No. 74
パドルに託した、世界に挑む夢
左から渡邊大規／松下桃太郎選手ペア、大村朱澄選手
～ロンドンオリンピック出場を決めた、海洋センター・クラブ出身のカヌー選手たち～
全国各地に海洋センター艇庫が建設されるようになって30余年。教室や海洋クラブを通じて大勢の子どもたちがカヌーを楽しむようになり、小学生を対象にした日本で唯一の競技会"B&G杯 全国少年少女カヌー大会"も毎年恒例の事業となりました。 このような普及努力を続けた結果、海洋クラブ等で活動する子どもたちのなかから優秀な選手が次々に誕生。今年の夏に開催されるロンドンオリンピックでは、３人の選手が出場することになりました。
現在、海外合宿で調整に励んでいる３選手。注目の人では、日本を離れる前に各選手から話を聞くことができましたので、連載でご紹介します。
プロフィール
- ●大村朱澄（おおむら あすみ）選手
- 平成元年（1989年）生まれ。静岡県川根本町出身。小学2年生でカヌーを始め、全国中学生大会2連覇、高校時代には国体2連覇を達成。昨年のアジアカヌースプリント選手権大会で2位に入り、ロンドンオリンピック女子500mカヤックシングル、およびペアの2種目出場を決めた。
- ●松下桃太郎（まつした ももたろう）選手
- 昭和63年（1988年）生まれ。石川県出身。小学3年生のときからカヌーを始め、世界ジュニア選手権大会等で活躍。2006年の日本選手権大会では3種目制覇を達成、2010年アジア大会では200mカヤックシングル、ペアともに日本勢初の金メダルを獲得。ロンドンオリンピックでは渡邊大規選手とともに200mカヤックペアに出場する。
- ●渡邊大規（わたなべ ひろき）選手
- 昭和63年（1988年）生まれ。山梨県出身。小学4年生のときからカヌーを始め、インターハイ、インカレ等で活躍。2007、2008年には日本学生選手権大会カヤックシングル連覇。2008年国体シングル優勝。ロンドンオリンピックでは松下桃太郎選手とともに200mカヤックペアに出場する。
第３話夢を見つけてチャレンジしよう／大村朱澄選手（その３）
広州アジア大会で銀、銅２つのメダルを獲得した大村さん。地元に戻ると「大村朱澄さんを囲む会」が開かれて祝福されました
町役場に広州アジア大会の報告に出向いた小村さん。左の佐藤公敏町長は後援会の会長も務めています
国際大会での活躍
2010年の広州アジア大会や、2011年のロンドンオリンピック・アジア大陸最終予選会といった大きな国際大会が近づいたため、大学を休学してカヌーに専念することを決めた大村さん。
父、敏正さんも、「二束のわらじを履いて、無理をして両方をつぶしてしまったら意味がない。いまはロンドンをめざすべきだろう」と言って背中を押してくれました。
家族の理解を受けて日本代表チームの練習に励むようになった大村さん。休学届けを出した５カ月後の2010年10月には、中国の広州でアジア大会が開催されました。
「ロンドンオリンピックを目指すうえで、広州アジア大会はとても大事な通過点でした。ここでアジアトップレベルの中国勢に勝って世界と戦うオリンピックへ向かいたかったのです」
大村さんは、注目の人NO.63で紹介した北本 忍選手と組んでカヤックペア500mに出場し、ライバルの中国チームと激しいトップ争いを展開。中国に勝つという目標には僅差で及びませんでしたが、銀メダルを獲得して十分な手ごたえをつかむことができました。
また、この種目とは別に、北本選手は得意とするシングル200mで見事に金メダルを獲得。大村さんも４人乗りのカヤックフォア500mで銅メダルを手にする活躍を見せました。
手にした夢
「僅差で優勝を逃してしまい、くやしい思いをしました。ですから、翌年のロンドンオリンピック・アジア大陸最終予選会では、なんとか優勝してオリンピックの出場枠を獲得したいと思いました」
帰国後、次は絶対に勝ちたいと心に刻んで練習を重ねた大村さん。そんな時間はあっという間に過ぎていき、翌年の11月にはイランのテヘランでロンドンオリンピック・アジア大陸最終予選会が開催されました。
この大会は、文字通りオリンピック出場枠をかけたアジア地区の最終戦なので、失敗はできません。大村さんは再び北本選手と組んでペア500ｍに出場するとともに、シングル500mにも挑戦。結果、中国へのリベンジは果たせませんでしたが、両種目とも２位に入る健闘を見せました。
「この大会で１位になれば、文句なくオリンピック出場枠を手にすることができたので残念ではありましたが、１位になった中国の選手がすでに他の大会で出場枠を獲得していたので、２位の私がその権利を得ることになりました」
帰国後の国内審査で、ペアを組んだ北本選手とともに正式にロンドンオリンピック日本代表に選ばれた大村さん。２人で女子カヤックペア、シングルをともに戦う予定です。
「本当なら、１位になってオリンピックを決めたかったところですが、とにかく出場できることになりました。オリンピック出場は子どもの頃から目指してきたことですから、実にうれしいです。
昨年の日本代表選考会で力走する大村選手。子どもの頃に描いたオリンピックの夢が、今年、ロンドンで叶います
また、このような夢を叶えることができたのも、家族や後援会をつくって応援していただいた町の皆さんのおかげです」
練習がきついときもあったものの、辛くてやめたいと思ったことは一度もないという大村さん。それもひとえに、自分を支えてくれる人たちがいたおかげだと語ります。
「カヌーも好きですが、カヌーを通じて出会った人たちも大好きです。夢を追っていろいろな人と出会うことで、自分が成長してきたような気がします」
小学校の卒業文集に「将来はオリンピックに出たい」と記した大村さん。自分もそうであったように、たくさんの子に夢を見つけてチャレンジしてほしいと語っていました。（※松下／渡邊選手ペアに続きます）
写真提供：本川根町役場
