連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 98

年間を通じた活動で、子供たちにふるさとの良さを伝えたい!


右から、連携を提案した海洋センター職員の村川さん。ともに手を携えた「ふるさと探検隊」の小野さん、金子さん(事務局長)、町田さん

2014.03.19 UP

他団体との連携で活動の輪を広げた、B&G生月海洋クラブ

長崎県西部に位置する、南北約10キロ、東西約2キロの細長い形をした生月島(平戸市生月町)。昔から漁業が盛んで、かつては沿岸捕鯨も行われて賑わいましたが、近年には少子高齢化が進み、この15年間で地域の人口が約25%減少。子供の数に至っては50%以上も減ってしまいました。
そのため、昭和60年に開設された地元の生月町B&G海洋センター、クラブの利用者数も次第に下降線を辿りましたが、現役、およびOBのB&G指導員に地域のボランティアが加わり、地元で活動している生月自然の会「ふるさと探検隊」と海洋クラブの連携が実現。ともに手を携えて双方の事業を行うことで、これまで夏場が中心だった海洋クラブの活動が一気に年間型に拡大していきました。「いまでは、新しい艇庫を建てる気運も高まっています」と気を吐く関係者の皆さんに、活動の経緯や今後の展望などをお聞きしました。

プロフィール
● 平戸市生月B&G海洋センター(長崎県)

昭和60年(1985年)開設(体育館・上屋付プール)。島の中心部にあって野球場に隣接しており、地域のスポーツ、健康づくり拠点として機能。特に夏場は、出前授業で地元小学校の水泳指導に力を入れている。

● B&G生月海洋クラブ

昭和59年(1984年)に設立。漁業倉庫を艇庫として借りて活動を続け、地元に密着した活動を展開。2年前からは生月自然の会「ふるさと探検隊」と連携して多岐にわたる活動に励んでいる。

● 生月自然の会「ふるさと探検隊」

地元博物館の館長でセンター育成士OBの金子 証氏が事務局長となって、地域の文化や歴史、自然を学ぶさまざまな活動を展開。島の子供たちに地元の海を学び体験してほしいと、海洋クラブの活動と連携するようになった。

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第3話新たに生まれた活動の輪

四季折々の活動

平成25年度に生月「ふるさと探検隊」が行った活動の数々は、博物館内にパネルで展示されています。博物館の館長で同隊の事務局長を務める金子さんが、各写真の内容を説明してくださいました

 町で初めてのセンター育成士(現:アドバンスト・インストラクター)として海洋センター・クラブ事業を軌道に乗せ、その後、地元の博物館で館長を務めるようになった金子さん。新しい職場に赴くと、郷里の文化や歴史に関する調査や展示の仕事を行いながら、海洋センター勤務時代の経験を活かして、子供たちの自然体験活動や環境学習に力を入れていきました。

 その受け皿として生まれたのが生月自然の会「ふるさと探検隊」であり、事務局長を務める金子さんに加え、遠洋巻き網漁船に乗っていた元漁師の小野数勝さんと元消防士の町田治康さんの2名がボランティアの中心的な存在となって、子供たちの学びを支えています。

 「現役の頃は1カ月に20日以上は海に出ていましたから、最近の子が海で遊ばなくなったことをよく知りませんでした。ですから、引退して陸の生活に戻ったときは、その現実を垣間見てカルチャーショックを受けました」

 そう語る、元漁師の小野さん。「ふるさと探検隊」では地元の海や漁業を学ぶ目的で釣り講座も開いており、多くの子供たちが港の堤防などに集まって、小野さんから釣り方を教わって喜んでいます。

 一方、元消防士の町田さんは、現役時代から海洋クラブに通って子供たちの世話をしていたため、金子さんが「ふるさと探検隊」を立ち上げると、ごく自然に手伝うようになりました。

 「現在、『ふるさと探検隊』では年間35ぐらいの事業を行っており、私と彼らの3人が核になって活動していますが、子供たちを見守る目は多いほど良いので、なるべく保護者の方々も一緒に参加してもらうように声を掛けています」と金子さんは語ります。

