連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 88

体と頭を楽しく動かせば、たくさんの元気が沸いてくる

2013.05.08 UP

レクリエーションゲームの普及・指導に励む、東 正樹さん

37年間にわたって実施してきたB&G財団の体験クルーズ事業。その多くの航海に参加して、船上や寄港地で参加メンバーに楽しいレクリエーションゲームを提供してくれたのが、現在、(公財)日本レクリエーション協会専門委員を務めている東 正樹さんでした。
「レクリエーションゲームが人を元気づけ、元気が生きる力を育みます」と語る東さん。今年3月のラストクルーズに講師として乗船していただいた際に、これまでの振り返りを含めていろいろな話題をお聞きすることができました。

プロフィール
●東 正樹 (あずま まさき)さん

昭和25年(1950年)生まれ、三重県出身。大学で社会学や体育学を専攻しながら、ボランティア活動を通じてキャンプやレクリエーションゲームのノウハウを習得。卒業後は、東京都レクリエーション協会連盟(現:協会)の講師として、企業や学校などでレクリエーションゲームを指導するほか、B&G体験クルーズや指導者養成研修の講師としても活躍。TBSラジオ「全国こども電話相談室」の回答者や日本オリンピック委員会強化スタッフを務めるなど、幅広い活動を展開し続けている。
著書:「いちばんやさしいレクリエーションゲーム全集」(成美堂出版)ほか多数。

画像

第1話たくさんの子を喜ばせてあげたい!

新聞で見つけた10行記事

 学園紛争真っ盛りの昭和40年代に大学生活を送った東 正樹さん。紛争が激化して休講が続くなか、新聞を読んでいて小さな記事に目が留まりました。

 「それは、少年少女のキャンプ活動に付き添うボランティアリーダーを東京YMCAが募集している、たった10行の記事でした。当時は大学の授業が滞りがちで暇を持て余していたので、ボランティア活動も面白いかなと思いました」

 社会学や体育学を学んでいたこともあって、この記事に興味を覚えた東さん。さっそく東京YMCAを訪れ、ボランティアの輪に加わりました。

 「子どもたちとキャンプを共にするなかで、ボランティアリーダーの仕事がどんどん面白くなっていきました。町で暮らしているときは、さほど他人を気にしないものですが、野外に出ると子どもたちでも仲間を意識して共に協力し合うようになります。人と人を結んでくれる野外という舞台に魅力を感じました」

画像

児童館の子どもたちに付き添って、お化け屋敷に入る東さん。大学を出た頃に請け負った仕事のワンシーンです。子どもたちと同じぐらい怖がっている様子です!

画像

看護学校の生徒を集めてレクリエーションゲームを行う若き日の東さん。野外という舞台には人と人をつないでくれる力があるそうです

教科書のないプログラム

 東さんがボランティアの野外活動に魅せられた理由は、もう1つありました。どうしたら子どもたちが自分についてくるか、指導方法を自分で考えて工夫することが楽しくなっていったのです。

 「ボランティアリーダーになるための教科書はありません。さしあたってリーダートレーニングという先輩ボランティアの講話があるのですが、そこでいろいろな答えを親切に教えてくれるわけでもありません。先輩の話を聞きながら自分に合った指導法を探って試していく努力が求められるのです。

 たとえば、子どもたちを山登りに連れ出したとしましょう。Aチームのリーダーは、『がんばれ、がんばれ』と子どもたちの背中を押すことばかりに集中し、Bチームのリーダーは『この花は何でしょう』などと周囲の草花を話題にしながら進みます。

 すると、同じ道を歩いたのに、Aチームの子どもたちは疲れきってしまい、Bチームの子どもたちは覚えたばかりの花の名前を口にしながら楽しそうにゴールします。

 つまり、子どもたちとの接し方次第で、同じプログラムでも参加した子どもたちの様子がかなり違ってしまうということです。ボランティアリーダーを務める人は、どうしたら子どもたちに楽しんでもらいながら山を登ってもらえるか、自分なりに考える努力が必要です。

画像

25歳のときに、箱根でレクリエーション講座の講師を務めた際の東さん(前列中央)。山の頂をめざしながら楽しく登る工夫をいろいろ考えました

 また、キャンプファイアの火おこしが得意な人もいれば、ゲームを指導するのが得意な人もいるわけです。ですから、どの場面で自分の才能を活かしたらよいのか考えておくことも大切です」

 活動プログラムが子どもたちに喜んでもらえるかどうかは、そこに関わる指導者や運営スタッフの心意気によって決まると語る東さん。教科書がない分、自由に自分の思いを込めながら、さまざまなプログラムをこなしていきました。

 「キャンプ生活を送るなかでは、山登りのような体力的にきついプログラムもありますが、最後の晩にキャンプファイアを囲んで、『きついこともあったよね。でも、やり遂げたら達成感が沸いたよね』などと子どもたちに話しかければ、皆、自然に涙がこぼれます。そんなことを繰り返しながら、もっとたくさんの子に同じ経験をしてもらいたいと思うようになり、指導を工夫することがますます楽しくなっていきました」

自分なりに重ねた努力

画像

どんなところに出向いても、東さんは集まった人たちのニーズに応える努力を惜しみません。いかにゲームを楽しんでもらうか、その工夫を考えることは苦になりません


 小さな新聞記事をきっかけにボランティアの野外活動に励んだ東さん。大学では社会科と保健体育科の教員資格を取得しましたが、卒業するとYMCAの恩師から東京都レクリエーション協会の奥野正恭先生を紹介されました。

 「奥野先生はフォークダンスの神様と呼ばれた方で、その指導を受けた私は東京音頭とか炭坑節のような踊りも自分なりにアレンジしてレクリエーションに取り入れていくことができました。B&G『若人の船』でも国際交流で日本の民謡を教えたことがありました」

 東さんは奥野先生に認められ、東京都レクリエーション協会の講師に認定。すると、次々に仕事の依頼が舞い込みました。

 「協会から仕事を紹介され、企業や団体の依頼を受けてレクリエーションゲームの指導にあたりましたが、私が得意としたのは、まさにB&G『体験クルーズ』で行っていたような、子どもたちの気持ちを高めて集中させるためのゲームでした」

 当時は、休む間もないほど仕事が入ったと振り返る東さん。場数を踏むに従って腕が上がっていくことを実感していきました。

画像

小笠原で子どもたちとジャンケンゲームを行う東さん。現在も、子どもたちの気持ちを高めて集中させるゲームが大の得意です

 「依頼を受けた企業や団体から報酬をいただいて指導するわけですから、プロ意識も高まっていきました。といいますか、協会は講師の仕事を厳しく評価するので、悪い評判が出たら次の仕事はなかなか紹介してくれません。ですから、依頼主が楽しい時間を過ごせるよう、自分なりに努力を重ねていきました」

 プロ意識を持つと同時に、人一倍、努力を続けた東さん。その努力が、仕事をする楽しさにつながっていきました。

 「私にとって、どうしたら人を喜ばせることができるのか、いろいろ考えることは楽しい作業です。ですから、努力したといっても無理を重ねたことはありません。好きこそ物の上手なれと言いますが、私はこの仕事に向いていたのでしょうね」

 天職とばかりに仕事に励んだ東さん。やがて、B&G財団の依頼を受けて、「国内体験航海(勤労・青少年の部)」に乗船してレクリエーションゲームを指導することになりました。(※続きます)