連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 98

年間を通じた活動で、子供たちにふるさとの良さを伝えたい!


右から、連携を提案した海洋センター職員の村川さん。ともに手を携えた「ふるさと探検隊」の小野さん、金子さん(事務局長)、町田さん

2014.03.13 UP

他団体との連携で活動の輪を広げた、B&G生月海洋クラブ

長崎県西部に位置する、南北約10キロ、東西約2キロの細長い形をした生月島(平戸市生月町)。昔から漁業が盛んで、かつては沿岸捕鯨も行われて賑わいましたが、近年には少子高齢化が進み、この15年間で地域の人口が約25%減少。子供の数に至っては50%以上も減ってしまいました。
そのため、昭和60年に開設された地元の生月町B&G海洋センター、クラブの利用者数も次第に下降線を辿りましたが、現役、およびOBのB&G指導員に地域のボランティアが加わり、地元で活動している生月自然の会「ふるさと探検隊」と海洋クラブの連携が実現。ともに手を携えて双方の事業を行うことで、これまで夏場が中心だった海洋クラブの活動が一気に年間型に拡大していきました。「いまでは、新しい艇庫を建てる気運も高まっています」と気を吐く関係者の皆さんに、活動の経緯や今後の展望などをお聞きしました。

プロフィール
● 平戸市生月B&G海洋センター(長崎県)

昭和60年(1985年)開設(体育館・上屋付プール)。島の中心部にあって野球場に隣接しており、地域のスポーツ、健康づくり拠点として機能。特に夏場は、出前授業で地元小学校の水泳指導に力を入れている。

● B&G生月海洋クラブ

昭和59年(1984年)に設立。漁業倉庫を艇庫として借りて活動を続け、地元に密着した活動を展開。2年前からは生月自然の会「ふるさと探検隊」と連携して多岐にわたる活動に励んでいる。

● 生月自然の会「ふるさと探検隊」

地元博物館の館長でセンター育成士OBの金子 証氏が事務局長となって、地域の文化や歴史、自然を学ぶさまざまな活動を展開。島の子供たちに地元の海を学び体験してほしいと、海洋クラブの活動と連携するようになった。

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第2話未来に向けて手を結ぼう!

後継者の悩み

設立されたばかりの海洋クラブで、子供たちと一緒にヨットやカヌーを楽しむ金子さん。昔はたくさんの子供がいましたが、年を追うごとに少子化の波が押し寄せていきました

 町で初めてのセンター育成士(現:アドバンスト・インストラクター)になって、海洋センターの運営に励み、海洋クラブの活動にも力を入れ続けた、金子 証さん。赴任して10年が過ぎた平成7年には後任の村川安亨さんに仕事を託し、いったん家業に入った後、町の博物館の館長を務めることになりました。

 後を継いだ村川さんは、金子さんと同じように体育館やプールの運営とともに海洋クラブの活動にも力を入れ続け、さらなる事業の展開をめざして平成14年からは海洋センターで中学校の総合的な学習の時間を受け入れるようになりました。

 「学社融合を進めた町の方針に沿って、地元の中学校でカヌーの出前体験授業を行ったところ、先生方から『総合的な学習の時間でもカヌーの体験を行いたい』と提案されたので、活動メニューを考えて授業のなかに組み入れてもらいました」

 かつて生月島では、「せり船」と呼ばれる大型の和船を大勢の漁師さんが漕いでクジラ漁が盛んに行われていました。中学校では、総合的な学習の時間を使ってこの伝統的な文化を学ぶことになり、「せり船」やカヌーに乗って実際に地元の海を体験するようになりました。

 この授業は現在でも続けられており、島の中学生のほとんどがカヌーを地元の海で体験しています。しかし、前回で述べたように年々子供の数が減っていくことに、村川さんは憂慮するようになっていきました。

島の自然を学ばせたい

平戸市生月町博物館「島の館」。金子さんは、長らく海洋センターの運営に励んだ後、館長に就任して現在に至っています

 村川さんに海洋センターを託した後、博物館の館長になった金子さん。新しい職場に赴任すると、生月自然の会「ふるさと探検隊」を立ち上げ、子供たちに島の自然を学んでもらう活動を進めていきました。

