連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 79

どんぐりから苗を育て、命の森と豊かな海を育てよう

~土地本来の植生で災害に強い森づくりを進める 宮脇 昭 先生~

東日本大震災が発生した際、根の浅い松の林は津波で流され、流木によって二次災害も起きました。ところが、カシやタブノキなど深い根を持つ土地本来の広葉樹林は津波を止めて背後の家や土地を守ってくれました。
このような木々は昔から鎮守の森と呼ばれて大切にされてきましたが、近代化の波を受けて激減しています。その植生分布を調べて警鐘を鳴らし、土地本来の木々による植樹事業で安心の防災林づくりを進めているのが、横浜国立大学名誉教授の宮脇 昭先生です。
「震災のガレキを邪魔者扱いしていますが、土と混ぜてさまざまな広葉樹の苗を植えれば、災害に強い根のしっかりした森が生まれます」と語る宮脇先生。
そんな防災林を海岸沿いに築いていけば、ガレキの処理問題も解決できるうえ、森の栄養が周辺の海に流れて豊かな水産資源を育みます。こうした理念に基づいて、B&G財団でも今年度から「海を守る植樹事業」を開始しました。

地域の安全と環境を守りながら自然の恵みを後世に伝える、夢多きプラン。その生みの親である宮脇先生に、事業の経緯や今後の展望について語っていただきました。
プロフィール

1928年生まれ、岡山県出身。広島文理科大学生物学科卒、理学博士。横浜国立大学名誉教授、ゲッチンゲン、ザールランド、ハノーバー各大学名誉理学博士号(いずれもドイツ)、タイ国立メージョウ農工大学名誉農学博士号、マレーシア国立農林大学(UPM)名誉林学博士号。公益財団法人 地球環境戦略研究機関国際生態学センター長、財団法人 横浜市緑の協会 特別顧問。平成12年 勲二等瑞宝章。平成18年 ブループラネット賞を日本人で初めて受賞。

参考文献:「鎮守の森」(宮脇 昭著/新潮文庫)、「瓦礫を活かす『森の防波堤』が命を守る」(宮脇 昭著/学研新書)、「『森の長城』が日本を救う」(宮脇 昭著/河出書房新社)
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第4話(最終回)命の森で列島をつなごう!

生き残った広葉樹

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東日本大震災の津波に倒された松林。一部は流木となって街中に入り、二次的な災害を招きました

 製鉄所の埋立地を緑豊かな広葉樹の森に変えた宮脇先生。以来、環境保全対策として多くの企業や自治体が「宮脇方式」と呼ばれる植樹事業を進め、遠く海外にも広まっていきました。

 平成23年3月11日、東日本大震災が起きた日も、宮脇先生はインドネシアのジャワ島で植生調査に励んでいました。

 「調査を終えて山を下りた際、現地のテレビニュースが悲惨な映像を流し続けていました。津波で流される家やクルマを見て、『これはどこか?』と尋ねると、『日本だ』というので、大きなショックを受けました」

 宮脇先生は仕事を済ませるとただちに帰国し、数人のスタッフとともに被災地へ向かい、さまざまな植生が地震や津波の影響をどのように受けたか調べ歩きました。

 「テレビなどで報道されたように、防潮林として植えられたアカマツやクロマツなどは津波で根こそぎ倒され、浸水を防ぐことができませんでした。しかも、流木になって家やクルマを押し流し、場所によっては二次的災害も引き起こしました。

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高さ15メートルの津波に襲われた宮城県南三陸町でしたが、大きなタブノキは津波を押し返していました。土壌だけが流され、むき出しのまま無数の太い根がしっかり残っています

 ところが、タブノキやシラカシといった土地本来の常緑広葉樹林は、大地の揺れにも高い津波にもしっかり耐えて生き残っていました。浅く横に伸びる根のマツと異なり、深根性、直根性の広葉樹は地中深くに根を張って大災害をやり過ごしたのです」

 思えば、タブノキやシラカシなどの群生は、鎮守の森として先人たちから大切にされてきました。昔の人たちは、経験によってこれらの木々が人の命や生活を守ることを知っていたのです。

ガレキに詰まった思い出

 震災の検証を済ませた後、宮脇先生は国土を守る植樹事業構想を発表しました。大量に発生したガレキを有効利用しながら、数百キロに及ぶ東北地方の海岸線に高さ20~30mのマウンド(土塁)を構築し、そこに土地本来の潜在自然植生を植えていくというものです。

 「タブノキなど土地本来の常緑広葉樹林が地震や津波に強いことが立証されたのですから、タブノキ、カシ類、シイなどを主木とした潜在自然植生の森をつくって、その防災能力を活かしていくべきです。また、大量に発生したガレキの処理に各自治体が頭を抱えていますが、有毒な素材を除いた木材主体のガレキを土に混ぜて『ホッコラ、ホッコラ』とマウンドを築けば、空気層の多い豊かな土壌を作ることができ、ガレキが腐れば養分になります」

 震災で生まれたガレキには、家や学校、職場などで過ごした人の思い出がたくさん詰まっていると指摘する宮脇先生。だからこそ、焼却処分するのではなく、その場に埋めて思い出の森、何があっても生き残れる希望の森にしていきたいと語ります。

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国土を守る植樹事業構想は、さまざまな地域で実践されています。写真は、今年4月に岩手県大槌町で開催された「千年の杜」植樹会の様子。背後に見える高く盛られたマウンドの斜面に皆で苗を植えていきます

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「千年の杜」植樹会には、細川護煕元首相(右)、細野豪志環境大臣(右から2番目)も参加。碇川 豊町長(右から3番目)、宮脇先生(左)とともに苗を植えていきました

命の尊さを伝えたい

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B&G財団でも今年度から「海を守る植樹教育事業」をスタート。5月には第1回B&G植樹リーダー研修会を開催し、全国22海洋センター・27人が参加して宮脇方式の植樹を学びました


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B&G植樹リーダー研修会の情報交換会で宮脇先生と握手を交わす参加者の皆さん。今後、各地域で「海を守る植樹事業」が展開されていきます

 ガレキを活用した緑の防波堤構想は各方面で注目され、すでに一部地域では事業計画が立ち上がっています。B&G財団でも、今年度から宮脇先生のご指導を受けながらB&G「海を守る植樹教育事業」を展開しています。森―川―海のつながりに着目し、豊かな海を守るために森が大切な役割を担っていることを、多くの子どもたちに体得し、知ってもらうことが目的です。

 「海を豊かにする有機物は、森から川を経て流れてきており、その一方、海で蒸発した雨が森を潤します。つまり、森と海は切っても切れない縁で結ばれているわけです。それゆえ、海を守るためには森も守らなければなりません」

 理屈は後でいいので、とにかく苗を植える現場に足を運んでほしいと語る宮脇先生。土に触れ、苗を1本手にすることで、子どもたちは命の尊さやすばらしさなどを学んでいくそうです。

 「どんなに科学・技術が発達しても、私たち人間は森の寄生虫の立場であり続けます。森の恵みがなければ暮らしていけないのです。そのことは、私たちのDNAに記憶されていますから、植樹の体験を通じて子どもたちは本能的に森の大切さが理解できると思います」

 木を植えることで森を理解し、そこからさまざまな命の尊さを知ることができると語る宮脇先生。より多くの子どもたちに、ドングリの苗を手にしてもらいたいと願っていました。(※完了)

写真提供:公益財団法人 地球環境戦略研究機関国際生態学センター