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水中運動で、生活習慣病にさようなら!

私たちのからだは原始人

語り:石井 馨先生(いしい かおる)先生

石井 馨先生  ■プロフィール
 

1979年、愛知医科大学医学部卒業。同年、浜松医科大学外科入局。1985年、豊川いそ病院副院長。1988年、聖隷浜松病院内科勤務。1992年、医療法人社団しずや会石井医院(実家)勤務。1994年、医療法人社団しずや会「ウェルビーング・ポチ」開業。資格:日本体育協会認定スポーツ医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本体力医学会認定健康科学アドバイザー、健康測定医、心理相談員など。

 

 水中運動は腰痛や関節痛の改善に効果があるとされていますが、最近では生活習慣病の予防という見地からも水中運動に注目する医師が出てくるようになりました。静岡県浜松市で内科医院を営む石井 馨先生もその1人。平成6年に、プールを備えた「ウェルビーング・ポチ」という会員制の疾病予防施設を自費で建設し、現在、多くの患者さんたちに水中運動を中心にしたプログラムを提供しながら、生活習慣病の予防に励んでいます。
 今回は、そんな石井先生の活動の様子を連載で紹介していきます。


浮力と水圧の効果
適切な運動
腰の高さの水深で歩行運動を行う
会員さんたち
 
 会員制の運動療法施設「ウェルビーイング・ポチ」(医療法42条施設)を建設し、生活習慣病を予防する有酸素運動プログラムを手掛けるようになった石井先生。前回に紹介した女性会員(50歳代女性/肥満・高脂血症)の例を見て分かるように、有酸素運動プログラムの効果ははっきり表れるようになりました。からだに無理のないプログラムを9ヵ月続けた結果、体重が5.5kg下がる一方、ウエストは17.5cm、ヒップも6.6cmも減少。減量の効果もさることながら、実にプロポーションのよい体形を取り戻すことができました。

 「体重の変化に比べてウエストやヒップの変化が著しいのは、余計な脂肪分が燃やされる一方、プログラムの履行によって必要な筋肉がついた結果です。脂肪が減っても筋肉がつくため劇的に体重が下がることはないのですが、ウエストやヒップが引き締まってプロポーションのよい体形になっていきます。
 しかもこの女性会員は、からだがシェイプアップされていくのに伴って血圧が下がるようになり、高脂血症の薬を服用する必要がなくなっていきました」

 筋肉を鍛えるためなら、ウエイトリフティングのようなハードな無酸素運動が適しています。息が切れない程度の脈拍を維持する緩やかな有酸素運動を続けることで、なぜ自然に筋肉が鍛えられてしまうでのでしょうか。それは、石井先生が考えたプールを使った水中運動メニューに秘密があるようです。

 「水中運動には、さまざまな利点があります。まずは、浮力が使えるために肥満症で体が重い人でも関節に無理な負担を与えることなく、いろいろな運動を行えます。ちなみに、腰まで水につかれば体重は約半分に下がります。また、水につかっていることで体温を保とうと、からだが熱を放出するため、陸と同じ運動メニューでもより多くのカロリーを消費することができます。しかも、からだが水圧に耐えようと反発し続けるので、知らずのうちにからだ中の筋肉がバランスよく鍛えられます」

 陸の運動では得られない、浮力と水圧の効果。石井先生のもとに通う会員には、それぞれに適した水中運動プログラムが組まれますが、基本的には腰まで水につかった状態で前後歩行や横歩行、そして蹴り上げながらの歩行などをリズミカルに行い、その後、水の抵抗を利用しながら水中にしゃがんでスクワットなどを行います。有酸素運動ということで、心拍数を維持しながらゆっくりとメニューが消化されていくため、1回で約60分ほどの時間を要しますが、筋肉痛になったり疲れてヘトヘトになったりすることはありません。

