連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 99

B&G指導員親子が獲得した、OP級世界選手権大会へのチケット


2014.04.30 UP

二人三脚でヨットの頂点をめざす、B&G時津海洋クラブの尾道さん親子

OP級ヨットの日本代表チームに入るためには、数々の国内大会で上位の成績を収めたうえ、全日本選手権大会や最終選考会レースを勝ち抜かねばなりません。
2014年度の日本代表チームを決める最終選考会レースは昨年12月に別府市で実施され、幼い頃からアドバンスト・インストラクターの父、輝寿さんの指導を受けながら二人三脚で練習に励んできたB&G時津海洋クラブの尾道佳諭君(中2)が準優勝を獲得。4位に入ったB&G兵庫ジュニア海洋クラブの藤原達人君(中2)とともに、今年10月にアルゼンチンで開催される2014年度 OP級ヨット世界選手権大会に出場する日本代表チームに選抜されました。
今回は、頂点の舞台に立ったら「少しでも上位をめざしたい!」と意欲を語る尾道佳諭君と、その活躍をサポートし続けるB&G指導員、輝寿さん親子の活動に注目しました。

プロフィール
● 尾道輝寿(おのみち てるひさ)さん

昭和50年(1975年)生まれ。長崎県時津町出身。中学1年生のときからB&G時津海洋クラブでヨットを始め、大学を出ると町役場に就職。アドバンスト・インストラクター資格を取得して海洋センターに5年間勤務し、以後、別の部署に異動してからも海洋クラブで子供たちのヨット活動を指導し続けている。

● 尾道佳諭(おのみち けいと)くん

平成11年(1999年)生まれ。長崎県時津町出身。小学1年生のときから、父、輝寿さんの指導を受けてヨットを始め、小学2年生でB&G OP級西日本大会Cクラス優勝。以後、数々の国内大会で頭角を現し、昨年はヨーロッパ選手権にも出場。今年は10月にアルゼンチンで開催される世界選手権大会への出場が決まっている。

● B&G時津海洋クラブ

平成元年(1989年)、時津町B&G海洋センターの設立に併せて活動を開始。体育館の隣に建設された艇庫を拠点に、大村湾でヨットやカヌーの練習に励んでおり、会員は国体などの全国大会に積極的に出場している。

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第5話(最終話)これから本当の戦いが待っている!

ライバルとともに歩む道

昨年の選考会レースでトップ艇団の先頭を走る佳諭君。総合2位に入って、今年度の日本代表チーム入りを果たしました

 昨年の夏、念願の日本代表チーム入りを果たし、ハンガリーで開催されたOP級ヨーロッパ選手権大会に出場した佳諭君。カタコトの英語を駆使して海外選手たちとの交流を深め、レースではワールドクラスの激しい競り合いを体験しました。

 「初めての国際レースは不本意な成績で終わりましたが、上手な選手と一緒に走ったことで挑戦意欲を掻き立てられ、帰国してからの練習に力が入っていきました」

 そう語る佳諭君。父の輝寿さんも、ヨーロッパ選手権大会に出場したことをきっかけに佳諭君の意識が高くなったことを感じていました。

 「ヨーロッパ選手権大会に行く前に、周囲のヨット関係者から『国際レースに出ることはとても良い経験になるはずだ』と言われましたが、実際、国際舞台に立ったことで自信がついたのか、その後の国内レースでは常に力強い走りを見せるようになりました」

 

佳諭君とともに世界選手権大会の日本代表チームに入ったB&G兵庫ジュニア海洋クラブの藤原達人君(中3)。B&G海洋クラブの2人の選手が活躍してくれることに、ぜひ期待したいと思います

 日本代表として戦った経験から、そう簡単に人に負けるわけにはいかないという気持ちが出るようになったのではないかと振り返る輝寿さん。ヨーロッパ選手権大会以降の佳諭君は、国内を転戦しながら順調に成績を伸ばしていき、昨年の冬に開催された選考会レースを経て、見事に今年度も日本代表チームの一員に選ばれました。

 「2年続けて日本代表チームに入ることができたのはうれしいに違いありませんが、全日本選手権大会が2位で、選考会レースも2位だったため、本音を言えば少し悔しかったはずです。でも、佳諭を含めてこの上位3人が小学時代から常に競り合って切磋琢磨してきた経緯があるので、良きライバルに恵まれた結果なのだと思います」

 実力伯仲のライバルがいるからこそ、「負けられない」という気持ちになってレベルアップしていくことができると語る輝寿さん。今年度の日本代表チームには19人の選手が選ばれ、アジア選手権、ヨーロッパ選手権大会、そして世界選手権大会への出場に振り分けられましたが、この3人のライバル同士は全員が世界選手権大会の出場メンバーに選ばれました。

上位をめざせ!

