連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 101

県や地域の枠を乗り越えて、幅広い事業の展開をめざしたい!

上から:久喜市栗橋、松伏町、下野市国分寺

2014.06.11 UP

~海洋センター間の連携事業を進める、2県3カ所の地域指導者会~

日頃の事業活動において、他県や近隣の海洋センター同士が連携するケースはそう多くありませんが、埼玉県松伏町B&G海洋センターと同県の久喜市栗橋B&G海洋センター、そして栃木県下野市国分寺B&G海洋センターでは、それぞれの地域指導者会が中心になって、平成22年からカヌー教室や水辺の安全教室などで事業の連携を進めています。
「センター同士が手を組むことで人手に余裕が生まれ、異なるアイデアも出るようになるので、個々に行う場合に比べて事業の幅が広がります。また、こうした様子を見て、協力し合いたいと相談に来る他のセンターも出てくるようになったので、連携の輪はさらに拡大していくと思います」と語る、久喜市栗橋B&G海洋センター指導者会会長(B&G全国指導者会副会長)の川島正光氏。今回の注目の人は、川島氏を含む3センター指導者会の皆さんに、連携を始めた経緯や課題点、今後の展望などについてお聞きしました。

プロフィール
● 久喜市栗橋B&G海洋センター

昭和63年(1988年)開設(体育館・プール)。健康・福祉、文化を重視したまちづくりを進める拠点として機能しており、転倒・寝たきり予防プログラム「元気アップ教室」などの健康づくり活動に力を入れている。

● 松伏町B&G海洋センター

平成元年(1989年)開設(体育館・プール)。中央公民館と併設されており、周辺には全天候型テニスコートや野球場がある松伏記念公園、ならびにサッカーなどができる多目的競技場を設けた松伏総合公園があって、町の健康づくり推進に活用されている。

● 下野市国分寺B&G海洋センター

昭和58年(1983年)開設(体育館・プール)。野球場やテニスコートを有する運動公園のなかにあって小中学校も周辺に控えていることから、各種サークルや児童生徒の利用が多く、地域スポーツの中心的な役割を担っている。

画像

第2話県の枠を超えて力を合わせよう!

取材を兼ねた指導員

昨年、栃木県連協のイベントに参加したときの近藤さん。平成24年には関東ブロック交流会で川島さんや飛鳥馬さんから「障がい者カヌー&水辺の安全教室」についての取材を依頼され、指導者としても協力することになりました

 松伏、栗橋、両海洋センターが手を携え、流れるプールを使って平成24年9月に開催した「障がい者カヌー&水辺の安全教室」。特徴的な事業であることから、川島さんや飛鳥馬さんは、7月に実施された関東ブロック交流会の席で、当時、B&G特派員を務めていた下野市国分寺海洋センター(栃木県)の近藤隆博さんに、取材のお願いをしました。

 「毎年夏に行っているブロック交流会は、各海洋センターのスタッフが一堂に会して言葉を交わす数少ない機会のため、『水辺の安全教室は、どのような進め方をしいているの?』といった、日々の活動に関するいろいろな情報を交換し合います。

 そのなかで松伏と栗橋が、『障がい者カヌー&水辺の安全教室』を行う件を近藤さんに話して取材をお願いしました」

 川島さんや飛鳥馬さんの説明を受けた近藤さんは、取材を快諾するとともに、『国分寺では、以前から流れるプールを使った事業をしているよ』と話し、流れるプールを事業で使ったことのない川島さんたちの相談にも応じました。

 「国分寺では、市内の運動公園にある流れるプールでカヌー教室や水辺の安全教室を行っていたので、活動ノウハウはいろいろ持っていました。流れる水面の上で小さな子供たちを安全に乗艇させてあげるコツなどは、障がい者の方々を対象に実施する際にも役立つのではないかと思いました」

下野市の運動公園プールでカヌーに乗る地元の子供たち。国分寺海洋センターでは、従来から流れるプールを使った事業を展開していました

 ブロック交流会の席で「障がい者カヌー&水辺の安全教室」の開催を知った近藤さんは、その後も川島さんたちと連絡を取り合い、水に入った2人の補助員がカヌーの前後を押さえた状態で参加者を乗せてあげることを助言。場合によってはカヌーの中央部にも1人立つと、より安定することも伝えました。

 「ブロック交流会の後に何度となく連絡を取り合っているなかで、いっそうのこと近藤さんには取材を兼ねた指導員として参加してもらったほうが心強いと思い、その希望を伝えると、近藤さんもそれがいいと言ってくれました」

 そう振り返る飛鳥馬さん。こうして、2つの海洋センターの輪が県域を越えて3つに拡大。近藤さんは取材をしながら指導も行って皆の期待に応えました。

漕げなくてもOK!

浅いプールに入ってパドル操作の練習を行う参加者の皆さん。最初に水を怖がった人も、プールに入れば自然に気持ちがほぐれていきました

 前回で紹介したように、「障がい者カヌー&水辺の安全教室」には障がい者を支援するNPO法人や、埼玉県、松伏町の各団体からも大勢の人が補助員として参加するほか、指導者についても松伏、栗橋の地域指導者会が協力して十分な数が確保できました。

 「参加者のなかには水を怖がる人も多いので、膝までの水深しかない水遊び用のプールに入ってパドル操作の練習を行いましたが、そこに入ることさえもためらう人もいました」

 普段のカヌー教室では、カヌーの漕ぎ方をマスターしてもらうことを目標に指導しますが、このときばかりは「しっかり漕げなくても、水に浮かんで流れていくことを楽しんでほしい」という意識で指導したと語る川島さん。なかには、立ったまま乗ろうとする人もいるので、乗り方だけはしっかり指導するように心掛けました。

 「そこで、3人の補助員でカヌーを支える近藤さんの提案が役立ちました。また、私たちのような知らない人に指導されると怖がってしまう人もいるのですが、普段から接しているNPO法人や埼玉県障がい者スポーツ指導者協議会の皆さんなどが補助員として付き添ってくれたおかげで、参加者の皆さんは落ち着いて私たちの指示に応じてくれました」

さらなる連携をめざして

 こうして、無事に終わった平成24年度の「障がい者カヌー&水辺の安全教室」。多くの参加者から好評を得たため、翌25年の夏にも実施して前回を上回る20名以上が参加して賑わい、秋には障がい者スポーツ指導員を対象に、「B&G障がい者指導員向けカヌー教室」を実施して、運営ノウハウの普及に努めました。

 また、松伏、栗橋に国分寺を加えた3つの地域指導者会は、各海洋センターの定例事業でも協力し合うにようになり、平成25年の夏には久喜市立栗橋小学校から依頼された水辺の安全教室を、「地域の特色のある事業」として3地域の指導者会が合同で引き受けました。

 「2、4、5年生360人という大所帯の教室になったので、3地域の指導者会が協力することにしましたが、複数の指導者会から多くの指導者が参加したことで充実した指導体制を取ることができたうえ、指導者会同士で技術的な交流も図ることができました」

 カヌーの貸し借りによって手を結んだ松伏と栗橋の指導者会。そして、流れるプールの利用をきっかけに仲間に加わった国分寺の指導者会。地域や県域をまたいで活動する指導者会の連携は、この後もさらに広まっていきました。(※続きます)

画像

乗艇するときだけでなく、浮かんでからも不安が残る参加者については、補助員がカヌーの両脇を支えてサポート。流れに合わせて一緒に歩くようにしました

画像

水辺の安全教室に参加した栗橋小学校の子供たち。「地域の特色のある事業」として、3地域の指導者会が合同で実施しました