本文へ 財団法人ブルーシー・アンド・グリーンランド財団 サイトマップ
HOME B&G財団とは プレスリリース イベント情報 全国のB&G リンク集
各種事業/活動記録
平成19年度「帆船研修(指導者フォローアップ事業)」を実施!
 〜帆船での航海と船内研修を通じて、指導者の知識・資質の向上を目指す〜

■世界最大級の帆船 『海王丸』でフォローアップ研修

  10月22日(月)から25日(木)までの4日間、世界最大級の帆船『海王丸』で、指導者フォローアップ研修が行われました 。

 今回の研修は、帆船での航海と船内研修を通じて、海・船の素晴らしさを改めて理解するとともに、指導者の知識・資質を向上させることを目的としており、(財)海技教育財団の協力を得て『海王丸』体験航海に研修生として乗船しての実施となりました 。

 この航海では、未来の船長・機関長を志す実習生とともに乗船し、実習訓練の一部や船内生活を体験。今回は、全国に5校ある商船高等専門学校から集まった実習生81名と一緒に函館港〜大洗港の3泊4日のコースを航海しました。

 全国の海洋センター・海洋クラブから参加した指導者は18名で、「登しょう訓練」、「操帆訓練」などの貴重な体験を通して、数多くのことを学びました。
海王丸(10月22日函館港にて)

■帆船最高の儀式「登しょう礼」 10月22日(1日目)

 22日(月)10時30分、参加者18名は函館港西埠頭・海王丸タラップ前に集合、すぐに海王丸に乗り込みました。乗船後、用意された作業服、登しょう帽に着替えを済ませ、後部甲板に整列。11時20分から乗船式に臨みました。乗船式では、海王丸の雨宮船長、下川機関長から歓迎の挨拶をいただきました。参加者の気持ちは引き締まり、緊張感が漂う中、研修がスタートしました。

 昼食後、13時から函館市主催の歓送式があり、函館市西尾市長をはじめ、約500名の市民がこの式典に参加、出航の見送りに来てくれました。式典終了後、「登しょう礼」の号令が
かかり、実習生全員が一斉に4本のマストに登り始めました。帆船最高の儀式である「登しょう礼」で函館港に別れを告げます。

函館市主催の歓送式で挨拶する『海王丸』の雨宮船長

 実習生はそれぞれのマストを一気に登り、ロイヤルヤードからロワーヤードまでの6本の帆桁に次から次へと渡っていきます。ヤードの一番高い部分は約50mにもなります。実習生全員がそれぞれの持ち場に立ち、合図にあわせて“右向け右”、見送り方々に顔を向けます。次の合図で登しょう帽を胸に当てた後、登しょう帽を右上にかざします。

 続いて、船首バウスプリットの先端に立っていた実習生が振り返り、マストに乗っている実習生全員に向け“ごきげんよう”と大きな声で叫びます。それを受けて、全員で“ごきげんよう”と見送りの方々にお別れの挨拶をします。これを3度繰り返し「登しょう礼」が終わりました。見送りの方々からは大きな拍手が沸きあがっていました。

 われわれ研修生は、この様子を船橋上部のコンパスブリッジから見学させてもらいましたが、「登しょう礼」の迫力に全員圧倒されました。

登しょう帽を右上にかざし“ごきげんよう”と函館港に別れを告げます

 その後、研修生は教室に移動。日課説明・諸当番説明、航海概要説明について講義を受けた後、ベットメイキング・居室整理を行い、16時30分から夕食となりました。夕食後のミーティングでは、研修生1人ずつ、この帆船研修に参加した動機や抱負などについて話しました 。

 19時45分。1日の課業の最後は「巡検諸当番」。居室、通路、階段、洗面所、トイレ、浴室など各自割り当てられた清掃箇所を実習生と研修生がいっしょになって掃除します。20時から教官による巡検が行われ、合格すれば課業終了となります。巡検終了後、研修生は再度教室に集合し、担当教官から翌日の日課説明を受け、1日目は終了となりました。



乗船式で船長から歓迎の挨拶。参加者の気持ちが引き締まります
大勢の見送りの方々が見守る中、実習生たちは、素手素足で次々にマストを登っていきます
高さ30mのヤードに立ち、「登しょう礼」をする実習生たち。迫力があります


