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泳げない子のいない町をめざして 水の事故ゼロを願ってアクアsリズムの普及に力を入れる、明和町B&G海洋センター(群馬県)


明和町B&G海洋センター(群馬県)注目の人
明和町B&G海洋センター
(群馬県)


 平成6年(1994年)開設。保有施設は温水プール。児童公園やテニスコートなどを設けた「ふるさと公園」内に位置し、年間利用は少ない年で7万人弱、多い年で9万人以上を記録。平成9年にアクアリズムのモデルセンター指定を受け、以後、積極的に同プロラムを推進。平成17年にはプール外壁、館内塗装の修繕を実施した。


 関東平野の中央北部に位置し、広々とした土地で盛んに農業が営まれている群馬県明和町。水温む季節になると、かつては用水路などで子どもが溺れてしまう事故が年に1、2回は起きていました。
 ところが、住民の願いが叶って平成6年に海洋センター・プールが開設されると、町のほぼすべての子どもたちが泳ぎを覚えるようになり、あっという間に水の事故がなくなりました。
 どんな子でも4種目泳げるようになった時点で水泳教室を卒業してもらう方針を立て、次々に新しい子の育成に励んでいる同海洋センター。平成9年にはアクアリズムのモデルセンターとして全国に先駆けて同プログラムを導入し、今日に至るまで積極的な運用を続けています。
 今回は、その15年に及ぶプール運営の経緯を、いろいろな角度から関係各位に語っていただきました。

最終話:未来を築くスタッフの輪

ピカピカになっていった床

写真:きれいに掃除されたプール
きれいに掃除されたプール施設。フロアもピカピカに磨かれています

 全国にさきがけてアクアリズムを導入するなどして、毎年、常に高いプール利用率を記録し続けている明和町B&G海洋センター。その積極的な施設運営を支えているのは、正職員と年間契約の臨時職員で構成されている、スタッフの皆さんの努力にほかありません。

 「海洋センターのプールが多くの人の利用で賑わっているのは、ひとえにスタッフのおかげです。誰もが自分たちの仕事にやりがいを感じながら、この施設を大事にしてくれており、そんな気持ちが利用者に通じて施設が活気にあふれています」と、元センター所長の金子春江さん。

 多い年には10万人近い利用者を数えて、うれしい悲鳴を上げている同海洋センター。しかし、仕事の現場ではスタッフの連携を図る上で苦労もありました。

写真:道具を片付ける大学生
取材当日(平日の午後)は、大学生もアクアリズムの手伝いに励んでいました

 「床やマットを見てください。いまはピカピカに磨かれていますが、開設当初は十分な掃除ができていませんでした。『皆で力を合わせて施設をきれいにしましょう』と声を掛けていたのですが、なかなか思うように事が進まなかったのです。

 つまり、『皆でしましょう』は、聞こえはいいのですが、責任の所在があいまいになってしまうのです。そこで、施設の場所ごとに掃除担当を割り当て、各々のスタッフに責任を持って掃除してもらうようにしました。

 すると、皆、競うように自分の担当場所をきれいにするようになり、いつも施設内がピカピカに磨かれるようになりました。自分の領域を持つと、誰もが責任を感じるようになって仕事に熱心になるのです」

 ちょっとした工夫で職場の雰囲気を変えることがでる。掃除の件でそのことを痛感した金子さんは、さらに仕事の環境をより良いものに変えてく知恵を出していきました。

2ヵ月で変わる仕事の内容

写真:ゴミ箱
ゴミ箱に貼られた、ていねいな手作りPOP(案内チラシ)。施設を大切に扱うスタッフの愛情が感じられます

写真:手描きサンタクロースの案内板
クリスマスのイベントに向けて、サンタクロースをあしらった案内板も作成中でした。スタッフの思い入れが伝わってきます

 「私たちの海洋センターで行っている各水泳教室は、どれも2ヵ月ごとに昇級試験を行ってクラスを編成し直していますので、そのたびに生徒は異なる先生に付くことになります。ですから、1人の生徒がずっと同じ先生に見てもらうことはありません。このやり方も、スタッフのモチベーションを上げるために役立ちました。

 いくら熱心なスタッフでも、初心者ばかり教えていたら、いずれ仕事に飽きてしまいますが、2ヵ月ごとに教える内容が変われば自ずと気持ちを入れ替えます。また、教室の組み換えで、ほかのスタッフが育てた子を引き継ぐわけですから、自分の番になったところで指導をおろそかにしてはいけないという気持ちが生まれ、仕事に対する意欲が高まります」

 こうすることで、スタッフの誰もが指導に熱心になっていったと語る金子さん。しかも、一人一人がさまざまなクラスを教える必要があるため、スタッフ全員に幅の広いスキルが身に付いていきました。

現場を支える高い意識

 スキルを身に付ける努力は、指導者としてのキャリアの評価につながっていきました。

 「役場の臨時職員の多くは正職員と同じように定時の仕事をこなしていますが、海洋センターで働く臨時職員のスタッフは、人によって働く時間が異なります。その理由の1つは、主婦や学生などでも空いた時間に自分のキャリアを生かしてもらいからです。主婦の指導者なら平日の午後、学生なら土日などといった具合に働いてもらっています。

 また、初心者の臨時職員は短い時間しか働いてもらっておらず、キャリアを積んでベテランになるほど長い時間働いてもらっています。つまり、経験を積んでスキルを身に付けるほどに仕事の時間が増えて収入もアップしていきます」

写真:海洋センター前の保護者と子どもたち
アクアリズムが終わって子どもたちを迎えにきた保護者の皆さん。海洋センターは地域コミュニティの場として利用され続けています

 キャリアやスキルに応じて働く時間が決まることで、ベテラン指導員としての自覚を身に付けてもらうようにしたと語る金子さん。このようなシステムにしたことで、スタッフのモチベーションが上がっていきました。現在、15名の臨時職員がスタッフとして登録されており、勤務シフトの組み合わせによって充実した教室活動が展開されています。

 「指定管理者に運営を委ねる公共施設が増えていますが、私たちの海洋センターでは臨時職員の皆さんによって十分な指導体制が取られているので、これから先も自前で運営していくと思います」

 全スタッフがAED(自動体外式除細動器)講習を受けて、万が一の事態に備えているそうで、現場で働く人の高い意識が、なによりの財産であると語る金子さん。泳げない子のいない町をめざす活動の輪は、そんな頼れるスタッフのもとで、しっかりと未来に受け継がれていくことでしょう。 (※完)