 「博物館で働くことになった際、地元の文化や歴史に関しては学芸員が詳しいので、私は島の自然に関する学びを広げていきたいと考えました。

 就任当時は、島の周囲に磯焼けの被害が出ていたので海岸の生き物調査を始め、絶滅危惧種に指定されているタイワンツバメシジミ(蝶)やミサゴ(魚を獲る鷹の一種)などの生態を調べるようになりましたが、こうした作業を子供たちと一緒にすれば環境教育になると思って『ふるさと探検隊』を作りました」

 ふるさと探検隊は、動植物の生態を10年かけて調べよう、川や海と島の暮らしとの関わりを調べようといった、あくまでも博物館の視点で活動を始めていきました。

 そのため、B&Gプランのような海事思想的な面はさほど意識していなかったそうですが、金子さんはキャンプのときなどに「ふるさと探検隊」の子供たちをカヌーやヨットに乗せて海に出るようにしていきました。

 「多くの子供たちは、いつか島を出ていきます。そのときが来るまでに、自分が育った島の緑や海を、体験として脳裏に刻んでおいてほしいのです。都会に出て苦しい思いをした際、島の美しい自然を思い浮かべることで気持ちが癒され、立ち上がる元気が出てくるのではないかと思うからです」

プールでカヌー体験を楽しむ子供たち。海洋センター、クラブでは海と接する機会が減った最近の子供たちを、少しずつ水辺に戻していく努力を続けています

 都会の子と同じように、塾や習い事で忙しい日々を送っている生月島の子供たち。その半数以上は夏になっても海に入らず、魚を釣ったことのない子も7割近くになるのではないかと、金子さんは語ります。

 「かつて、島の人たちは渡し船に乗って陸地に出掛けていましたが、平成3年に橋ができてからは、船に乗ったことのない子の数も増えてしまいました。海に囲まれた島で暮らしているのに、海を意識しないまま大人になってしまうわけです。

 ですから、もっと早くから、こうした活動を始めておきたかったと思います。もしかしたら、カヌーの体験を通じて海が好きになり、島を出ずに漁業を継ぐ子の数も増えていたかも知れません」

生きる力を求めて

 博物館の視点でさまざまな自然体験活動を行い、ときには海洋センターでカヌーやヨットを借りて海に出ていた「ふるさと探検隊」。その活動を率いる金子さんのもとに、思わぬ話が舞い込んだのは、いまから2年前のことでした。

 「当時から、『ふるさと探検隊』は年間を通じて活動していましたが、夏場だけでも海洋クラブと一緒に活動してもらえないかと、村川さんから相談されました。それまで、私たちはカヌーやヨットを借りて乗ることはありましたが、『ふるさと探検隊』も『海洋クラブ』も別の団体であるという意識でいたので、一緒に活動することは思いつきませんでした。そのため、これは良いアイデアだと思いました」

 共同活動の提案を聞いて、目からウロコが落ちる思いがしたと振り返る金子さん。その一方、提案をした村川さんは、年々子供が減る現状を乗り越えて、なんとかして海洋クラブの活動を活発化していきたいという気持ちでいっぱいでした。

 「夏場だけでも、『ふるさと探検隊』の子供たちが海洋クラブに加われば活動の幅が広がります。また、海洋クラブの子供たちにしても、春や秋、冬場に行う『ふるさと探検隊』の活動に加えてもらうことで、いろいろな体験ができるようになります」

 子供たちを見守る目は、多ければ多いほど良いと語る金子さん。2つの団体が手を携えることで指導員の数も増えることから、現場の安全管理もしやすくなりました。

 「故郷の文化や歴史を学び次世代に伝えるという博物館の理念においても、海事思想の普及を唱える海洋クラブの理念においても、"子供たちの生きる力を育む"ことが求められています。ですから、一見、ともに異なる事業に見えても、協力し合える面はたくさんあります」

 お互いに手を携えるようになった海洋クラブと「ふるさと探検隊」。金子さんや村川さん、そしてボランティアの皆さんが知恵を出し合いながら、さまざまな活動計画が練られていきました。(※続きます)

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田植え体験に参加する「ふるさと探検隊」の子供たち。郷土の文化や歴史を学ぶため、春から冬まで年間を通じた活動が組まれています

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島の水辺で見ることができるホタルの生態を学ぶ「ふるさと探検隊」の子供たち。環境学習が活動の大きな要素になっています