■期待と不安の「登しょう訓練」 10月23日(2日目)

 6時30分起床、6時35分に整列・点呼、体操をして、6時45分から朝食前の一仕事であるターンツー(turn to)を行いました。この日のターンツーは椰子の実を使ったデッキウォッシュ。裸足になり約100mの長い甲板を「ワッショイ、ワッショイ」と掛け声をかけながら全員で磨きました。朝食前の一仕事とはいうものの、ハードな一仕事に、かなりへばっている研修生もいました 。

 8時30分に課業整列。この日、最初の課業は「帆走ギアの取扱要領説明」。コイルアップ、コイルダウン、ロープの引き方、号令について教えてもらいました。基本的な号令として、“スタンバイ(stand by)―作業用意”・“ホールタイ(haul tight)―引け”・“イーズアウェイ(ease away)―のばせ”・“レッゴー(let go)―放せ”・“ビレイ(belay)―留めろ”などがあります 。

 9時30分からは「登しょう訓練(1)」。シュラウドと呼ばれる縄梯子を登り、メインマストの高さ20mのトップボードまで登ります。教官から、安全ベルトの装着方法、3点支持による登り方などについて、すべて見本を見せてもらいながら、わかりやすく教えてもらいました。途中、教官が失敗例の見本を見せると、“あっ”と驚き、研修生全員に緊張がはしる場面もありました。

 いよいよ登しょう開始。研修生は期待と不安をつのらせながら、素手素足でシュラウド(縄梯子)を登り始めます。安全ベルトは装着しているものの、これはヤード(帆桁)を渡るときに使用するので、マストを登るときには基本的には使いません。自分の両手両足だけで登っていきます。

教官から手をかける位置、足を置く位置など、適宜アドバイスをもらいながら、シュラウドを登っていきます


 雨宮船長が「みなさんは緊張しているので落ちることはありません。自分のペースで登ってください。ただ、徒然草の“高名の木登り”にあるように、降りるとき、あと少しで甲板につくというときには注意してくださいね」とニッコリと笑顔で、やさしく話してくれました。

 研修生は次々にシュラウド(縄梯子)を登ります。トップボードの下まで登り、最後、トップボードにあがるときには、オーバーハングになります。いままでより両手両足の間隔を縮ませ、体をのけぞらせるようにして、片方の手で素早くトップボード上のシュラウド(縄梯子)を掴まなくてはなりません。このときばかりは、手が汗ばんで仕方ありませんでした。

 トップボードまで上がったものの、景色を見る余裕もなくすぐに下降。降りるときは、足の裏にシュラウドがくい込んでかなりの痛さ。痛みに耐えながら、なんとか甲板まで降りました。全員無事に1回目を終えた後、すぐに2回目がスタート。研修生全員1回目よりはスムースに登れるようになりました。

  2回目はトップボードから周りの景色を見ることができました。見渡す限りの青い海、そして青い空、とても清清しい気分になります。ふと真下を見ると、甲板で作業している実習生が小さく見えました。突然、恐怖が襲ってきました。“真下はあまり見ない方がいい”という教訓を得ました。

高さ20m、トップボードからの眺め。作業している実習生が小さく見えます


 昼食後13時に課業整列。課業開始前に雨宮船長から、これから行う操帆訓練の説明を受けました。説明では、現在の状況、今後の気象・海象等を勘案し、当初予定していたフルセールで約3時間の帆走を変更し、10枚のセールだけを展帆し、ヒーブツー(heave to)で大洗沖まで航行するとのこと。乗船前、帆走する時間がもっと長ければいいのにと思っていたので、3時間の帆走予定が22日から24日にかけて3日間の帆走となり、嬉しい限りでした。

 ヒーブツーとは、セールを張ったまま船を動かないようにする帆走テクニック。しかし、ヒーブツーした船が全く動かないわけではなく、木の葉がヒラリヒラリと落ちるような航跡を描きながら風下に進んでいきます。

  船長からの指示を受け、教官(マストオフィサー)の号令により、実習生たちはフォア・メイン・ミズン・ジガーの4本のマストに急ぎ早に分かれていきます。研修生も2班に分かれて、アウタージブ、フォア・ロワートップスルなどの展帆作業を手伝いました。「スタンバイ、アウタージブ・ハリヤード」の号令で準備態勢に入り、「ホールタイ!」の号令で研修生は甲板をロープを持って走り出しました。スルスルと瞬く間に帆が揚がっていきます。



