連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 83

海洋センターに通って記録に挑むスイマーたち Part 1


2012.12.12 UP

日本マスターズ水泳選手権大会で3種目を制覇した81歳の現役選手
~甲州市塩山B&G海洋センター(山梨県)で練習に励む、鈴木 桂さん~

全国各地で、たくさんの人が海洋センターのプールに通って練習に励んでいます。今年のB&G全国ジュニア水泳競技大会では、25道県から508人の選手が参加して賑わいました。また、インターネット水泳記録会では、5000人を超えるスイマーの皆さんが利用しています。今回は、そんな皆さんの励みになる活躍を続けている2人のスイマーを、Part 1、2(それぞれ2話の連載)に分けて紹介します。

Part 1に登場いただくのは、今年の日本マスターズ水泳選手権大会に出場して3種目で優勝を飾った山梨県甲州市の鈴木 桂さんです。地元の塩山B&G海洋センターが設立されて以来、20年間にわたってプールに通い続けている鈴木さん。現在も、週3~4日ほどの練習を欠かさないという81歳の現役選手に、水泳の魅力について語っていただきました。

※続くPart 2では、今年の全国JOCジュニアオリンピック50mバタフライ11-12歳の部で優勝した阪本祐也君(三重県大紀町大内山B&G海洋センター)を紹介します。

プロフィール
●鈴木 桂さん
昭和6年生まれ、山梨県出身。幼い頃から水泳に親しみ、山梨県立日川高校および日本大学で水泳部に在籍。卒業後は、母校日川高校や甲府第一高校などで教鞭を執りながら水泳部顧問として後輩を指導し、自らも社会人選手として国体などで活躍。平成4年に教職を退いた後も選手活動を続け、今年の日本マスターズ水泳選手権大会では3種目を制覇した。表彰:山梨県体育協会功労表彰(昭和61年)、日本マスターズ水泳大会20回出場表彰(平成21年)など。
●甲州市塩山B&G海洋センター(山梨県)
平成4年開設(屋内温水プール)。フルーツラインと呼ばれる美しい果樹園地域に建設され、年間を通じて利用できる屋内温水プールのメリットを活かして多くの人に利用されている。なお、甲州市は平成17年に周辺市町村が合併して誕生した。
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第2話100歳を過ぎてもやめられない

辛くても好きだからやめられない

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利用者の少ない昼間に来て、1人で練習に励んでいる鈴木さん。目標があれば辛いことも乗り越えられると語っていました

 教職を退いた後も、海洋センターの水泳教室で子どもたちを指導する傍ら、自らも練習を重ねてマスターズ水泳大会に出場し続けた鈴木さん。リタイア後に水泳を楽しむことができたのは、家の近くに海洋センターができたおかげだと語ります。

 「教師を辞めたその年に海洋センターができたので、縁を感じます。振り返ってみれば、これまでに20年近くも通っています」

 鈴木さんは、81歳になったいまでも海洋センターに週4日ほど来て、2~3キロ泳いでおり、利用者が少ない昼間に来るので、いつも1人で練習しています。

 「正直な話、1人で練習していると仲間がいない辛さを感じるときもあります。誰もいないプールで泳ぐことも多く、たまに一般の人が泳いでいると、一緒に練習しているわけでもないのに気持ちが弾みます」

 辛さを感じながらも練習を続けられるのは、水泳が好きだからと答える鈴木さん。水泳はタイムで実力を測ることができるので目標を立てやすく、その目標が練習の支えになるそうです。

 「教師を辞めてからは、マスターズ水泳大会が晴れ舞台になりました。1人の練習が辛くてもマスターズの出場が励みになり、そこでタイムを更新することでまた新たな目標が生まれます」

 そんな鈴木さんの努力は、平成15年の「日本マスターズ選手権大会」10年連続出場表彰や、平成21年の同大会20回出場表彰などを通じて高く評価されており、今年の大会でも長年培った実力が見事に証明されました。

次の目標は世界新記録

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塩山B&G海洋センターのプールは大きな窓から甲府盆地が一望できます。鈴木さんは、準備体操をしながら四季折々に変化する景色を眺めることを楽しみにしているそうです


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チャレンジレスキューに参加する子どもたち。地域の多くの子どもたちが海洋センターで水に親しんでいます

 北海道から沖縄まで各地区の大会を合わせると、延べ6400人もの中高年スイマーが参加した今年の「日本マスターズ選手権大会」。鈴木さんは、80~84歳の部の自由形選手として50m、100m、200m、400mの4種目に出場し、50m以外のすべてにおいて優勝を飾ることができました。

 「マスターズ水泳大会は5歳ごとにクラスが分けられます。ですから、80~84歳のクラスなら、最年少の80歳で参加することができた昨年が優勝の狙い目だったのですが、事情があって出場することができませんでした。

 ですから、81歳になった今年こそは優勝を逃すまいという気持ちで競技に臨みました。50mでは、ちょっとしくじって3位になりましたが、ほかのクラスで勝つことができたので、とてもうれしかったです」

 次の目標は85~89歳の部で勝つことだそうですが、その際は1500mという一番長い距離のレースで世界新記録を狙いたいと意気込んでいます。

 「50mや100mの短距離は大柄で力のある欧米の選手が有利ですが、長距離になればなるほど体が小さいけれど持久力がある日本人にチャンスが出てきます。ですから、持久力を最大に活かせる1500mに狙いを絞ってみたいのです」

 すでに今年、1500mで日本記録にあと5秒まで迫った鈴木さん。着々と新たな夢に向かって進んでいます。

恵まれた環境に感謝しよう!

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海洋センターに通う子どもたちが県内の大会で優秀な成績を収めています。目標を持つことが水泳を続ける秘訣であると鈴木さんは語っていました


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海洋センターのスタッフと鈴木さん。毎日のように練習に励む鈴木さんは、海洋センターの有名人。何日か続けて来ないと皆が心配するそうです

 水泳を続けるのは健康づくりのためでもあると語る鈴木さん。チームスポーツには仲間が必要ですが、水泳なら1人でプランを立てて練習できるので継続性が高いと指摘しました。

 「水泳は1人でも練習できるし、自分の成長をタイムで計ることができます。ですから、続けることが大切な生涯スポーツに最適です。しかも全身運動ですから、バランスよく贅肉を絞ることができます。実際、私は81歳ですが体重は20代とほとんど変らず、この年になるまで病気らしい病気をしたことがありません」

 海洋センターができた当初、鈴木さんは教育委員会に頼まれて水泳教室もしていましたが、その際、子どもたちに「ずっと続けようね」と言いながら指導していたそうです。

 「いろいろなスポーツと比較して、水泳ほどケガの少ない種目はありません。飛び込みさえ気をつければ、いつまでも安全に楽しめ、それが健康維持につながります。

 もっとも、水泳を続けていくには、先に述べたように目標を持つことが大切です。特に子どもたちを指導する際には、目標を与えたうえで、それに向かって進んでいきたいと思う気持ちを育ててあげることが必要です」

 取材当日も、世界新記録という大きな目標に向かって練習に励んでいた鈴木さん。もし、その望みが叶っても、また次に目指したい頂が見えてくることでしょう。鈴木さん自身も、「100歳を過ぎても泳いでいたい」と抱負を語っていました。 

 ※Part2:阪本祐也君(三重県大紀町大内山B&G海洋センター)に続きます。