 「単に水中運動だけを考えたらプールなどは必要なく、水槽にウォーキングマシンを置いたような水中トレッドミルというマシンを使えばいいのですが、長い時間、水槽の中でからだを動かしていたら飽きてしまいます。そもそも、運動嫌いがもとで肥満症や生活習慣病を患う人が多いわけですから、自由にからだを動かすことができるプールをつくって、楽しく運動できる環境を整えたのです」

 それでも、通い切れずにやめてしまう会員も出てきます。有酸素運動を続けることの意味を、個々がしっかり理解する必要もあるそうです。

 たった3秒しかない美食の歴史

ジャグジー
プールの奥には運動後の緊張をほぐす
ジャクジーも用意されています

 いくら熱心に有酸素運動に取り組んでも、食生活に問題があるようでは元気なからだを作ることはできません。施設を開設するにあたり、石井先生は臨床検査技士でもある妹さんに理解を求め、栄養士の資格を取ってもらいました。一緒に施設の運営に携わってもらいながら、会員の食事指導をするためです。

 「入会の際、過去3日間の食事内容を用紙に書いてもらい、食生活に偏りがあるかどうかを調べたうえで、どのような食事の指導をすべきか考えます。ただし、食生活は一種の習慣ですから、いきなり理想を掲げてもなかなかうまくいきません。無理をせずに、実現可能なことから始めてもらいます」

 石井先生姉妹が考えた食事指導の原則は、無理なダイエットはしないことでした。会員には、適切なカロリーに沿って3食しっかり食事をとってもらいます。

 「まめにからだを動かし、ちゃんとした食事をとっていれば、ほとんどの人が生活習慣病に悩まされることはありません。逆に、無理なダイエットはからだを壊す一因となりかねません。なぜなら、急激な食事制限をして体重が減ったとしても、それは骨と筋肉が減っただけだというケースが多いからです。便利な現代社会に慣れてしまったためか、病気になっても楽をして治したいとか、太ってしまっても楽をして痩せたいと思う人が増えてしまいました。ところが、その副産物として生活習慣病で苦しむ人も増えているのです」

 最近では、痩せていても体脂肪率が高い人がたくさんいます。太っているか痩せているかだけが問題ではありません。健康なからだ、元気なからだこそが本来、求められることなのです。生活習慣病は現代の病と言われていますが、私たちは人間の食生活を原点に戻って考えてみる必要に迫られているのではないでしょうか。

ダイニング
施設内には食事指導が行える
ダイニングも設けられています
    「文明の発達とともに、私たち人類はとても欲張りな生活を身につけてしまいました。さほどからだを動かさなくても暮していける社会をつくりながら、高カロリーの食べ物をたくさん生み出してしまったのです。言い換えれば、現代は当たり前に暮しているだけで運動不足になったりカロリーオーバーになったりすることもあるわけで、それが過ぎると生活習慣病で苦しむようになるのです。人類が誕生してから現在に至るまでを24時間とした場合、いま私たちが享受している食生活は23時間59分57秒後から起きていると言われています。

 つまり、23時間59分57秒間、人類はずっと粗食に耐えてきたのです。これはなにを物語っているかと言えば、からだの仕組みが原始時代とほとんど変わっていないのに、食生活ばかりが激変したということです。粗食に耐えられるはずなのに、カロリーオーバーや運動不足によって自分たちのからだを痛めつけている。それが多くの現代人の姿なのです」

 プールを使った有酸素運動と適切な食事の指導。この2つの要素をバランスよく取り入れたプログラムの評判は口コミで地域に広まり、開設当初は10名たらずだった会員も、いまでは500名を数えるようになりました。

  「それでも、経営はたいへんです」と石井先生。現在の法律では、施設の利用にあたって健康保険が使えないので、料金を低く抑えなければ会員に無理を強いることになってしまいます。しかも通年型のプールですから維持費もかさみます。安定した施設の運営をめざして、石井先生の奮闘はまだまだ続きます。 (※続きます)

 
 


第2話 続く 最終話

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