連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 103

水に親しむ人たちを力いっぱい支えたい!

2014.08.27 UP

~水泳指導やライフセービング活動に励む五輪メダリスト、源 純夏さん~

7歳で水泳を始め、14歳のときに50m自由形の日本選手権を制した源 純夏さん。17歳で1996年のアトランタオリンピックに出場し、続く2000年のシドニーオリンピックでは4×100mメドレーリレーで見事に銅メダルを獲得しました。
その後は、地元の徳島市に戻って水泳の指導に励む一方、2012年には自ら代表となって徳島ライフセービングクラブを設立。今年に入ってからは、平成26年度B&G指導者養成研修や海洋センター・リニューアル記念イベントで水泳の講師を務めるなど、精力的に活動の範囲を広げています。
「私は、たくさんの方々に支えられて成長することができました。これからは、私にできることで多くの人の役に立ちたいと思っています」
ライフセービングクラブの設立やB&G財団事業に参加するようになった動機をこのように語る源さん。水と触れ合いながら歩んできたこれまでの道のりや、今後の抱負をお話しいただきました。

プロフィール
● 源 純夏(みなもと すみか)

昭和54年(1979年)5月生まれ、徳島市出身。7歳から水泳を始め、12歳で50m自由形学童新記録を樹立、14歳のときに同種目で日本選手権制覇。17歳で1996年のアトランタオリンピック出場、続くシドニーオリンピック4×100mメドレーリレーで銅メダルを獲得。以後、地元の徳島市に戻って水泳指導に励み、2012年に徳島ライフセービングクラブを設立。今年には、平成26年度B&G指導者養成研修や海洋センター・リニューアル記念イベントなどで水泳の講師を務める。50m自由形日本記録保持者、中央大学法学部卒、徳島ライフセービングクラブ代表、徳島県水泳連盟理事、ワールドスイム アゲンストマラリア オフィシャルサポーター

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第4話(最終話)地元の海でみつけたライフワーク

支える側に回りたい

「ワールド・スイム・アゲンスト・マラリア(WSM)」のキャンペーンで水泳教室を行う源さん。WSMは水泳のイベントで募金を集め、マラリアで苦しむ国の人たちに蚊帳を贈る世界的なボランティア活動で、源さんは国内のオフィシャル・サポーターを務めています

 体と心の準備を整えて臨んだシドニーオリンピックで、見事に銅メダルを獲得した源さん。帰国後は、大学3年生の秋を迎えていたことから水泳部の活動と並行して就職のことも考えるようになりました。

 「実は、大学2年生のときに指をケガして3カ月ほど泳げない期間があり、その際、水泳部のマネジャーのお手伝いをしながら、多くの人に自分が支えられていることに気づかされました。大学には泳ぐ環境が整えられていて、生活の面では親からの仕送りがあり、また水着一枚にしても供給してくださるメーカーさんの協力があるわけです」

 選手からスタッフに立ち位置を変えたことで、自分を支えてくれている人たちに感謝の念を抱くようになったと振り返る源さん。そこから、選手や競技を支える側の仕事に関心を寄せるようになりました。

 「この頃、競泳大会の実況に力を入れはじめたテレビ局があったので、制作スタッフとして水泳や他のスポーツを支える番組づくりをしてみたいと思いました」

 そんな思いから、源さんはテレビ局に就職。その後、結婚退社して郷里の徳島に戻ってからも、なにか人の役に立ちたい仕事をしたいと思い、かつて練習に励んだスイミングスクールで水泳を教えるようになりました。

笑顔あふれる水泳教室

海洋センターのリニューアル記念水泳教室で、子供たちを指導する源さん。子供たちの笑顔を見ることが何より楽しいそうです

 懐かしいプールにふたたび通うことになった源さん。指導を担当したのは、泳げない人や初心者を対象にした成年のクラスでした。

 「競技ではなく生涯スポーツとしての水泳指導に初めて携わることになったのですが、熱心に通って泳げるようになった人の笑顔や、定年を迎えて自分の時間をエンジョイしたい人が汗をかきながら喜ぶ姿を見て、『水泳って、なんて楽しいんだろう』、『私自身も水泳をずっと続けてきて良かったな』と思うようになりました」