 1年を通じて何らかの活動を行っている「ふるさと探検隊」。その内容は、前回に紹介したように、タイワンツバメシジミ(蝶)やミサゴ(魚を獲る鷹の一種)の生態を調査するといった博物館的な視点での活動が中心になっており、ホタルの生息域調査の結果は川の整備事業に反映されています。

左下が元漁師の小野さん。右上が元消防士の町田さん。左上の金子さんとともに「ふるさと探検隊」の中心的な役割を担っています。右下は海洋センターの村川さんです

 「生月島は、北から飛んできて大陸をめざす鷹と、その逆のルートを飛ぶ鷹が、ともに羽を休める中継地の島として知られています。そんな光景を観察する子供たちには、自分が育った島を大切する気持ちが芽生えます」

 ホタルの観察は山菜摘みなどとともに春先に行われ、陽気がよくなるにつれて田植えやキャンプを行い、夏には海洋クラブと合流してヨットやカヌーを体験。秋になると島を渡る鷹の観察や米の収穫などを行い、冬にはクリスマスや正月の行事を楽しみます。そんな四季折々の活動を続けることで、子供たちは大人になって島を離れても、自分のふるさとを心の奥にしっかりと刻むことができます。

リタイア世代への期待

島に渡ってくる鷹の観察に励む子供たち。貴重な島の自然を学ぶことで、自分たちの郷里に誇りを持つようになります

 自然豊かな生月島のフィールドで活発な活動を続ける「ふるさと探検隊」。2年前からは、海洋センター職員、村川さんの発案によって、海洋クラブが「ふるさと探検隊」と一緒になって夏場のマリンスポーツ活動を行うようになりました。

 この連携によって、海洋クラブにおける夏季の事業が拡大。また、交流が深まるにつれて、海洋クラブの子供たちも春や、秋、冬に行われる「ふるさと探検隊」の活動に、自由参加で加わるようになっていきました。

 「以前は、夏が近づくにつれてヨットもカヌーも大会をめざして練習するという意識になりがちでしたが、『ふるさと探検隊』と一緒に活動するようになってからは、自然を学びながら楽しく乗る雰囲気が高まって、活動の幅が広がりました。いまの子の多くは、『がんばろう』だけの活動では息が切れてしまうので、この連携によって助かりました」と村川さんは語ります。

 「ふるさと探検隊」と一緒に海に出ることで、夏場の活動が活性化した海洋クラブ。小野さんや町田さんという、強力なボランティアの力を頼ることもできるようになりました。

 「小野さんも町田さんもロープワークなら誰よりも知っていますし、海に詳しい小野さん、危機管理のスペシャリストの町田さんがいれば、海に出ても大きな安心感が得られます」

 一方、「ふるさと探検隊」も海洋センターの体育館やプールを積極的に利用するようになり、クリスマスの飾りを作るときなどは50人ぐらいの子供が体育館のフロアにシートを張って一斉に作業するようになりました。

 「アウトドア活動の日に雨が降っても、体育館を使わせてもらって別のメニューを行うなどして、活動のオプションがいろいろ考えられるようになりました。また、『ふるさと探検隊』としても海洋センターのB&G指導員という人的なサポートを受けて安心感が増しました」

 それぞれに活動が広がり、指導力も高まって安心感が増したと語る村川さんや金子さん。近々、「ふるさと探検隊」には海上保安庁を退職する人など、数人のボランティアが加わるそうで、現場を担う力はますます高まります。

 「仕事をリタイアしたボランティアの人たちは皆、熱心で、元消防士の町田さんなどは一度も活動日に休んだことがありません。どこの地域でも元気なリタイア世代がいるはずですから、私たちのような活動にどんどん誘うべきだと思います」

 アウトドア活動に興味のある人なら、少なくとも孫ができるまでは熱心に協力してくれるはずだと語る金子さん。その反面、最近は言うことを聞かない子や、叱っても平気な顔をする子が増えてきたことに頭を悩ませるようになりました。(※続きます)

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ホタルの生息を調べるために川の上流をめざす子供たち。調査結果は、川の整備に役立てられています

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夏に近づくと、以前なら大会の出場をめざして練習に励むことが中心になりましたが、「ふるさと探検隊」と一緒に活動するようになってからは、いろいろなメニューも楽しむようになりました