 10枚すべての展帆作業が終わると、海王丸はゆっくりと走り始めました。エンジン音もなくなり、完全に機走から帆走に変わりました。揺れはほとんどありません。展帆された大きな横帆のセールを見ると、どこか大航海時代を彷彿させます。その後、研修生は後部甲板に移動。コンパスの見方を習い、舵輪で海王丸の舵を取らせてもらいました 。

 操帆訓練終了後、16時30分に夕食をとり、17時から「航海当直見学」。船橋に入り、GPSやレーダーを見ながら、航海当直の業務について説明を受けました。その後、制御室・機関室の見学もさせていただきました。

 この日の巡検終了後には、夜の甲板に出て、次席一等航海士の奥教官から夜間航行時の業務や星座のはなし、古代式航海カヌー“ホクレア号”に乗船したときのはなしなど、貴重な体験談を聞くことができました。

ヒーブツー 図解
デッキウォッシュ。かなりきつい朝食前の一仕事になりました
みんなでロープを引いて、セールをあげます
風をはらんだ大きな横帆。大航海時代を彷彿させます


■ やはり“地球は丸かった” 10月24日(3日目)

 3日目、快晴。昨日から引き続き、ヒーブツーでの航海。揺れもほとんどなく実に心地いい気分で朝を迎えました。

 昨日同様、6時30分起床、整列・点呼、体操をして、この日のターンツーは甲板部の真鍮磨きを行いました。朝食を済ませ、8時30分に課業整列。今回の研修で参加者が一番印象に残ったであろう「登しょう訓練(2)〜ゲルンボード〜」「登しょう訓練(3)〜ヤード渡り(ロワートップスルヤード)〜」の課業が始まりました。

 まずは、ゲルンボードへの登しょう。安全ベルトの装着を点検し、5名1組で一気に高さ30mまで登ります。トップボードを超え、ゲルンボードを見上げると、シュラウドが限りなく垂直に見えます。脇目もふれず、ひたすら手足を動かすことにしました 。

 ゲルンボードに到着すると、昨日のトップボードよりも素晴らしい景色が迎えてくれました。360度の大パノラマ。青い海と水平線。改めて“地球は丸い”ということを実感しました。昨日の教訓を忘れ、真下をのぞくと、トップボードより10m以上高い場所なのに、不思議なことにあまり怖さはありません。

  高すぎて恐怖を感じなくなってしまったのだろうか。少し前に目をやると、大きな帆が風をいっぱいにはらんでいます。どこか“海賊”になったような気分になりました。しばらくして、順々にゲルンボードを降りていきます。足の裏の痛みに耐え、甲板に降り立つと迎えの拍手。達成感に満ち溢れ、一人ひとりの満足そうな笑顔がとても印象的でした。

高さ30m、ゲルンボードからの眺め。気持ちはすっかり“海賊”気分!


 続いて「ヤード渡り」です。ゲルンボードまで全員が無事に登れたということで、当初予定していたロワーヤードより1つ高い、ロワートップスルヤードで実施することになりました。

 10名1組になり、ロワートップスルヤードに登ります。トップボードを超えて、ヤードのところまでくると、フットロープに足をかけてヤードに渡ります。完全にヤードに渡った時点で安全ロープを掛けます。その後、フットロープに沿って、カニが歩くように横に足をずらしながら移動していきます。

 10名全員が渡り終えた時点で、全員両足をピンと伸ばし、後方を蹴るようにして、腹をしっかりヤードに乗せ、両足と腹の3点支持で体を固定します。安定したところで、両手を放し、上に挙げると、まるで空を飛んでいるかのようでした。直下にあるセールを触ると、フワフワとしてとても柔らかい。もっとゴワゴワとして硬いものだと思っていたので、とても意外でした。

  真下を見ると、救助ボートと船橋が見えました。そして、自分のいる位置が船と海の境であることに気付きました。安全ロープはしっかりと掛けているものの、万一落ちた場合、果たして船側に落ちるのか、海側に落ちるのかと、つまらないことを考えたとたん、また恐怖が襲ってきました。これ以上ないくらい両足を強く伸ばすものの、ガタガタと震えました。やはり真下はあまり見ない方がいい。
ヤードからの眺め。直下にはセールが!セールはふわりとしていて、とても柔らかい