 初心者や泳げない人を指導しながら、自分自身が水泳の楽しさを教わったと語る源さん。ここで身につけた、あらゆるレベルの人に水泳を教えるノウハウは、現在、携わっているさまざまな指導活動に活かされているそうです。

水の世界への恩返し

10年ぶりに徳島でライフセービング活動を復活させた源さん。多くの仲間と新たな一歩を踏み出しました

 水泳教室の指導を通じて、泳ぐことの本来の楽しさをみつけた源さん。その後、徳島や沖縄で開催されたオープンウォータースイミングの大会に関わることで、さらに大きな発見がありました。

 「徳島の大会は地元開催ということで運営のお手伝いをしたのですが、その際、レースの安全監視を行うライフセーバーの人と話を交わすなかで、『溺れた人を見つけたら、助けることができますか?』と言われて、『自分は水泳の選手をしてきたけれど、水の上で人を助けることができるだろうか?』と考えてしまいました。

 その後、沖縄の大会に招待されてゲストのスイマーとして出場した際には、海を泳ぐ私や他の選手を水上バイクに乗って見守り続けるライフセーバーの皆さんがいて、ときどき海の上から声も掛けてくれました」

 選手の身の安全を気遣うライフセーバーの姿が、実に印象的だったと語る源さん。「これこそ陰ながら人を支えて役に立つ活動だ」と感心しながら、「水泳が得意な自分がライフセービングの技術を取得したら、たくさんの人の役に立つことができるのではないか」と考えました。

 こうしたきっかけをもとに、やがて源さんはライフセーバーの資格を取得して、地元にライフセービングクラブをつくる活動に入っていきました。

ライフセービング活動のために水上バイクの免許も取得。いざとなれば、レスキュー用のマシンで一直線に現場に向かいます

 「調べてみると、10年ほど前に徳島でライフセービング活動の実績が残されていましたが、以来、途絶えたままでした。そこで、なんとかふたたび活動を始めたいと思い、とにかく会う人、会う人に話をしながらクラブ設立の協力を求めていきました」

 そんな活動を始めて1年ほどが過ぎた2012年の5月、源さんの想いに共感してくれる仲間が集まって、第1回目の会合が開かれ、「徳島ライフセービングクラブ」が産声をあげました。

 「海や川の自然に恵まれた徳島で、より多くの子供たちに水辺で楽しく安全に遊んでもらう環境づくりに力を入れていきたいですね。それが、これまで私を育ててくれた水の世界への恩返しになるのではないかと思っています」

 ライフワークとしてクラブの活動に励んでいきたいと語る源さん。今年で3年目を迎えた現在は、源さんのような実働部隊に加え、ITに詳しい人や広報活動に長けている人なども陸上支援に回ってくれていて、さまざまな人たちの参加によって仲間の輪が広がりつつあります。

水のなかで自由に動こう

海洋センターのリニューアル記念水泳教室で子供たちからサインを求められる源さん。子供たちには水泳を1つのきっかけとして、いろいろなことにチャレンジしてほしいと語っていました

 ライフセービングの活動に力を入れる傍ら、源さんはB&G財団の事業にも参画しており、今年は沖縄の指導者養成研修でも水泳の講師を務めてくださいました。

 「子供たちの活動を支えるたくさんの指導者を養成されているB&G財団を頼もしく思います。今年は、私も指導者養成研修で水泳の指導をさせていただきましたが、指導者として新たな道を歩む人たちには、子供たちに水泳を教える傍ら、水のなかで歩くことや浮いたり沈んだりといった、さまざまな体験をさせてあげていただきたいなと思います」

 水泳もさることながら、水のなかでしっかり歩けるようになることも大切だと語る源さん。歩けると思っている人でも、腰が浮いて片足ケンケンで前に進んでいる場合が多く、しっかり水中の床に足をつけて歩けるようになれば、それはしっかりと体が水に慣れた証になるのだそうです。

 「プールのなかで歩けるようになって体が水に慣れれば、泳げない人でも泳げるようになっていきますし、浮いたり沈んだりの動作も自在にできるようになります」

 このような経験の積み重ねは、海や川に出たときの対応力につながっていくと語る源さん。海洋センターに通う子供たちには、水泳だけにこだわらず、さまざまな遊びや体験を通じて自分の可能性を広めていってほしいと述べていました。(※完了)

写真提供:源純夏、源純夏オフィシャルブログ、オフィシャルフェイスブック