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語り:斎藤 実(さいとう みのる)さん

■プロフィール
1934年、東京浅草生まれ。学生時代は登山に魅せられたが、38歳でヨットに出会って以来、自分の居場所は海であると悟る。仕事においては、大学進学を断念して傾きかけた家業のガソリンスタンド経営に専念。家族経営の規模だった事業を、従業員30名の石油ディーラーにのしあげた。50歳で仕事を引退。それまでに蓄えた資金で外洋ヨットレースにすべてを賭け、1988年から外洋ヨットレースの頂点とされるアラウンドアローンに参戦。1998年の同レースでは65歳で最高年齢完走記録を樹立。今年には、71歳にして単独無寄港世界一周の最高年齢記録を達成した。


単独無寄港世界一周(東回り)出航前
ボランティアの方々との記念撮影
 過酷な外洋ヨットレースを戦い抜いてきた斉藤さんではありますが、ヨットが持つ本来の魅力は海を旅することにあって、それは誰もが叶えられる楽しい夢であると言います。
 「日本は、まわりを海に囲まれていて、よその国へ行くためには高いチケットを買って船か飛行機に乗らなければなりません。ところが、ヨットを使えば運賃なんて要らないし、ホテルに泊まる必要もありません。お金をほとんど使わずにいろいろな国に行くことができるのです」
 しかしながら、ヨットで外洋に出るためには、それなりの操船技術が必要なうえ、勇気も試されます。
 「ヨットの腕を磨く一番の方法は、ディンギーに乗ることです。ディンギーにはエンジンがついていませんから、沖からハーバーに戻って陸に上がるまで、すべて風に頼らなければなりません。そのため、ディンギーに乗っていると知らないうちに風を読む力が養われるのです。風が読めるようになると、たとえ台風に遭遇しても怖くありません。怖いのは波なのです。いくら強い風に当たっても、それだけでヨットが壊れることはありませんが、大きな波はヨットを倒し、マストを折ってしまいます。ですから、荒れた海では波をよく見ながら舵を切ることが求められます。その腕が身つけば、世界のどこにでも自由に行くことができます。内陸の国とは異なり、幸いにも日本は四方を海に囲まれた島国ですから、誰でも簡単に海に出ることができます。しかも、ヨットの旅にお金はあまり必要ありません。実際、ヨットに乗って日本から海外に船出する人の多くは、あまりお金を持っていない若者が多く、ヨットといっても小さくて安価なヨットです。3人ならケンカも起きますが、4人なら楽しい旅ができるのではないでしょうか」
 ヨットの旅は時間がかかりますが、それも楽しさの1つだと斉藤さんは言います。

単独無寄港世界一周(東回り)へ出航する
愛艇“酒呑童子II"

 「確かに小さなヨットなら、オーストラリアへ行くにも40、50日はかかるでしょう。でも、小笠原やグアム、フィジーと、途中の島に立ち寄りながらマイペースで行けばいいんです。飛行機で飛んで行ってしまうより、いろいろ経験できて実に楽しいと思います。一般の海外旅行では1週間とか10日のスケジュールが多いようですが、思い切って2年、3年の休みを取って、のんびり行けばいいのです」
 その長い休暇が取れるかどうかが問題ですが、ヨットで世界に船出する人を見ると、アルバイトで資金を貯めて若いうちに夢を叶えてしまうケースのほか、コツコツと資金を貯めながらディンギーなどに乗って体力を蓄え、定年と同時に夢を実現させるケースも多いそうです。斎藤さんも38歳になってからヨットを覚え、53歳で世界に羽ばたきました。
 「ヨットで旅をすると、港へ着くたびに自分で入港の手続きを済ませ、次の旅の準備を整えなければなりませんから、否応にも現地の人との交流が生まれ、そこからたくさんの友人ができます。1週間、10日のパッケージツアーではとうてい体験することのできない、さまざまな出会いが港に着くたびに待ち構えているわけです。たった一度の人生です。ヨットの操船を身につけたら、ぜひ一度は広くて大きな海を自由に走り回ってみてください。日本という小さな島国を離れ、世界をまわって見聞を広めるのです。それは実に楽しい冒険です」