 
  午後は、まず船内見学。船員居住区、士官サロン、操作室、セール置き場、医務室、レントゲン室、食料庫など、普段なかなか見ることのできない箇所を見学させてもらいました 。

 14時からは船長講座。国内の船員養成機関、外航船員・内航船員の現況や海運業界全体の動向などについて、パワーポイントでわかりやすく説明していただきました。また、“人はなぜマストに登るのか”という問いを全員になげかけ、みんなが頭を悩ませているなか、“安全に航行するために、自分たちの安全を獲得するためにマストに登る”との答えに、研修生全員、深く頷いていました 。

 夕食後の懇談会では、この体験航海に参加した感想、課業や船内生活での疑問などを質問して、船長、機関長をはじめ航海士の方々に直接答えてもらう機会もいただきました 。



トップボードを超え、ゲルンボードを目指します!シュラウドが限りなく垂直に見えます
ヤードに渡り、両手をあげます。気分最高!セールにピンと伸ばした両足の影がくっきり!
船長講座では現在の船員の状況、海運業界の動向など、わかりやすく教えてもらいました。


この体験・感動をたくさんの人に伝えてほしい 10月25日(4日目)

 4日目、最終日。今日の天気も快晴、気持ちのいい朝を迎えました。甲板に出ると、昨日まで張られていた帆がありません。入港が近づき、既に当直の実習生がセールをたたんで(解帆)くれていました。整列・点呼、体操を終え、今日のターンツーはヤードの旋回。解帆を終えた、すべてのヤードを元の位置まで戻します 。

 いつものように教官(マストオフィサー)の号令により、全員が配置につき、“ホールタイ!”の号令で“ワッショイ、ワッショイ”とロープを引く。最終日になって、教官の号令が少し理解できるようになりました 。

 8時30分課業整列後「入港部署見学」。出航時同様、船橋上部のコンパスブリッジから入港作業を見学しました。コンパスブリッジにあがると遠くに大洗港が見えてきました。船長をはじめ、すべてのスタッフが忙しく作業を行っていました 。

 改めて、帆船というものは、全員が協力しなければ安全な航行は不可能であり、教官の厳しい指導の下、実習生が励まし合い、助け合いながら航海を続けていくものだと思いました 。

まもなく大洗港。入港作業の手順説明を受ける実習生たち


 
 大洗港に着岸後、13時から下船式が行われました。雨宮船長から「この海王丸での体験を地元に戻って、たくさんの子どもたちに伝えてほしい。今回の航海のように、皆さんが普段、指導しているヨットやカヌーにも良い風が吹くことを願っています。ごきげんよう」と別れの挨拶をいただきました 。

 続いて、B&G財団広渡専務理事が「本年7月20日に施行された海洋基本法においても、国民に広く海洋についての理解と関心を深める取り組みの必要性が謳われています。このような体験航海を通じて、国民に海洋への関心を高めていただくことが大変重要だと思いますし、われわれB&G財団、海洋センターの役割だと考えます。この海王丸での貴重な経験を地域の子どもたちに伝え、海への関心を高めてもらいたい」と挨拶しました 。

 引き続き、雨宮船長から研修生を代表して北海道滝川海洋センター池田茂樹さんに認定書が授与され、すべての課業が無事終了しました 。


■参加者の感想

  参加者からは

  “ヨットやカヌーを教えている子どもたちに、ぜひ海王丸を見せてあげたい”

  “帆船にはロマンや夢を与える力があると思う。この経験をたくさんの人に伝え、1人でも多くの人にこの体験をしてもらいたい”

  との感想が数多く聞かれました。

 
  こうして、3泊4日の充実した航海を終え、この日の快晴の天気と同様、参加者は晴々とした表情で海王丸を下船していきました。



教官から入港作業の手順説明を受ける研修生
下船式で挨拶をされる『海王丸』」雨宮船長
下船式で挨拶するB&G財団広渡専務理事


 来年度もこの帆船研修を実施する予定です。海洋センター・海洋クラブの指導者の皆さん、ぜひ乗船してみませんか。きっと素晴らしい感動・体験が待っていると思います



集合写真
研修を無事終了し、満足そうな笑顔の参加者