき)第1~2話

昭和61年(1986年)生まれ、滋賀県出身。滋賀県立八日市南高校および立命館大学でカヌー部に在籍(カナディアン選手)。2008年(大学4年生)の全日本学生カヌー選手権大会で個人、団体(フォア)、大学総合すべての部門で優勝。2009年の第1回アジア大学カヌースプリント選手権大会では200mシングルで優勝。現在は、地元企業の和菓子メーカー「たねや」に籍を置きながら日本代表チームの活動に励んでいる。

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第2話人との触れ合いを大切にしたい(小梶選手 後編)

北京のリベンジ

今年、ロシアで開催された世界選手権大会で世界の強豪と競う、小梶選手とペアの長井海斗選手((手前から3艇目。後ろが小梶選手)

 大学時代最後のインカレ(全日本学生選手権大会)において、個人(シングル)、団体(フォア)で優勝するとともに、学校対抗でも男子総合優勝を達成し、カナディアン部門最優秀賞に輝いた小梶選手。その喜びが醒める間もなく年も明け、卒業の時期を迎えましたが、学業でも納得のゆく結果を残したいと思って留年することを決めました。

 「カヌーの活動に追われて十分に勉強していかなかったため、しっかり学んで卒業したいと思って学校に残ることを決め、2年間留年することになりました」

 加えて、学業に力を入れながらカヌーの練習も続けたいと思った小梶選手。カヌー部は4年生で引退したため、高校時代に慣れ親しんだ近江八幡市安土B&G海洋センターの艇庫に通って1人で練習に励み、大学5年生のときにシンガポールで開催された「第1回アジア大学カヌースプリント選手権大会」に日本代表として出場。見事に200mシングルで優勝を果たし、1000mでも3位に入る活躍を見せました。

 「初めての国際大会となった2007年の北京プレオリンピックで苦い負け方をしていたので、このときは『ぜったいに勝ってやるぞ』という強い意気込みで大会に臨みました。アジアの大会であって世界中の選手が出場したわけではありませんでしたが、国際大会で優勝できたことは大きな自信になりました」

 この勝利をステップに、以後、小梶選手はワールドカップのシリーズ戦などで世界を転戦。積極的に国際大会の経験を重ねていきました。

坂田選手との出会い

今回の取材で撮影した小梶選手と坂田選手(右)。かつては真冬の湖で一緒に武者修行に励みました

 世界に出るたびに、自分の成長を感じられるようになっていったと振り返る小梶選手。大会の予定や日本代表チームの合宿がないときは、大学に通いながら地元の海洋センターで自主練習を続けていましたが、そんなある日、同じ水面で練習に励む八幡商業高校カヌー部の富永寛隆監督から、「もうすぐカヤックの坂田が卒業するので、彼が大学に行く4月までの間、一緒に練習してくれないか」と頼まれました。

 「坂田君は高校2年生のときにジュニアの日本代表に選ばれた有望な選手で、私自身も練習相手が欲しかったので監督さんの申し出を喜んでお受けし、坂田君が高校3年生の授業をほぼ終えた2月から大学に進学するまでの約2カ月間、2人で徹底的に走り込みました」

 高校生ながら国際大会を経験して血気盛んな後輩とともに、冬の湖で武者修行のように練習に没頭したと振り返る小梶選手。技術を磨くこともさることながら、筋力アップにも力を入れて外国の選手に負けない体づくりに励んでいきました。

 こうして2人の特訓が終わりを告げると、坂田選手は同志社大学に進学。小梶選手は、留年していた立命館大学を卒業して地元の和菓子メーカー「たねや」に就職し、仕事をしながら選手活動を続けていきました。

みんなを笑顔にしてあげたい!

就職した、地元企業「たねや」の職場の仲間たち。一番前の列の右から2番目が小梶選手。会社の計らいによって、現在は所属選手としてカヌーに専念しています

 就職する際は、「仕事をしながら自分のできる範囲でカヌーを続けていきます」と会社に説明した小梶選手。そのため、入社してからは出勤前の早朝や退社後の夕刻に練習を行い、休暇を使って国内外の大会に出場していきましたが、そんな小梶さんの努力を知った社長さんから、ある日、「しっかり練習に励んで、世界に挑む姿を社員の皆に見せてほしい」と声を掛けられました。

 その社長さんの一言によって、会社の所属選手としてカヌーの活動に専念するようになった小梶選手。練習や大会に集中できるようになったことで、大きな目標が見えてきました。

 「カヌーに専念してからは、体づくりを進めながら次第に成績を上げていくことができました。現在は、今年9月に韓国の仁川で開催されるアジア大会で金メダルを取ることをめざしています。また、来年にはオリンピックの出場枠を決める国際大会が控えているので、そこでしっかり日本の参加枠を獲得して、再来年にリオデジャネイロへ行きたいと思っています」

 会社の所属選手になったことで、日本代表としての責任の重さをより感じるようになったと語る小梶選手。自分を応援してくれる職場の仲間のために、少しでも良い成績を収めたいと、結果にこだわるようになりました。

 「所属選手としてのプレッシャーが生まれましたが、私に期待を掛けてくださる会社の皆さんのことを思えば、そんなプレッシャーも励みに変わります」

 多くの人に自分が支えてもらっていることを意識するようになった小梶選手。そのことを思うと、自分にできることをより多くの人にしてあげたくなるそうです。今回の取材は、近江八幡市安土B&G海洋センターが小梶、坂田両選手をゲストに招いて開催したカヌー体験教室の際に行いましたが、小梶選手は積極的に参加者の皆さんに声を掛けていました。

 「カヌーを体験しに来たのであれば、とにかくカヌーを楽しんで帰ってもらいたいと思います。そのために私がゲストで招かれたのですから、参加した人たちとより多くのコミュニケーションをはかりたいと思いました」

 カヌーの魅力は、競技だけにあるのではないと小梶選手は語ります。カヌーを通じていろいろな人と交わりながら、豊かな人生が育まれていくことに大きな意味があるそうです。

 「全国のB&G海洋センター、クラブでたくさんの子供たちがカヌーに乗っていると思いますが、一緒にパドルを手にする仲間や活動を支えてくれている大人の皆さんとの触れ合いを通じて、たくさんの人生経験を積んでもらいたいと思います」

 大会に勝って人生が変わることもあるし、負けた悔しさが自分を成長させてくれることもあるはずです。「ですから、カヌーが楽しいと思った子供たちには、どんどん仲間の輪を広げてさまざまなことを経験していってほしい」と、小梶選手は語っていました。(※第3話:坂田選手(前編)に続きます)

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取材時、坂田選手とともにカヌー教室に参加した親子に声を掛ける小梶選手。当日は、実にさまざまな参加者と言葉を交わして交流を進めていきました

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カヌー教室で坂田選手と一緒にB&G艇に乗船。沖に出た参加者の指導に励んでくれました