世界の晴れ舞台をめざして選考会レースに挑む国内トップクラスのOP級選手たち。日本代表チームに入ることができたのは、わずか19人の選手に限られました

 今年度の世界選手権大会は、10月20日から10日間の日程で、アルゼンチンの首都、ブエノスアイレスで開催されます。現在、佳諭君を含む日本代表チームは国内合宿を繰り返しながら本番に向けたトレーニングに励んでいます。

 「10月が待ち遠しいですが、まだまた佳諭には世界の頂点を奪う力はありません。これから国内でいくつかの大会を経てアルゼンチンに向かう予定ですが、それまでにどれだけパワーとスキルを身につけることができるかにかかっています」

 昨年のヨーロッパ選手権大会以降、意識が高まったことに加え体も成長してフィジカル面も強くなっていることに期待を寄せている輝寿さん。世界選手権大会の目標として、佳諭君自身は「20位以内」を掲げていますが、応援する私たちとしては国内のライバルとともに表彰台を狙ってほしいところです。

オリンピックにも出たい!

 現在、中学3年生の佳諭君。OP級には15歳の年齢制限があるので、今回の世界選手権大会、そしてその直後に行われる全日本選手権大会が済むと、新しい種目に移る予定です。

 「OP級はシングルハンド(1人乗り)でしたが、今後はインターハイなどで使われるダブルハンド(2人乗り)の420級に乗ることになると思います。シングルハンドのシーホッパー級やレーザー級もありますが、個人的にはダブルハンドで行きたいと考えています。なぜなら、2人で乗っていたら海の上でいろいろ相談できるし、相手に自分のミスを指摘してもらうこともできるからです」

 2人で知恵を出し合いながら、より上のレベルをめざしたいと語る佳諭君。人間関係は『1+1=2』ではなく、パートナーと固い信頼関係で結ばれたら、『1+1=2』以上のものが得られるのではないかと考えているそうです。

 「シングルハンドでは体の大きな欧米選手との間に体重的なハンディキャップが生まれがちですが、ダブルハンドなら2人のコンビネーションでその差を少なくすることが可能です。ですから、オリンピックのような世界の頂点をめざすのならダブルハンドのほうが挑みやすいのではないかと思います」

 世界を見据えて、ダブルハンドのクラスに大きな可能性を感じている輝寿さん。再来年に迫ったリオデジャネイロ・オリンピックは無理だとしても、佳諭君は6年後の東京オリンピック時には21歳になっていて、まさに選手としての適齢期を迎えます。

 「ちょうど良い年齢になるので、できれば東京、そしてその次のオリンピックに出場できたらいいなと思います」と意欲を示す佳諭君。そのために選手として何が大切か聞いてみると、「強い気持ちを持っていなければ、ヨットレースは戦えません。少しでも気持ちが引けたら、そこで勝負が終わってしまいます」と、中学生ながら落ち着いた口調で語ってくれました。

 小学4年生で出場したB&G OP級西日本大会Cクラスで優勝して以来、さまざまな大会で勝つ喜びを味わい、思うように走ることができなかった悔しさを噛みしめてきた佳諭君。その一喜一憂を見守り続けてきた父、輝寿さんとともに、これからもうれしい結果をどんどん届けてほしいと思います。(※完了)

 写真:青野康広(B&G松山海洋クラブ)

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選考会レースで力走する佳諭君。10月の世界選手権大会では、どんな走りを見せてくれるのか楽しみです

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今回の取材でB&G時津海洋クラブを訪れると、雨にもかかわらず6人の子供たちが迎えてくれました。右から3人目が佳諭君です(写真:B&G財団広報課)