連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 101

県や地域の枠を乗り越えて、幅広い事業の展開をめざしたい!

上から:久喜市栗橋、松伏町、下野市国分寺

2014.06.04 UP

~海洋センター間の連携事業を進める、2県3カ所の地域指導者会~

日頃の事業活動において、他県や近隣の海洋センター同士が連携するケースはそう多くありませんが、埼玉県松伏町B&G海洋センターと同県の久喜市栗橋B&G海洋センター、そして栃木県下野市国分寺B&G海洋センターでは、それぞれの地域指導者会が中心になって、平成22年からカヌー教室や水辺の安全教室などで事業の連携を進めています。
「センター同士が手を組むことで人手に余裕が生まれ、異なるアイデアも出るようになるので、個々に行う場合に比べて事業の幅が広がります。また、こうした様子を見て、協力し合いたいと相談に来る他のセンターも出てくるようになったので、連携の輪はさらに拡大していくと思います」と語る、久喜市栗橋B&G海洋センター指導者会会長(B&G全国指導者会副会長)の川島正光氏。今回の注目の人は、川島氏を含む3センター指導者会の皆さんに、連携を始めた経緯や課題点、今後の展望などについてお聞きしました。

プロフィール
● 久喜市栗橋B&G海洋センター

昭和63年(1988年)開設(体育館・プール)。健康・福祉、文化を重視したまちづくりを進める拠点として機能しており、転倒・寝たきり予防プログラム「元気アップ教室」などの健康づくり活動に力を入れている。

● 松伏町B&G海洋センター

平成元年(1989年)開設(体育館・プール)。中央公民館と併設されており、周辺には全天候型テニスコートや野球場がある松伏記念公園、ならびにサッカーなどができる多目的競技場を設けた松伏総合公園があって、町の健康づくり推進に活用されている。

● 下野市国分寺B&G海洋センター

昭和58年(1983年)開設(体育館・プール)。野球場やテニスコートを有する運動公園のなかにあって小中学校も周辺に控えていることから、各種サークルや児童生徒の利用が多く、地域スポーツの中心的な役割を担っている。

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第1話合致した思い

新しい事業に取り組みたい!

松伏海洋センターの指導員、飛鳥馬さん(右)と高鹿健士(13回アドバンスト)さん。カヌー教室を開くために、いろいろな知恵を絞ってきました

 県ごとにチームを組んで参加するB&G全国ジュニア水泳競技大会や、各ブロックで行うスポーツ交流大会などは別として、日々の活動において他県地域の海洋センター同士が手を携えて事業を行うケースはそう多くはありません。

 埼玉県松伏町B&G海洋センター(以下、松伏海洋センター)も従来は単独の事業に励んでいましたが、町役場の異動によって現場に復帰した飛鳥馬 昇さん(アドバンスト24期)が、近隣の久喜市栗橋B&G海洋センター(以下、栗橋海洋センター)に声を掛けたことをきっかけに、カヌー教室や水辺の安全教室を共同で行うようになっていきました。

 「海洋センターの仕事に戻ったため何か新しい事業を始めたいと考え、艇庫がない松伏でもプールを使ってカヌー教室をやりたいと思いました」と飛鳥馬さん。

 そこで、当時、海洋クラブでカヌーの活動に励んでいた栗橋海洋センターに器材を借りられないか相談。話を受けた同センターの川島正光さん(アドバンスト19期、全指会副会長)と松田喜和さん(第1回アドバンスト)が検討した結果、「器材は十分にあるので貸すことはできるし、出前カヌー教室をしていてプールでの活動ノウハウもあるから人材協力も行おう」ということになりました。

 「また、水辺の安全教室を始めたばかりだったので、先の展開を考え、2つの海洋センターで知恵や人材を出し合っていけたらいいなと思いました。そのため、『B&Gカヌー&水辺の安全教室』という抱き合わせの事業を提案し、こちらがカヌー器材とプールの出前授業のノウハウを提供しつつ、水辺の安全教室については、お互いに協力しながら進めて行こうということになりました」

 そう振り返る川島さん。新規にカヌー教室をしたい飛鳥馬さんと、始めたばかりの水辺の安全教室を一緒に行うことで事業を拡大したい川島さんや松田さんの思いが見事に合致したのでした。

順調なスタート

栗橋海洋センターの川島さん(上)と松田さん(下)。2人は、松伏海洋センターの相談を受けて連携事業を進めていきました

 いまから4年前の平成22年の夏、クルマで1時間ほどの距離にある栗橋海洋センターから5艇のカヌーが松伏海洋センターのプールに運ばれ、最初の共同事業が実施されました。

 「初めての試みなので参加人数を制限し、プールで10人の子供たちが5艇のカヌーに乗り、別の子供たち10人がプールサイドで水辺の安全教室を受講。そのメニューを1時間交代で行いました」

 参加人数を制限しながら、2つの海洋センターから複数の指導者が参加したこともあり、十分な人手のもとで教室は順調に推移。ゆとりのある活動になったため、始めたばかりの水辺の安全教室については、各プログラムの時間を調整しながらメリハリをつけるなど、さまざまな課題点を見つけることができ、1つの海洋センターによる単独の事業では、なかなか得ることができない体験となりました。

広がる輪

 平成22年度から始まった、共同事業による「カヌー&水辺の安全教室」。その募集告知を見た、知的障がい者支援を行うNPO法人から、「知的障がい者向けのカヌー教室も、来年からしていただけないでしょうか」という相談を受けました。

 「私たちは知的障がい者の皆さんにカヌーを教えた経験がなく、安全管理の面で不安があったので、最初は無理だと思いました。しかし、海洋センターの指導員だけで参加者を預かるのではなく、各海洋センター地域指導者会にも手伝ってもらうほか、普段から知的障がい者の方々とコミュニケーションを取っているNPO法人や埼玉県障がい者スポーツ指導者協議会の皆さん、そして松伏町スポーツ推進委員の人たちにも加わってもらい、乗艇1人について2人から3人の補助員を確保すれば安全が確報できると踏んで実施を決めました」

 残念ながら、平成23年度は告知が十分に伝わらなかったために参加者が集まらず、前年同様、健常者の子供たちだけの教室になりましたが、翌24年度には成人を中心にした知的障がい者の皆さん十数名(30歳から60歳)が参加。会場も海洋センターのプールではなく、隣の吉川市が運営している流れるプールを使ってフィールドの幅を広げました。

 「流れるプールなら漕げなくても前に進んでいくので良いのではないかという話になり、プール関係者に相談すると、『吉川市の子供たちも参加させてくれのなら、お貸ししましょうと』快諾してくれました」

 教室は、午前中に松伏町や吉川市の健常者の子供たちを対象に行い、午後からは知的障がい者の皆さんを対象に実施。飛鳥馬さんや川島さんが心配した補助の問題も、各地域指導者会をはじめ、NPO法人や県、町の団体から40名ほどが参加して万全の態勢を取ることができました。

 また、このとき、栃木県下野市国分寺B&G海洋センターの近藤隆博さん(第11回アドバンスト)が、B&G特派員として取材で参加。ところが、思わぬことから近藤さんも指導を手伝うことになり、この縁がもとで同海洋センターも連携事業の輪のなかに入っていくことになりました。(※続きます)

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平成22年度から松伏海洋センターのプールで始まった「カヌー&水辺の安全教室」。地元の子供たちがカヌーを楽しむようになっていきました

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複数の補助員や指導員のもとでカヌーに乗り込む、「障がい者カヌー&水辺の安全教室」の参加者。さまざまな団体、組織の皆さんが力を合わせて実現しました