 寄港地における人との触れ合いに加え、ヨットの旅では海の上でもすばらしい体験を得ることができます。
 「航海中には、実にさまざまな自然の姿に触れ合うことができます。渡り鳥がデッキに下りてきて翼を休めることもよくあり、海ツバメが私の肩に止まって、ジッとこちらの顔を覗き込んだこともありました。もちろん、イルカともよく出会います。彼らは大海原でヨットを見つけると近寄ってきて、並んで走ってくれるのです。声を掛けるとジャンプしてくれることもあり、実に楽しいひとときを演出してくれます。水族館で見るよりも、ずっと近くで見ることができるイルカたち。しかも、彼らは野生なのですから感激します。1995年のアラウンドアローンが終わって日本に帰るときなどは、インド洋の真ん中で30〜40頭のイルカが一列に並んで、一斉にジャンプしてくれたこともありました。」
 はるか陸地を離れた大海原は、想像以上に美しいと斉藤さん。世界の海の姿を、より多くの人に知ってもらいたいと言います。
 「大海原で起きるグリーンフラッシュという自然現象を知っていますか?これは、まったく風がない静かな海で、雲1つない西の空に夕陽が沈む一瞬、グリーンの閃光があたり一面に飛び散る現象です。もちろん、めったに起きることはなく、以前に、ある旅行会社がハワイでグリーンフラッシュを見ようというツアーを企画したことがありましたが、誰も目にすることができなかったそうです。1週間や10日ぐらいの航海ではまず見ることはなく、私も今回の単独無寄港世界一周では1回も目にすることはありませんでした。オーロラを見るよりはるかに難しい自然現象です」
 世界一周に出ても見られないことがある、グリーンフラッシュ。海には、まだまだ不思議なことがたくさんあるようですが、そんな海に対して斉藤さんは1つの不安を抱いています。
「ここ20年近くにわたり、私は世界をまわって日本に帰ってくることを何度も繰り返してきましたが、帰るたびにコンクリートの海岸線が増えていることに気づきました。しばらく見ていないと、その間の変化が良く分かるのです。護岸も必要なところは仕方がありませんが、そろそろ開発に歯止めをかけてもいいのではないでしょうか。すでに、お金をかけて自然の海岸を守ろうとしている国がたくさん出てきているのですから、日本も発想を転換する時期に来ているのではないかと思います。1987年にシドニーへ行った際、ちょうど建国記念日だということで、周辺の各マリーナ、ヨットクラブの人たちが一斉に海岸線を掃除していました。いま、この運動はオーストラリア全土に広がっているそうです。日本にも海の日があるのですから、この日ぐらいは日本全土の海岸線を皆で一斉に掃除しても良いのではないかと思います」

江の島海洋クラブ 松本会長(中央)
B&G財団 広渡専務理事(右)船上にて

 海の上では大きな声を出し、メガネもかけない斎藤さんですが、日本に戻ると決まって喉を痛め、新聞の小さな字もメガネがないと読めなくなってしまうそうです。
 「おそらく、きれいな空気のところから汚れた空気のところへ、いきなり来るからだと思います。逆に言えば、それだけ海の上はきれいなのです。ただし日本の場合、東京湾や大阪湾は論外だとしても、相模湾や駿河湾といった郊外の海でもかなり汚れを感じます。なぜ海が汚れるのかといえば、それは多くの人が海の大切さを実感していないからに他ありません。海に出る人がたくさんいて、海の大切さが周知されていれば、海が汚れるはずがないのです」
 海洋国家であるかどうかは、その国の海岸を見れば分かると斉藤さん。日本も、海洋国家の名に恥じないよう、美しい海をしっかり守っていかねばなないと語っていました。





※12月28日、1月4日の「注目の人」はお休みいたします。※




第2話  

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